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収入が100万円高いと、フーゾクに通う可能性は22%ずつ上がる

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いわゆる「夜の仕事」は、いたずらなイメージに溢れるだけで、外からは実態が見えにくい。見えにくいからこそ、特殊例がドラマチックに語られる。では、この「夜の仕事」を経済学の視点から淡々と見てみるとどうなるか。

年間5兆円とも8兆円とも言われる市場規模

荻上チキ・飯田泰之『夜の経済学』は、フーゾク産業を淡々とデータで浮き彫りにさせた一冊だ。この手の本はルポルタージュとして体感的に語られることが多いが、興味深い事例ばかりが恣意的に取り上げられてしまい、全体像が把握しにくくなることが多い。確かに、「家庭環境は良好で、特にお金に困っていないが、自分探しのために売春をしている」や「勉学優秀で一流大学に通っていて、留学資金のために売春をする女子大生」のほうがネタにはなる。しかし、ネタの羅列では全体像には行き着かない。データを駆使して「トンデモ」を抑え込む、という著者の指摘はもっともだ。

本書ではフーゾク業界の市場規模を「年間5兆円とも8兆円とも言われる」としている。どの業界の市場規模を計っても3兆円のズレが生じる市場はないだろうが、それほど「フーゾク」の定義は難儀であるし、どういった事業形態かをはぐらかす働きかけが散見される以上、正確に捉えることは簡単ではない。

店舗型と無店舗型の違い

日本にフーゾク店は何店あるのか。2011年の『警察白書』では、店舗型第一号営業(ソープランドなど)が1246件、店舗型第二営業(箱ヘル・ピンサロなど)が822店、無店舗型第一号営業(デリヘル・ホテヘル)が17204店と出ている。店舗型の新規開設は難しくなっており、もし既存の店舗の経営が立ち行かなくなっても、「間を置かずに別のオーナーが『許可付きの店舗』丸ごとを買い、店名などのみをリニューアルして再オープンする」という。このため、店舗型の約2000店はあまり変化しない。

一方で、無店舗型は実質的に稼働していないお店も多く、実数を把握することが難しいが、本書では、フーゾク情報サイトに掲載されている広告の数などから無店舗型の実質稼働店舗を7900店と導く。同様に、フーゾク嬢の人数の試算も行ない、約30万人という数値を出す。ここから分かるのは、「現代日本女性の3.6%から5.4%はフーゾクで働いた経験がある」こと。20人に1人、という数値の多さに驚くが、いたずらに特殊な職業と煽る働きかけでは見えてこない現実的な数値である。

「事務・管理職系はフーゾクに通う可能性は2.3倍」

経済学の手法で売春の価格設定の調査を行い、その説明変数として、体型、胸のサイズ、プロフィール写真の有無、出身地などを用意する。その結果は「10歳年上になる:1558〜2017円価格は低下する」「体型についての質問に答えない:187〜1231円価格は低下する」そうだ。だからなんなんだ、という話でもあるが、こういったエビデンスの提示は、基準値が提示されたことのない「夜の世界」においては斬新な取り組みだ。

では、そこへ通ってくる人はどんな人なのか。顧客調査によって導かれた結果がフーゾク通いの傾向を伝えてくれる。「結婚歴(含む死離別)があると、フーゾクに通う可能性は4分の1になる」「技術系の職業の人はフーゾクに通う可能性は2倍」「事務・管理職系はフーゾクに通う可能性は2.3倍」「収入が100万円高いと、フーゾクに通う可能性は22%ずつ上がる」……。社会的立場や経済状況をフーゾクに掛け合わせた時に表出するデータが興味深い。

その全体像はいつまでも漠然としたまま

その他にも、『東スポ』から抽出した源氏名のトレンド(2012年は「りん」、2006年は「あい」、1996年は「じゅん」、1981年には日本人名の他にも「マリア、キャサリン、モンロー」など)をはじめとして興味深いデータが連なる。本書でも指摘されているが、フーゾク産業は、百貨店の総売り上げや旅行業の年間売り上げに匹敵するビジネス規模となっている。しかし、その全体像がいつまでも漠然としたままだ。本書に例示された数値は一例にすぎないが、そこで導かれた数値の数々は、「稼げる」や「危ない」といった単純なイメージを適宜改めてくれる。

(文:武田砂鉄)

夜の経済学

著者:荻上チキ・飯田泰之
出版社:扶桑社
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