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痩せた後でリバウンドを誘い出す「快感回路」とは

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薬物使用やわいせつ、アルコールやギャンブル絡みのトラブルを何度も繰り返してしまう著名人に対して「またかよ……」と呆れる風潮にあるが、呆れている場合ではない。これは脳内にセッティングされた「回路」でもあるのだ。

私たちがすがる「超越した快楽」

デイヴィッド・J・リンデン『快感回路』は、サブタイトルに「なぜ気持ちいいのか なぜやめられないのか」とあるように、人がなぜ依存性の高い快楽ばかりを希求し、それを反復し続けてしまうのかを解く1冊。仕事によって生じたストレスを静めようと、(わざとポップな言い方をすれば)人間は癒しを求める。それは自分の体調なり心中なりを理解した上で、自分を自分で管理しようとする働きかけである。でも、人間の快・不快は、そうやって管理できるものばかりではないのだ。

著者は「快楽」を問うことは、文化人類学や社会史学にかかわってくると説く。なぜならば、「重要な儀式には、祈りや音楽や舞踏や瞑想が伴い、多くは超越的な快感を生み出す。そのような快感は、人間の文化活動の奥底に深く根付いている」から。人がいざという時に信奉するものは、そのような「超越した快楽」であることが多いが、すがりに行くものだけではなく、知らず知らず生活を蝕んでいく快楽も多い。

買い物、オーガズム、高カロリー食、ギャンブル、オンラインゲーム……

快感回路とはなにか。「脳の中で互いにつながり合ったいくつかの決まった領域へと収束する神経信号を生み」出しており、「この一群の脳領域は、まとめて内側前脳快感回路と呼ばれている」という。その信号を発動させやすい例として示されるのは、「買い物、オーガズム、学習、高カロリー食、ギャンブル、祈り、激しく続くダンス、オンラインゲーム」などなど。

これらの「快感」を管理できなくなることを人はだらしないと感じるし、いつまでもそれを改善できない人を、人格を否定するかのように見つめる。これらの快感は、「気の持ちよう」という言葉で改善を促され、出来なければ「意志が弱い」で済まされるのだ。しかし、それは大きな誤りなのだ。

体内の信号が、食欲を高めるように指示を出す

著者は、自分が(2008年に)接種した年間120万カロリーもの食事をとりながら、自分の体重が年間でほとんど変わらないというのは、人間の脳の信号がいかに優れているかの証左でもある、と指摘する。そのカロリーは、なにも自分が常に意識しているわけでもない。体が勝手に処理しているわけだ。逆に言えば、これを壊そうとする働きかけが、ある限度を超えてしまった場合、自分が気付かぬまま壊されることになる。

ダイエットをしてもリバウンドしてしまうのは、その後、食生活が以前の通りに戻ってしまうから、だけではない。人間には「動的平衡に基づいた食欲コントロール回路が備わっている以上、体重を大幅に減らしてそれを維持するというのはきわめて困難」だからなのだ。体内の信号が、無意識の食欲を高めるように指示を出す。これは自覚症状として「この体型を維持する食事を心がけよう」とは別のベクトルで出来ている。つまり、快感回路がリバウンドを誘い出すのだ。

思考回路とは別のところに快感回路が潜んでいる

外食産業などは、この刺激を最大化する方法を探る。美味しさを追求するよりも、依存性の高いものを提供することを心がける。VTA(ドーパミン経路)を刺激するために、脂肪や糖を存分に投与し、なおかつ、それを負担無く接種できる状態に持ち込む。彩り鮮やかなデザートはもちろん、「ファミレス・チェーンで出てくる肉は機械的に柔らかく」されているのは、そのためなのだ。

食事ならばまだしも、ドラッグや、法に抵触する性衝動なども、その快感回路に握られているとしたら、「またかよ……」で済ますことなどできなくなる。だから仕方ない、というわけでは決してないが、私たちの日頃の思考回路とは別のところに快感回路が潜んでいることを理解しなければならない。私たちは「快感」に踊らされて生きている。

 (文:武田砂鉄)

快感回路 なぜ気持ちいいのか なぜやめられないのか

著者:デイヴィッド・ジェー・リンデン
出版社:河出書房新社
セックス、薬物、アルコール、高カロリー食、ギャンブル、慈善活動……数々の実験とエピソードを交えつつ、快感と依存のしくみを解明。最新科学でここまでわかった、なぜ私たちはあれにハマるのか?

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