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絶対的キラーフレーズをモノにする:ピッチこそが人生さ

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Pitchという名詞を辞書で調べると、最初の方に〝投球、球数〟という意味が出てくる。そのまま読み進むと、かなり下のほうに〝売り文句〟という意味が示されている。自分を自分たらしめる、自分を売り込むための最高の売り文句=ベストピッチは、誰もが持っているべきものだと思う。

たぶん要らないものを売りまくった男

80年代に伝説的AV監督として名を馳せ、現在もネットを含めさまざまな舞台で活躍している村西とおるさん。この人はかつて英語版百科事典のセールスマンをしている時、現在の価値で100万円ほどする商品を月間で40セットも販売し、トップセールスマンになった。
「英語ができないとマフィアと対等な付き合いができませんよ」と言ってその筋の人たちにも売ったというエピソードも有名だ。売上が優秀だった理由は、もちろんピッチが秀逸だったからにほかならない。
でも、たとえばタイムマシンがあって誰かが当時に戻り、村西さんが使っていたピッチをそのまま完コピしても、絶対にトップは取れないだろう。村西さんのピッチは、村西さんというハードだけに親和性があり、そこで動かしてこそ爆発的な効果を生み出すのだ。

記憶に残る二人の名ピッチャー

ここで紹介しておくべき人物が二人いる。まずは実演販売の現場からゴールデンタイムの番組にも活動の場を広げたマーフィー岡田さんだ。テレビでは秋葉原の〝ザ・実演販売職人〟といった扱いだった。売り場でのグルーヴ感そのままの「見て、見て、見て見て見て」とたたみかけるフレーズに乗せ、商品のセールスポイントを紹介していく。何かほかのことをやっていても、その心地よいテンポに思わず引き込まれ、手を止めて見入ってしまう。まさに名人芸だ(動画はこちら)。
そしてもう一人。博多華丸さんのものまねレパートリーにも入っているトーカ堂社長の北義則さんは、テレビショッピングをエンタテイメントの一分野として確立した人物だ。上半身をちょっと斜めにして、ゲスト出演している芸能人―たいてい二人―から遠ざかるような動きをしながら、「はぁい、はぁい」という独特のイントネーションで相槌を打ち、進行していく。
そして最後の最後に、それまでの声の張り具合からトーンを変え、「さんまんきゅうせんはっぴゃくえ~ん…」と値段を告げる(値段告知5連発動画はこちら)。間も含め、これがキラーフレーズとなる。
一拍あって、ゲスト芸能人とスタジオの観客の「えぇーっ!?」というどよめきが響き渡り、エンタテインメントとしての商品プレゼンは、ここできっちり帰結する。
もう、パフォーミングアートと言ってもいい完成度だ。

ビル・ポーターの忍耐と粘り

アメリカ中西部、ミネソタ州に本拠を置くワトキンス・インコーポレイテッドという日用雑貨品を扱う会社がある。1962年、ビル・ポーターという男性がこの会社の訪問販売部門のセールスマンとして入社した。以来半世紀近くにわたって訪問販売一筋に生き、オレゴン、アイダホ、ワシントン、そしてカリフォルニアという4州から成る販売地区内で、トップセールスマンの座に就いた期間が数年もあった。
ほかのセールスマンたちと違ったのは、脳性まひのため手足が少し不自由で車が運転できないこと、そして言葉がうまく話せないことだ。しかしポーターさんはセールスという仕事へ真摯に取り組み、オレゴン州ポートランドの町をくまなく歩きながら、一軒ずつドアを叩いて商品を売り歩いた。やがて、ポートランドでは知らない人がいないほど有名な存在になる。
2013年12月3日に亡くなった時、全米から弔辞が寄せられた。中にはワトキンス・インコーポレイテッドの本社に涙声で電話をかけてきた男性もいた。
「子どもの頃、ひどい言葉で彼をからかってしまった。叶うものなら、何でもいいから彼から買って料金を直接渡し、心からお詫びを言いたい」

ピッチの舞台は仕事の場だけではない

村西とおるさんも、マーフィー岡田さんも、そして北義則さんも、ピッチをセルフプロデュースのための最大のツールとして使いこなし、大きな結果を出した。ポーターさんの場合は少し違うかもしれない。人生そのものがピッチだったからだ。
『たった2%のピッチが人生の98%を変える』(スティーブン・ベイリー、ロジャー・マビティ・著/CCCメディアハウス・刊)でも、「人生全体がピッチそのものである」と明言されている。

「ピッチ」(売り込む)という行為は会議室での自らのプレゼンテーションで成功を収めることだけを指すのではない。私たち日々の一挙一動がプレゼンテーションであり、人を説き伏せるための自己表現であり、およそ人生そのものがピッチなのである。                                                                      『たった2%のピッチが人生の98%を変える』より引用

口下手。引っ込み思案。緊張しい。自分のピッチのキレが悪いことを仕方なく納得するための言い訳はいくらでもある。ただ、そんな表層的な要因が成功と失敗の境界線になるとは思えない。ピッチに磨きをかけるコツは、悪い理由を探すことではなく、良くなりそうな要素に気づき、取り入れていく過程にかかっている。自分だけのピッチを完成させることに意識を向けていけば、自分像がより明確に見えてくるはずだ。まずは誰より、自分を納得させられるピッチを作りたい。この本の原題(『Life's a PITCH』)の通り、人生はピッチなのだから。

(文:宇佐和通)

たった2%の“ピッチ”が人生の98%を変える

著者:スティーブン・ベイリー ロジャー・マビティ
出版社:CCCメディアハウス
プレゼン、面接、プロポーズ、重要な人との出会い……人生の決定的瞬間で確実に成果を手に入れるために「自己演出」の手法を学ぼう。ピッチとは相手を説得することであり、相手に好ましい印象を与えて取引に成功し、議論に打ち勝つことである。また性的な、あるいは社交的な意味で、相手との繋がりをつくることでもある。そして、いささか皮肉な言い方をすれば、どんな形の説得であれ、ごまかしの要素がつきものだ。時には自分をだます必要さえある。というのも、人を説得する場合は、まず自分を納得させて、“振りをする”そのものになりきらなくてはいけないからだ。

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