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テレビのニュースが信じられなくなってきた理由

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テレビが政治をどのように報じるかについて、皆々が敏感になってきた。「政権に不利な報道ばかりだ」と凄む層と、「政権に言われるがままの内容なんて報道とは呼ばない」と凄む層がぶつかり合っている。無論、後者に賛同する。

号泣議員の会見を優先するべきだったのか

水嶋宏明『内側から見たテレビ やらせ・捏造・情報操作の構造』(朝日新聞出版・刊)は、長年、テレビの報道現場でドキュメンタリー制作を重ねてきた著者が、今のテレビ業界に横たわる構造的な問題を問うた一冊。とりわけ、政治にまつわる報道の差異に向かう指摘が鋭い。

このところ、安保法制についての議論が盛んに報じられたが、閣議決定が成されていたのは昨年夏のこと。当時もそれなりに大きく報じられてはいたが、その時のワイドショーでは、とある他のニュースがメインを張っていた。そのニュースとは、兵庫県議会議員の号泣会見。もはや懐かしい存在だが、彼の号泣っぷりは繰り返し見させられても面白く、視聴者を確かに病み付きにしていた。しかし、今振り返ってみて、彼がなぜ号泣していたのかを正確に言い当てられる人は少ないのではないか。政務活動費の不正使用は決して許されるべきものではないが、あのインパクトある映像を選んだがあまり、集団的自衛権閣議決定の議論が薄らいでしまったのだからまったく笑えない。

テレビ局の作り出す主張に誘導されていく

著者は「面白映像に飛びつき、そのニュースが本来持つ意味や重要性を意識せず、軽重を問わない」ことを問題する。報じる、報じないという○×の判断だけではない。報じ方にも問題が多くある。消費税が8%に上がってから1ヶ月後、NHKのニュースでは、「大手企業の多くは今のところ想定内」「販売の落ち込みは駆け込み需要の反動による一時的なもの」「三越銀座店は増税後の4月も売り上げが落ちず」と、ポジティブな反応を並べた。しかし、これは、企業側が発表した数字をもとにニュースを作っただけにすぎず、増税によって社会全体へどのような影響が生じるのかという視点が欠けていた、と指摘する。

日本テレビの『news every.サタデー』では、憲法記念日に「憲法改正めぐり〝賛成派〟と〝反対派〟が集会」というタイトルでニュースを報じた。本来は「改憲派」と「護憲派」であるわけだが、憲法改正を軸にして「賛成」か「反対」と見せれば、人はどうしても「賛成」にポジティブな印象を持つ。こういった作為が積もると、人は知らぬ間に、テレビ局の作り出す主張に誘導されていく。

詳しく伝えてはいけないはずの自殺報道

本書の指摘で驚いたのは、日本のテレビで慣例化している自殺報道が、WHO(世界保健機構)が定めるところの「自殺報道のガイドライン」にことごとく違反しているということ。このガイドラインでは報道関係者が自殺を扱う際の「クイック・リファレンス」として11項目が挙げられており、「自殺既遂や未遂に用いられた手段を詳しく伝えない」「自殺既遂や未遂の生じた場所について、詳しい情報を伝えない」などが並んでいる。これが殆ど守られてなどいないことは、日頃のニュースを見る私たち自身にもそれぞれ実感としてあるだろう。

「テレビはしょせんマスゴミですよね」「テレビは何かを煽る道具でしょう?」……これらは本書の著者が学生から受けた質問の一例である。テレビは確かに多くの問題点を抱えているが、シンプルなネガティブイメージで片すのはいただけない。そのためには、ひとつひとつのニュースの作りを、或いはシステムを、精査していく審美眼が求められる。「どうせテレビなんて」でも、「テレビがこう言っているんだから」でもなく、その都度しつこく問い質す姿勢が問われている。

(文:武田砂鉄)

内側から見たテレビ やらせ・捏造・情報操作の構造

著者:水島宏明
出版社:朝日新聞出版
テレビはかつて「びっくり箱」だった。そこには驚きがあり、興奮があった。しかし、いまやテレビは捏造、ヤラセ、偏見のオンパレード。なぜ、かくもテレビは劣化してしまったのか? その構造的問題を浮き彫りにし、テレビに騙されないための知識を伝授。

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