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悲惨な物語が流行り始めた理由

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最近、曽根富美子さんの漫画『親なるもの 断崖』が、ネットで話題となり、電子書籍のランキングに入り、紙版も復刻された。なぜこの本が話題になったのか。それは、あまりにも悲惨な話だったからだろう。今までも遊郭が舞台のマンガは色々あった。けれど、それらには、花魁が舞い、お金持ちの旦那が客につくというような、華やかさがあったと思う。しかし「親なるもの 断崖」はそうではなかった。これでもかというほどの底辺の残酷さが、登場人物に襲いかかるのだ。

悲惨設定と臨場感

『親なるもの 断崖』で特筆すべきは、美しくないから遊女になれず、下働きをさせられている道子という存在だ。彼女はどうしても遊女になりたくて、自ら志願して最も低価格の置き場に身を落とす。そこは安くで女と遊べるところなので、余りお金がなさそうな男達が客である。そこで道子は彼らに尽くし、精一杯の花を咲かすのだ。昔の室蘭の遊郭、という設定が、もしかしたらこのような女性が本当にいたのかもしれないと、想像をかきたてられてしまう。

実は私も『男おいらん』という小説を書いた。貧しい美少年が、男遊郭に売られ、泣く泣く客を取らされるというやはり悲惨な内容である。そんな姿の主人公の前に、ある日、昔の幼なじみの男が客として現れ、衝撃の再会をする。幼なじみは必死に逃がそうとするけれど、それを主人公自身が拒む。実家に迷惑がかかるからだ。男遊郭は史実にはないのだけれど、でも、よく「本当にあった話なのではないですか」と聞かれる。男おいらんは舞台やコミックにもなった。最近、こうした哀しい物語が好まれるようになってきたと感じている。

ネットで好まれるディープな物語

かつて流行った電子系読み物としては、ケータイ小説がある。それもまた、クスリやレイプや援助交際など、社会の闇をテーマとしたものが少なくなかった。人は、闇を覗きたがる。それは自分が関わることがないであろう別世界だからだ。そしてそういったディープな設定の読み物は、ネットで好んで読まれる。スマホの画面は非常にプライベート感があるため、知人の哀しい身の上話を読んでいるかのような臨場感が味わえるからだと思う。

電子小説黎明期の頃、ケータイ小説やスマホでよくダウンロードされた女性向け読み物は、官能小説であった。こっそりベッドで読むのにふさわしい内容だからだろう。インターネットの世界でもそうだったけれど、官能的な内容というものは、ネットで閲覧されやすい。昨年流行したTLと呼ばれる、お姫様がヒロインのラブロマンスが中心の官能的読み物も、その一種であると言える。しかし現在それはかなりの飽和状態で、女性達も他にも何か読み物はないだろうかと探し始めていた。そこで目に止まったのが、こうした悲惨な設定なのではないだろうか。

共通のテーマは貧困と風俗

先日は『断罪』(岡村えり子・著/カノン・クリエイティブ・刊)というマンガを読んだ。そちらは現代社会における悲惨が描かれている。時代によって、闇は姿を変える。現代には遊郭は廃止されて存在していない。その代わり、女性達はパートナーからのDVに悩み、借金がかさむことに怯え、子どもを虐待してしまうことに苦しんでいる。

このマンガと『親なるもの 断崖』を比較すると非常に興味深い。『断崖』には、家が貧しいがために遊女に売られる女性がいた。そして『断罪』のほうには、カードの借金がかさみ、もはや風俗勤めしかないのかもと追いつめられる女性がいた。どちらも貧困と風俗が出てくるが、その対処のしかたは時代によって随分違うものなのだ。

官能の次に求められたもの

しかし『親なるもの 断崖』も『断罪』も官能的描写はかなり少ない。その代わりにこれでもかというほどに次々と悲惨なエピソードが襲いかかる。昨年までのTLブームで描かれていた中には悲話もあったが、それは主に王子様や大富豪など、現実とはかけ離れた相手との夢物語であった。これらの反動で、日本が舞台の、リアルな話が好まれ始めているのかもしれない。

そういえば『断罪』では妻から夫へのDVも取り上げられていた。最近このパターンが増えているのだとか。こうした新しいタイプの悲惨も加わり、パターンはさらに増えていきそうだ。この悲話人気、まだまだ始まったばかりのような気がしてならない。

(文・内藤みか)

断罪

著者:岡村えり子
出版社:カノン・クリエイティブ
母親に置き去りにされた幼い娘を預かることにした私。棄てられてもなお母を想い慕う娘だが、少女を待っていたのは悲しくて惨い運命だった――。虐待をテーマに描いた表題作の他、第三者には窺い知れない夫婦間DVを描いた「茨の檻」など全4作品を収録。

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