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ひさしぶりに実家に帰ったら汚屋敷になっていた話

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汚部屋(おべや)とは、ゴミの処分と清掃が長期間おこなわれていない住居の一室を指す。ゴミ屋敷とは、汚部屋を含む、庭や玄関先によそから拾ってきた廃棄物を野積みしている住宅を指す。「汚屋敷(おやしき)」とも言う。

みつ子は無慈悲なゴミ屋敷の女王

母は汚屋敷住人』(高嶋あがさ・著/実業之日本社・刊)は、ゴミ屋敷に住んでいる老親と同居することになってしまった体験をマンガに描いた、実録コミックエッセイだ。およそ2年間にわたって繰り広げられた「捨てたくない母」と「捨てたい娘」による闘争の記録であり、汚部屋やゴミ屋敷の片づけ戦略マニュアルとしても役立つ。

足の踏み場もなく、いつも生ゴミの悪臭が漂っている「汚屋敷」に住みたい人などいないはずだ。それなのに、なぜ「汚部屋」や「ゴミ屋敷」のトラブルが後を絶たないのだろうか?

わたしたちにとって不要品やゴミに見えるものが、汚屋敷の住人にとっては「必要なもの」であり「いつか使うもの」であるからだ。価値観の相違。汚屋敷住人の言い分としては、汚屋敷コミックエッセイ作者の実母である「みつ子」(当時65歳・敬称略)が参考になる。

「全部使う物だから捨てる物なんてない!」

みつ子いわく、2年分の新聞紙を捨てないのは「いつか切り抜くため」。ひとり暮らしなのに4台もある冷蔵庫を処分しないのは「大事な書類を入れるのに必要だから」。玄関や廊下に積み上げられたゴミ袋を捨てようとすると「全部使う物だから捨てる物なんてない!」「泥棒が入ったらどうするの!」などと怒鳴り声をあげて抵抗する。

たしかに、自分のものを勝手に捨てられるのはイヤなものだ。百歩譲って、みつ子の言い分はわからなくもない。しかし、ゴミをためこむ以外にも、みつ子には「清掃をしない」という悪癖がある。汚屋敷を助長するものだ。

みつ子は、節約のためと称して「トイレの水を数回に1回しか流さない」ので、便器には茶色いアレが石化してこびりついている。台所の流し台には、多くの食器が洗わずに放置してあるので、腐った水がたまりがちだ。冷蔵庫には「消費期限が切れた食品がぎっしり」と詰まっており、台所の片隅がゴキブリの産卵場所になっているという。

汚屋敷ママことみつ子の無精っぷりには年季がはいっている。コミック作者(長女)が子どもだったころから、住まいの台所は虫たちの盛り場だったという。炊きたてご飯にゴキブリが混じっていたこともあった。手料理もいいかげんで「腐った食材を平気で使う」「クックドゥですら改悪する」という厄介な創作料理人であり、みつ子は現代で言うところの「メシマズ(自覚がない味覚オンチ)」だった。そのせいで、家族の中には栄養失調におちいった者もいた。

実家の生前整理は想像しているよりもはるかに大変

本書『母は汚屋敷住人』の作者は、すでに漫画家として自立している成人女性だ。オトナになるまで生きのびて、せっかく劣悪な住まいから脱出できたというのに、どうして汚屋敷である実家(みつ子ハウス)にふたたび戻ってきたのか?

じつは、みつ子ハウスはいわゆる「事故物件」であり、居抜きで引っ越してきた。つまり、自殺した前の住人が使っていた大量の家具や生活用品が残っており、みつ子が捨てるはずもなく、薄気味が悪いそれらを処分することが長年の懸案事項であった。そのほかにも、隣人から訴えられるかもしれない事態が迫っていた。みつ子ハウスの敷地内に生えている大きな樹木が、隣家に多大なる迷惑をおよぼしていたからだ。

なによりも、長女として「雑然としたゴミ屋敷にひとりで住んでいる老母のことが心配だったから」という親孝行の気持ちがあったので、覚悟を決めて実家に出戻ったというわけだ。

しかし、同居をはじめてすぐに、愛は憎しみに変わっていった。作者が100袋分のゴミを捨てたあと、それをあざ笑うかのように、みつ子が新しいゴミを拾ってきたからだ。まだまだ捨てるものはあったが、みつ子が「全部使う物だから捨てる物なんてない!」と監視を強化しはじめたことにより……呪われた汚屋敷をめぐる闘争の行方はいかに!?

決して関わりたくないけれど眺めているだけなら面白い

コミック作者の父親、つまり「みつ子の夫」は健在だが、汚屋敷生活に耐えられずに10年前から別居状態にある。長男(弟)は、父についていった。みつ子は、隣人だけでなく家族からも嫌われている。

ところで、みつ子の生い立ちにも同情すべき点がある。本書によれば、みつ子には昔から専属のお手伝いさんがいたらしい。ろくに家事ができないのも、片付けようとしないのも、根が箱入り娘な気質にできてるのだから仕方がない。

本書を何度も読み返しているうちに、ふと思いついてしまったことがある。「整理整頓や清潔を維持することが、かならずしも人間のあるべき姿と言い切れるのか?」という疑問だ。汚屋敷というものは我々の社会通念とかけ離れているから、なんらかの精神疾患を疑うのも無理はない。

みつ子のような人間を見て見ぬふりすべきではないと思う。いくつかの環境要因と未解明の行動原理によって立ち現われた「汚屋敷」という結果は、ヒトの心の根源にかかわる何かをを映し出したものかもしないからだ。興味ぶかい。当分のあいだ、みつ子のことを忘れることができそうにない。

(文:忌川タツヤ)

母は汚屋敷住人

著者:高嶋あがさ(著)
出版社:実業之日本社
全部使う物だから、ゴミなんてひとつもない!!」 読むと危機感に襲われる!? お片づけコミックエッセイ!!  友人との同居生活を終えて実家に戻ってみると…ゴミ屋敷だった! キッチンにはびこるカビ、部屋中を走り回るネズミ、使いもしない冷蔵庫が4台、捨て方に悩むタヌキの置物…ここに住むためにはすべて捨てなければならない。30代独身女性はチェーンソーやバールなど、普通の片づけには使用しない工具を駆使して汚部屋の片づけを始めるのだが、最大の敵は腐ったゴミでもゴキブリでもネズミでもなく「母親」だった!? 母親は病的に生活力ゼロの人。今思えば子どもの頃からまともな食事を作ってもらった覚えがない。洗濯の仕方や掃除の仕方など常識的なことは社会に出て、同居人から教わったほど…。行政処分が先か!? 隣人からの訴訟が先か!? 荒れ果てた実家の汚屋敷で繰り広げられる、片づけられない母vs片づけたい娘の2年戦争!

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