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「下流老人」が増え続けるのはなぜなのか

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「下流老人」という言葉がそこかしこで聞かれるようになった。ソーシャルワーカーの藤田孝典氏が著書『下流老人 一億総老後崩壊の衝撃』(朝日新書)で提示した、生活レベルが著しく低い老人たちのことだ。

推定600万〜700万人の「下流老人」

著者は下流老人を「生活保護基準相当で暮らす高齢者およびその恐れがある高齢者」と定義している。下流老人の指標として3つの「ない」を挙げており、「収入が著しく少『ない』」、「十分な貯蓄が『ない』」、「頼れる人間がい『ない』」状態を指す。まったく論拠のない思い込みで生活保護受給者を蔑視してしまうのと同じようにして、生活がままならなくなった老人に「努力をすれば……」や「日頃の行いが……」といった雑な声をかけがちだ。しかし、本書が明らかにするのは、ギリギリの生活で生き抜いている姿がすっかり常態化している現実だ。

現在、推定600万〜700万人いるとされる下流老人は、これからの高齢化社会でますます増加していく。少子化により高齢層を支える若年層/労働人口が減り、年金の受給額は減ることはあっても増えることはないだろう。内閣府の「平成26年版高齢社会白書」によれば、65歳を超えても働くことを希望するのは50.4%と過半数であり、その理由は、人とのつながりなどではなく「生活費を得たいから」が76.7%だった。

高齢者世帯の平均貯蓄額1268万のトリック

日本の高齢者の就業率は20%前後だが、アメリカがほぼ同レベルであるのを除けば、先進国各国では一ケタ台のところも多い。若者の困窮、低賃金、格差が語られる時、必ずと言っていいほど「老人が金を貯め込んでいるから経済が循環しないのだ」という指摘が出るが、これだけでは説明が足りない。

本書では、厚生労働省「平成25年国民生活基礎調査の概況」を用い、高齢者世帯の平均貯蓄額は1268万1000円だが、「貯蓄なし」世帯が16.8%もあり、4割以上の世帯が貯蓄額500万に満たないことを指摘している。3000万円以上の貯蓄がある高齢者世帯は11.6%であり、1000万円を超える平均貯蓄額から「老人は金持ち」といたずらに導き出すのは誤りなのだ。

アベノミクスは、大企業に儲けてもらって、そのおこぼれを下部組織に行き渡らせる経済政策である。この方法で強引な好景気を作り上げても、末端まで潤うことはない。むしろ、こういった構造が強固になることで「頑張れば働けるのに、甘えている」といった印象論をあちこちに生み出してしまい、若者にしろ老人にしろ、分断が誘発されていく。

野草を主食にしていた独身男性

本書で紹介されている76歳の独身男性のケースは衝撃的だ。埼玉県内の家賃3万5000円のアパートで生活している男性は、働き盛りの頃に両親が病み、介護が必要な状態になる。そのために正社員の仕事を辞することになり、両親が亡くなった後は職を転々とした。そんな男性の現在の年金は、わずか9万円。家賃と医療費でほとんどが消えてしまう。切り崩してきた貯蓄を使い果たした男性は、致し方なく野草を主食にしていた。野蒜(のびる)、よもぎ、ふきのとう、つくしを採って食い繋いでいたのだ。

下流老人は表面化しにくい。貧困状態を誰かに相談することを恥ずかしがる、或いはプライドが許さないケースが見受けられることも大きな原因だ。単身の女性は少ない年金でも切り盛りする術を持つことが多いが、単身の男性は、コスト感覚にしろ、健康に気遣う食事にしろ、生活を運営する能力に欠けており、その結果、誰にも言えず、外からは見えない形で苦しんでしまう。

老後社会に展望が開けなくなれば、当然ながら、消費活動を控えるだろうし、少子化にも派生してくる。下流化する老人を「自己責任」だと問い詰めるのは簡単だが、自己責任のせいにすればするほど、下流老人は増えていく。そのままにしていては、国全体の運営がままならなくなる。今こそ考えておきたい問題である。

(文:武田砂鉄)

下流老人 一億総老後崩壊の衝撃

著者:藤田孝典
出版社:朝日新聞出版
年収400万円以下だと、将来「下流老人」に!? 約600万人が一人暮らし、うち半数は生活保護レベルの日本の高齢者。Nスペ「老後破産」でも話題となった老後崩壊の衝撃を、テレビ、新聞、ネットで今最注目の著者が描く。初の新書。

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