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犬は、淋しい人間を見抜くのか

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離婚後しばらくの間、子どもたちがしきりに求めてきたことがある。それは「犬を飼いたい」ということだった。できることなら叶えてあげたかった。けれど、当時、子ども達は小学生と保育園児。その2人の世話で精一杯で、犬を飼う余裕は私にはなかった。だけど、子どもたちはあきらめなかった。

レンタルドッグという癒し

ペットショップを巡り、子犬を見て回るだけでごまかそうとした私を、子どもたちは許さなかった。「犬! 犬と遊びたいよ!」と言うのだ。甲府の実家にも犬がいたのだけれど、子どもが苦手で、あまり相手にしてくれなかった。どうしようもなくなった私は、色々検索するうちにレンタルドッグをしている店を見つけた。行ってみると、犬を借りたい大人達で開店前から行列ができていた。

可愛いシュナウザーを大切に借り、辺りをお散歩したのだけれど、子どもたちはあまり犬にかまわない。ただ一緒に歩き、一緒に座る。そして時々撫でたり抱っこしたりする。ただそれだけだった。「もっと遊ばないの?」と聞いたら「あんまりかまったら、犬が疲れちゃうでしょ」と言った。彼らはまるで兄弟の一員のように、犬と共に過ごしたのだった。私はその時やっとわかった。子どもたちは、父親が出ていった心の穴を、犬という新しい家族で埋めたかったのだと。

セラピードッグの効果

レンタルドッグを何度か経験するうち、子どもたちはすっかり落ち着いた。犬が彼らを癒してくれたのだ。小さな犬は、これが仕事と張り切った顔をして、子ども達に寄り添ってくれた。実話をもとにした漫画『犬がとなりにいるだけで』には、癒すべき存在を見抜き、その人に近づいていくボタモチというセラピードッグが出ていた。思い返せば確かに、犬はいつも真っ先に一番幼い娘にじゃれついた。次に息子。そして私のことはほとんど見向きもしなかった。たとえリードを持っているのが私であってもだ。そうした性質を持つ犬は、いるのかもしれない。

セラピードッグは、レンタルドッグよりさらに専門的だ。人に寄り添い心を癒す仕事をするための訓練を受け、認定を受けた犬なのだ。彼らは病院や老人ホームなどに出向き、人々を慰め励まし、時にはリハビリに付き添う。漫画では老人ホームで高齢者達がセラピードッグと交流し、元気になっていく姿が描かれている。犬と交流したくて、動かなかった手が動くようになったり、会話ができなかった人ができるようになったりという事例もあるらしい。

高齢者と犬の良い関係

私の父親は、70歳で退職した時に、小型犬を飼い始めた。高齢者と小型犬は相性がいいそうだ。趣味もなく、友達もいない父親にとって、犬は晩年を共に過ごす相棒となった。父には犬を世話をするという仕事ができ、共に散歩に出かけることで健康を維持し、犬に話しかけることで孤独を癒したのだ。

『犬がとなりにいるだけで』でも、老人ホーム入居者と犬との触れ合いシーンがいくつも出てくる。家族の名前は忘れてしまったのに、犬の名前をおぼえているおばあさんや、誰にも話さなかった自分の過去を犬に打ち明けるおじいさん。そして犬は、そんな彼らに寄り添い、時には顔や手を舐める。人と違い、犬は気楽に人を舐めるが、この心地よさも刺激になっているのだろう。

足りないセラピードッグ

日本でもここ数年、セラピードッグの需要が増しているようだ。セラピードッグを派遣するNGOがいくつかあるけれど、どこも犬が足りないと書いている。今後認定犬が増えてきたら、淋しい思いをしている子ども達のところも訪問してほしい。両親から虐待された子ども、いじめなどで傷つき、不登校になった子ども、それからうちのように、親の離婚で傷ついた子ども……。犬に癒されるであろう子どもはきっと大勢いる。レンタルドッグ経験を経て、子どもたちの表情がすうっと落ち着いたのを目の当たりにした私には、犬の癒しのありがたさが、よくわかる。

先日、家庭の面倒臭い話し合いのために大阪に行った帰りに、近くの保護犬カフェに立ち寄った。保護犬の里親探しのためのカフェである。ひとりで来た客は私だけだった。カップルも2組いたと思う。なのに私のところに何頭もやって来てくれて、私は他の人に申し訳なくなるくらいにモテモテになった。あの時私は心身ともに疲れていた。犬たちは敏感にそれを察して慰めてくれたのかもしれない。おかげで心安らかに東京に戻れた。近頃保護犬をセラピードッグとして育てる取り組みもされているというが、とても素晴らしいことだと思う。

(文・内藤みか)

犬がとなりにいるだけで

著者:北川なつ
出版社:実業之日本社
犬がいてよかった。あの人に。ぼくに。犬がいてくれてよかった。あなたのかたわらにいる犬のことが、愛しくてたまらなくなる本です。実話をもとにした、魔法のセラピードッグの物語。老人ホームに逃げ込んできた、臆病なダメ犬ボタモチ。彼がそばにいるだけで、みんなが生きる勇気と笑顔をとりもどした。たった一匹の犬が、人を笑顔にしてくれる。たった一匹の犬が、人の涙をぬぐってくれる。たった一匹の犬が、人生を変えることがある。十年前のあの日――もしボタモチに出会わなかったら、多くの人たちが、まったく違う人生の終盤を迎えていたのかもしれない。たった一匹の捨て犬が、誰かの人生を変えることがある。そう、となりにいるだけで……。

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