自作のプロペラ機で空を飛ぶ「ホームビルダー」という趣味がある

趣味を見つけると人生が楽しくなる。仕事や勉強が退屈でも、好きな趣味があれば生きていく理由になる。読書や映画鑑賞やスポーツなどが趣味の定番だが、わたしたちの想像もつかないことに熱中している人たちがいる。
小型のプロペラ飛行機を自作する人たち
『ニッポン超越マニア大全』(北尾トロ・著/イースト・プレス・刊)は、わたしたちの想像をはるかに上回るマニアックな趣味人たちを紹介している。
日本に、趣味で飛行機を自作している人達がいることをご存じだろうか。小型ドローンやラジコン飛行機ではなく、プロペラとエンジンを搭載した1人乗り用の小型飛行機を作って、みずから操縦して、空を飛ぶところまでをやる。
東京都武蔵村山市の藤田恒治さんは、自作飛行機マニアだ。これまで10機以上を手がけた。
藤田さんが製作しているのは「ウルトラライトプレーン(超軽量動力機)」というジャンルの1人乗り小型飛行機。試験飛行扱いになるため、自作機に乗るには免許がいらないという(ただし、航空局への申請と許可は必要)。
(『ニッポン超越マニア大全』から引用)
飛行機の自作は、アメリカでは「ホームビルダー」と呼ばれている趣味であり、愛好家のための組み立てキットが市販されている。日本にいる藤田さんは、それを輸入して、カスタマイズしたフォルクスワーゲンの空冷4気筒エンジンを積んで、自分専用の飛行機を作っている。製作費は70~80万円だ。
マニアの常で、市販キットで飽き足らない部分があれば、海外から素材を取り寄せて、みずから設計加工した部品を取り付ける。そうやって軽量化を試みたり、乗り心地を追求するのが楽しいらしい。
全国のバス降車ボタンをあつめる男
「つぎとまります」。運転手さんに降りたいバス停を知らせるアレ、「降車ボタン」を集めているマニアがいるというから驚きだ。
石田岳士さんが、これまでに集めた降車ボタンは「134個」(書籍掲載当時)。全盛期には10社以上のメーカーが降車ボタンを製造していたのでバリエーションは豊富だ。大型バスは、普通の自動車よりも台数が少ないうえに、中古自動車屋でも取り扱っていない。どうやって手に入れるのだろうか。
農家や漁港などでは、バスの廃車体が倉庫代わりに使われていることが昔はあり、それを見つけるとオーナーを探して交渉。降車ボタンをもらうことを繰り返したそうだ。バス専業の解体屋さんも貴重な入手ルート。情報が流出したら困るから、バスは普通の解体屋には下りてこない。それを目ざとく見つけ、降車ボタンだけを部品として売ってほしいと交渉し、手に入れる。
(『ニッポン超越マニア大全』から引用)
石田さんは集めるだけでなく「動態保存」にこだわっている。現在でも、ボタンを押せばブザーが鳴ってランプが点灯するのだ。さらに、製造元が異なる100個以上の降車ボタンをボードにまとめて設置して、それらを一括して制御するための「コントローラー」を自作したというのだから恐れ入る。
自分の部屋に飾っておくだけでなく、「降車ボタン」を取り付けたボードを外に持ち出して、押し放題イベントを開催するなど、マニアではない一般の人たちにも開放するという太っ腹ぶりだ。タモリ倶楽部に出演したこともある。
銀河鉄道をつくった男
山本宏昭さんは、バスが好きすぎて、自分でバス会社を創業してしまったマニアだ。その名も「銀河鉄道株式会社」という。全国のバスマニアだけでなく、宮沢賢治や松本零士の愛読者たちも、さぞや身悶えしてうらやましがるに違いない。
もちろん「銀河鉄道」はジョークカンパニーではない。30名ほどの従業員がいる正真正銘のバス会社だ。
じつは、山本さんはバス会社に務めた経験がない。大学生のときに大型二種免許を取得して、いざバス会社に就職するため問い合わせてみると、大卒ではバス乗務員になれないことが判明した。観光バスの運転手はさらにハードルが高く、ほかのバス会社で10年以上の経験がなければ採用してもらえなかった。
だから、山本さんは自分でバス会社を作ってしまった。社長兼運転手だ。創業は1999年であり、はじめは「葬儀屋の送迎シャトルバス」で参入したという。事業用の緑ナンバー付きのバスを購入するために、1500万円の霊柩車を抱き合わせで買わなければいけなかったという苦労もあったそうだ。
その後「銀河鉄道」は、特定旅客自動車運送事業(シャトルバス)のほかに、一般貸切旅客自動車運送事業(観光バス)の許可を得て、着実にステップアップしていく。現在では、大手バス会社と同じように「一般乗合旅客自動車運送事業」の許可を得て、東京都東村山市や小平市でコミュニティバスを走らせている。
コレクターとクラフトマイスター
本書には、23人のマニアを取材した読みごたえのあるインタビューが収録されている。マニアは「収集家(コレクター)」と「作家(クラフトマイスター)」の2種類に分けられかもしれない。
降車ボタンの人は「収集家(コレクター)」であり、ほかにも「戦闘糧食(ミリめし)」「うまい棒」「電話」「真空管ラジオ」「戦前のボンネット型消防車」「無線周波数」マニアたちの生き様を知ることができる。バス会社を創業した人も、営業用とはいえ30台以上も所有するに至ったわけだからコレクターに分類したい。
自作飛行機の人は、作家(クラフトマイスター)だ。それ以外にも「ティッシュ昆虫」「輪ゴム銃」「巨大カブトムシロボット」などを製作している人たちがいる。きわめつけは「1/23スケールの姫路城」を19年間かけて復元したマニアの話で、週末には100~150人ほどが訪れる伊勢市公認の観光地になっていることには驚かされた。
(文:忌川タツヤ)


ニッポン超越マニア大全
著者:北尾トロ(著)
出版社:イースト・プレス
なんでそれに興味を持ったの? なぜそんなに集めちゃったの? どうしてそこまで時間やお金を費やしているの?──様々な経験を積み重ね、少々のことでは驚かない著者も、とんでもない“趣味”を嗜むツワモノたちに圧倒されっぱなし。「マニア」「オタク」という言葉で呼びあらわすことさえはばかられる「趣味の鉄人」たちの生態は、ディープすぎて常人には理解不可能。だけど本人たちはとても楽しげ満足げ。そう、「趣味に生きる」とはこういうことだ!
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