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先生、僕、待てないんです。何でも…

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筆者はせっかちで、なにせ待てない。最寄りの駅で並ぶパスモのチャージの列も、スーパーのレジも、渋滞も大嫌いで、かろうじて待てるのはディズニーランドのアトラクションくらいだ。
待てない気持ちは、初めて告った時も、高校受験の発表の時も全開だった。一刻も早く結果を知りたくて、もがいてしまう。身勝手で傲慢な態度であることはわかっている。でも、知りたいことは自分のタイミングで知りたい。どうしても、だ。

疑念から焦り、そして怒りへの過程

ものごとが思い通りに運ばない時の筆者の頭の中は、こんな感じだ。まず、なぜだろうといぶかる。理由がわからないので、焦りが生まれる。そして往々にして焦りが徐々に怒りに変わっていく。この過程についてもう少し言うなら、長い列に並んで我慢している時も告った相手からの答えを待っている時も、「なんでこんなに時間がかかるわけ?」という疑問が生まれ、疑問を進んで解決できる立場にはない自分に対する焦りと、望むタイミングで動いてくれない相手への苛立ちが怒りに変わるのだと思う。ならば、最終的に対処すべきなのは怒りの感情だ。
『N.Y.式ハッピーセラピー』(2003年製作。原題『Anger Management』=怒りの対処法)という映画がある。この映画では、ジャック・ニコルソン演じる精神科医が、沸点を通り越しそうな怒りを抑える「グースフラバー」というイヌイット(カナダ北部を居住圏とするエスキモー系民族のひとつ)の言葉を紹介する。深く息を吸い、そして吐き出すという意味だ。ゲスト出演した元ニューヨーク・ヤンキースのキャプテン、デレク・ジーターや往年の名テニスプレイヤー、ジョン・マッケンローも唱えていた。

マッケンローの〝キレ芸〟とタイガー・ウッズの10秒ルール

そのジョン・マッケンローも現役時代は〝スーパーブラット〟(超悪ガキ)というニックネームを世界中に轟かせていた。試合中、判定が気に入らないと即座にクレームをつけ、激しい言葉で審判を罵倒するシーンも珍しくなかった。アンガーマネジメントの方法論として考えれば、感じたすべてを凝縮して気がすむまで出し切るのがマッケンロー流だったのだろう。「なわけねーだろっ!」みたいな響きで言い放つ〝You cannot be serious〟というフレーズは有名になり、引退後に書いた自伝本のタイトルにもなっている。
ちなみに、2013年11月に行われた錦織圭選手とのエキシビション・マッチでも審判にクレーム入れたり、ラケットを叩きつけたり、コートに寝転んだりとちょいちょいキレて見せ、観客を喜ばせた。
プロゴルファーのタイガー・ウッズが独自のテクニックで試合中のテンションを一定に保っている話も有名だ。考えられないミスショットをしてしまった時などに、脳裏に思い浮かぶありとあらゆる罵り言葉をそのまま口に出す。ただマッケンローとは違い、ウッズの場合は10秒間という時間制限を設ける。10秒間だけキレまくった後は、すべてを忘れて次のショットに集中する。絶対的なルーティーン(決まった動作)があれば、信じられないミスをしてしまった自分や、あり得ないタイミングでカメラのシャッターを切るギャラリーに対する怒りをいつまでも引きずることはない。

実践的アンガーマネジメントの方法論

怒りのコントロールに関する研究では世界的に有名なアンガーマネジメントセンター・オブ・トロント(カナダ)のウェブサイトは、とてもユーザーフレンドリーでわかりやすい。それに、プログラムの目的を定義した文章も印象的だ。
「アンガーマネジメントの目的は、怒りの感情を健やかな形で明確に示し、その後建設的な行動を取れるようになることです。正しい形での怒りの表現により、反社会的あるいは破滅的行動につながりかねない制御不能状態を避けることが可能となります」
怒りの感情を抑えるのではなく、健やかな形で表現するという方法論の中で強調されているのは、〝キレすぎない〟自制心を養うことの大切さだ。

大切なのは待ち方とキレ方

『待つ力』(春日武彦・著/扶桑社・刊)は待つという状態のつらさを認め、つぶさに検証した上で、腹立たしさとの関係を解き明かしてくれる。精神科医である著者の春日さんは、診察室でのリアルなシチュエーションを基にしたさまざまなキーワードをたどりながら話を進めていく。筆者にとって結論となったのは、次の文章だ。

本書でわたしは「待つ」ことには豊かさや予想外の可能性が潜在しており、しかも偶然性や関係性にアクセスするための積極的な方法論となり得ると述べました。そのようにプラスの要素を孕んでいるいっぽう、待っている間に旬をすぎてしまうような事態があることも事実なわけです。いや、そうしたマイナス面が真っ先に頭に思い浮かぶからこそ、大概の人たちは性急になるのでしょう。


『待つ力』より引用

わかったぞ。焦りや怒りを抑えるコツは〝待ち方〟にあるんだ。加えて言うなら、〝キレ方〟も同じくらい大切だ。「グースフラバー」と唱えながら怒りのエネルギーを自分の中で解決できる人はそれでいい。何があってもじっと待てる人もそれでいい。でもね、世の中には確実にいるんだよ。筆者みたいな人が。

(文:宇佐和通)

待つ力

著者:春日武彦
出版社:扶桑社
例えば仕事において、困難な事態に出くわしたとき、結果を「待つ」ことはしばしば怠惰で消極的な態度とみなされる。果してそうか? 異能の精神科医が「待つ」の本質を考える。

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