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「のりピー」が逮捕後に出版した自伝に書かなかったこと

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2009年は、多くの有名芸能人が薬物使用で逮捕された年だった(小向美奈子、押尾学など)。特に、のりピーこと酒井法子さんの事件は衝撃的だった。当時の夫である「自称・プロサーファーの男性」が逮捕されたあと、のりピーが行方不明になったからだ。

のりピー逮捕を振りかえる

失踪した直後は、日本中がのりピーに同情的だった。夫が逮捕されたことできっと我を失ったのであろう酒井法子さんが、早まって「最悪の事態」を選択しませんように……と、多くの人たちが祈っていた。だが、その思いは大きく裏切られることになる。

行方不明なってから数日後、のりピーに「覚せい剤所持容疑」の逮捕状が出たという報道を皮切りに、多くの同情が、確信にちかい疑惑へと変わっていった。しかし、のりピーファンであったわたしは、何かの間違いではないか、警察の誤認ではないのかと、ギリギリまで信じたい気持ちでいた。

のりピーは、生きていた。失踪から数日ぶりに彼女が姿をあらわしたのは、渋谷警察署だった。出頭(しゅっとう)である。こうして2009年8月8日、のりピーこと酒井法子こと高相法子容疑者(当時)は、覚せい剤取締法違反容疑で逮捕された。

自伝には何が書いてあるのか?

のりピーは、すべてを認めた。有罪判決(懲役1年6カ月、執行猶予3年)によって刑が確定したのは、逮捕されてから3ヶ月後のことだ。それから1年後の2010年末に、本人名義による『贖罪(しょくざい)』(朝日新聞出版/刊)という自伝本が出版された。このたび電子書籍化されたので、のりピーファンとしては紹介せざえるをえない。

本書は、のりピー本人の名義で出版したものなので、やはり自己弁護のような記述が見受けられる。だが、本人の口から言いたくなかったであろうことも、たくさん書いてある。なかには「ここまで告白するのか!」と驚くような記述が、いくつも見受けられた。

たとえば「出生の秘密」についてだ。のりピーは、2人の父親に育てられた。福岡出身である実の父親が、反社会的勢力に関わりの深い人物であることは、芸能界や一部のファンのあいだでは有名な話だった。

のりピーの父親の職業

小学生低学年のころに、一緒にお風呂に入ったことがある。体に掘られたお花を見つけて、子どもながらにきれいだと感心した。

(『贖罪』から引用)

表現をあいまいにしているが、ようするに「入れ墨」のことだ。幼少期の彼女は「体にお花が掘られている」父親に振り回されてばかりいた。赤子のときは寺に預けられ、その後も離婚するたびに埼玉の親戚に預けられ、再婚するたびに福岡に呼び戻されている。

ほかにも、のりピー本人による、失踪していた数日間の行動や心境のドキュメントが圧巻だ。

一部の週刊誌には「クスリを抜くために逃亡していた」という論調もあったが、のりピー本人いわく「そんなことはない」という。失踪しているあいだに髪を短くしたり染めたりしたのは「毛髪から薬物反応が出ることを恐れた」のではなく、気分転換のためだったらしい。

のりピー本人のケータイのアドレス帳が消去されていたことに関しては「偶然、誤操作でぜんぶ消えてしまった」のであって、薬物にまつわる交友関係を隠すためとか、そういうことではないらしい。

これらの言い分が正しいのかそうでないかは、ぜひ本書を手にとって判断していただきたい。わたしはのりピーを信じている。

のりピーは正統派アイドルだったのか?

酒井法子さんの逮捕があれほどの騒ぎになったのは、かつては誰もが知っているアイドルだった「のりピー」が薬物に手を染めてしまったからだ。事件があった2009年においては、のりピーはすでにアイドルというよりも女優メインで活動していたが、80年代から90年代にかけては名の知られた人気アイドルだった。

だが、のりピーが「トップアイドル」だったり「スーパーアイドル」だったことはない。芸能界入りするきっかけになったオーディションでは敗退しているし、そのあとも地味で人気がなかったからこそ「のりピー語」などという、今でいうところの「天然キャラ」設定で活動することになったのだ。小倉優子(こりん星キャラ)みたいなものだったかもしれない。

歌手活動もおこなっていたが、アイドル時代の楽曲で今も歌い継がれているものは『夢冒険』くらいしかない。いや、のりピーファンとしてはいくつも名曲を挙げられるのだが、セールスには結びつかなかったものばかりだ。『たぶんタブー』という楽曲もそのひとつなのだが、今となっては皮肉なギャグソングにしか聴こえない。たぶん、じゃなくて、ずばりタブーなのだ。覚せい剤は。

この本に書いてない隠された心情とは

いまいち突き抜けられないアイドルにすぎなかったのりピーがブレイクするきっかけになったのは、フジテレビの月9ドラマである『ひとつ屋根の下』だ。のちに、脚本を担当した野島伸司と付きあうことになるのだが、自伝『贖罪』には、その出会いから別れまでの経緯も書いてある。このときに負った心の傷が、のりピーを「自称・プロサーファーの男性」へと向かわせたのかもしれない。

日本テレビ系列のドラマ『星の金貨』では、けなげで気丈な聴覚障がい者の役を熱演して、主題歌『碧いうさぎ』はミリオンヒットになった。NHK紅白歌合戦に初出場もはたして、芸能人としての地位を確固たるものした。それなのに、なぜ……。

この本には「あえて書いてないこと」もある。息子さんの「お受験」にまつわる事柄だ。実父のいかがわしい職業や、過去の恋愛については書けても、教育ママとしての苦悩は書きたくなかった……のかもしれない。

じつは、もうひとつ「書いてないこと」がある。元夫である「自称・プロサーファー」の悪口だ。のりピーがクスリを使うきっかけを作ったのは元夫であり、ほかにも責められる行動は多いのにもかかわらず、それに対する恨みごとは一字一句も見当たらない。

本心はどうであれ、犯した罪に対する心からの反省を感じられるようでファンとしては誇らしいけれど、大切なひとり息子の「父親」のことを見限ることができないという物悲しい性(さが)のようでもあり、複雑な気持ちになった。

(文:忌川タツヤ)

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贖罪

著者:酒井法子(著)
出版社:朝日新聞出版
薬物事件を起こして有罪判決を受けた酒井法子が、人生初の自叙伝を出版する。事件や薬物、家族や仕事も含め、のりピー誕生から転落までの全軌跡が克明につづられた待望の書。あのとき、あの場所で、彼女は何を思っていたのか。芸能人として突っ走った数奇な半生の中には、しかし、女性や母親としてのありきたりな苦悩が詰まっている。数々の秘蔵写真とともに、日本中が注目した事件とのりピーの「真実」がこの書で初めて明かされる。

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