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出版不況はウソ!? “新しいかたちの本屋”が熱い

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「出版不況や「若者の活字離れ」といったフレーズをテレビや新聞でよく目にする。たしかに、街の小さな書店は次々と姿を消し、紙の書籍の販売額は2006年から6年連続で減少している。若者も本や雑誌よりもスマートフォンに時間を奪われている。
しかし、実はメディアで謳われていることは、現実とは少し違っている。

  • 出版不況のホント

先に述べた書籍の販売額は、紙と電子を組み合わせて考えた場合、実は2012年から2013年にかけて微増しており、書籍よりも厳しい状況にある雑誌を含めた出版市場全体で見ても、ゆるやかな回復の兆しが出ている(「電子書籍調査ビジネス報告書2014」より)。

  • 若者の活字離れのホント

若者の読書率は決して低下しているわけではなく、特に小中高生に限って言えば、ここ10年でむしろ上昇している(「読書世論調査2014年版」より)。

また、たとえ読書しなくても、若者はTwitterやFacebook、ブログなどを毎日のように目にしている。
現在販売されている書籍にはネット上のコンテンツを書籍化したものも少なくないことを考えれば、むしろかつてないまでに活字中毒の時代であると言える。

  • 書店の減少のホント

残念ながら、こちらは年々減り続ける一方。
しかし、たとえ書店は淘汰されども、“本屋”は増え続けていくと、ブック・コーディネーターでクリエイティブ・ディレクターの内沼晋太郎氏は、自著『本の逆襲』(朝日出版社)の中で述べている。

“書店”と“本屋”の違い

「書店と本屋は同じじゃないの?」と思う人もいると思うが、内沼氏にとって二つは違う意味を持つ。
“書店”は、本という商品を扱い陳列している“空間”で、広さと立地とサービスの質で勝負しているもの。
一方“本屋”は、どちらかというと“人”に重きを置いたもので、本を媒介にした人とのコミュニケーションを求め、また、人と本の媒介者的な存在であると定義している。

そして、内沼氏は上記の考えのもと、下北沢に実際に「B&B」という本屋を、博報堂ケトルと協業で2012年にオープンさせている。

これからは“掛け算型”本屋の時代

この本屋では、ほぼ毎日、本に関するトークイベントや講座を開催している。
本の著者や、本を好きな人たちのトークを通じて人と本をつなぐと共に、そのつながりをさらに強める活動をしているのだ。

また、「Book & Beer」の略であるB&Bという店名のとおり、店内はどこでもビール(そしてこだわりのコーヒー)を片手に本を読むことができ、北欧のヴィンテージで揃えられた本棚はどれも委託販売している商品で、お客さんが購入することが可能だという(購入される度にその棚の本をすべて別の棚に入れ替え、陳列も変えているというからすごい)。

つまり、本屋であり、イベントスペースであり、家具屋なのだ。

本以外の商品も取り扱う本屋の先駆けとしては、「遊べる本屋」がコンセプトのヴィレッジヴァンガードがあるが、その後も「SHIBUYA PUBLISHING BOOK SELLERS」(本屋×出版)や「NADiff」(本屋×ギャラリー)など続々と登場し、B&Bはそれらをさらに発展させたものと言える。

こうした複数の収益源を確保した“掛け算型”の本屋が、今後はさらに増えていくと内沼氏は予測する。

そして、本屋の可能性は掛け算型以外にも広がっているという。店舗のようなリアルな空間がなく、直接的に本も売らない、“エア本屋”だ。

本を売らない“エア本屋”

その代表的なものとして内沼氏が挙げるのが、いか文庫という名のユニット。
それぞれ本業を持つ3名のメンバーが、まるで本屋であるかのように、自分たちのおすすめの本をTwitterでつぶやいたり、ロゴ入りのグッズを販売したりしていたら、リアル書店からフェアの選書を依頼されたり、雑誌から取材を受けるようになったという。

内沼氏自身も、20代の頃にブックピックオーケストラという選書ユニットとして活動していた。そして現在も、グラフィック/アート集団のNAMと一緒に、移動式本屋「NUMABOOKFACE」という新たな選書プロジェクトを行っている。
これは、本で顔型のオブジェをつくり、さまざまなスペースに展示するというもので、来場者は展示された本を購入することもできる。ただ、本は来場者が選ぶのではなく、「あなたのことを教えてください」という質問への彼らの回答をもとに内沼氏が選ぶ趣向となっている。

こうしたものも、彼に言わせれば立派な本屋なのだ。

本屋は天使的な仕事

内沼氏は、「出版業界は斜陽産業」と決めつけるのは努力や工夫をしていない人たちだと指摘する。
そして今後、そんな状況の中に新風をもたらす本屋が一つでも、一人でも増えることを期待している

同著の最後の方で、作家・佐々木中氏の著書『切りとれ、あの祈る手を』(河出書房新社)から引用した以下の一節に、彼のこの仕事への思いが込められている。

「本の出版流通に携わる人々すべてに言いたい。あなたがたは天使的な仕事に従事しているのだ」「天使とは何か。それは[中略]『読み得ぬ』ということの距離そのものであり、この無限の距離が解消される『読みうる』ことの、極小のチャンスなのです」

(文:ツジコ エリコ)

本の逆襲

著者:内沼晋太郎
出版社:朝日出版社
出版業界の未来は暗いかもしれないが、本の未来は明るい。本はインターネットもスマホもSNSもイベントも、すべてのコンテンツとコミュニケーションを飲み込んで、その形を拡張していく。「本と人との出会い」を作る型破りなプロジェクトを次々と立ち上げ、話題の新刊書店、下北沢「B&B」でメディアとしての本屋を実験する若きブック・コーディネーターが、新しい本の可能性を指し示す。形が見えないからこそ、明日の本も本屋も面白い。「これからのアイデア」をコンパクトに提供するブックシリーズ第10弾。

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