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暑いときには熱いものを。朝から銭湯なんてどうでしょう

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サザエさん一家が、朝から入浴しているシーンをあまり見たことがない。おなじように、風呂に入るのは夜だけ、という人は多いのではないだろうか。温泉で朝湯は珍しくないが、朝から銭湯へ行っても楽しめる。

夏の暑さは朝風呂で乗りきろう

7月や8月ともなれば、外を歩いているだけで汗が吹きだす。真夏日の汗は、こちらの意思とは関係なく「かかされる」汗なので、搾取されているようで、なんだか損をした気分になる。

炎天下が予想される日の朝風呂ほど、贅沢(ぜいたく)なものはない。これから1日たっぷり汗をかくとわかっていながら、熱い湯につかり、みずからの意思によって惜しげもなく汗をかく行為だからである。

朝からひとっ風呂浴びておいたあとにかく汗は、そうでない場合よりも「臭くない」ような気がする。熱い湯につかることで老廃物が排出されるのかもしれない。朝シャワーは汗を流しているだけにすぎない。朝風呂のほうが、身を清めたという実感がある。

公衆浴場という身近なテーマパーク

ふらっと朝湯酒』(久住昌之/著)を読んだあと、ムショーに朝風呂に入りたくなった。久住さんは、おなじみ『孤独のグルメ』や『食の軍師』の原作者であり、大衆向けグルメにまつわる独特なこだわりと描写に定評がある。

本書のメインコンテンツは「朝湯」だ。温泉や町場の銭湯をおとずれたときの様々な見聞エッセイをまとめたものが読める。久住さん&銭湯の組み合わせは、以前に当コラムで『昼のセント酒』という著書を紹介したことがある。

今回は、その続編といっても差しつかえない内容だ。久住さんが訪れたのはどこにでもあるような温泉や銭湯なのに、わたしたちが気づきもしなかったような「モノの見方」で、公衆浴場の魅力を再発見している。

さっそく朝湯に行ってきた

7月某日の早朝。わたしは、ある決意を胸に自宅を出発した。

「朝湯にでかける。そして、銭湯から出てきた勢いで酒を飲む!」

わたしが午前中から酒を飲むのは珍しいことではない。以前、当コラムで『昼のセント酒』をご紹介したときは「夜勤明けの酒」について書いている。

あのときは、朝から酒をくらうといっても、いちおう労働を終えたあとの一杯だった。かろうじて社会通念上の合意を得られる範囲内だ。

今回はちがう。朝湯酒だ。平日の朝5時に起きて、身支度をして、近所の銭湯にでかけたあと、まだ正午前だというのに飲酒行為をする。大げさに言うならば反社会的行為である。まじめに働いている全国の労働者の皆さんを敵にまわす所業だといっても過言ではない。

銭湯では隠したら負け

すこし歩いて、近所の銭湯にたどり着いた。朝の8時すぎ。駐車場は、すでに半分ほど埋まっている。早朝5時から営業しているので、近隣の朝湯好きが集まる店なのだ。「スーパー銭湯」ではない、町の小さなお風呂屋さんだ。

玄関に自動券売機があるので、銭湯に慣れていない人も利用しやすい。料金は、おとな440円。ちなみに、銭湯料金は「公衆浴場法」という法律によって一律に定められている。(都道府県ごとに異なる)

わたしは「てぶらセット640円」で利用することにした。バスタオル・タオル(小)、シャンプー、ボディソープをレンタルできるサービスだ。券売機のボタンを押すと、プラスチック製の引換券が出てきた。受付に行って、バスタオルなど4点セットを受け取る。

さっそく男湯の「のれん」をくぐる。脱衣所にテレビがあった。NHKの国会中継という選局は、なにかこだわりがあるのだろうか。脱衣用のロッカーは松竹錠だ。くるりとまわすタイプではなく、平板状のカギを上から押しこむように差し込んで開錠するタイプ。こじゃれた居酒屋の下足入れにも使われている純日本製の錠前だ。松竹錠工業という会社が発明したことに由来する。

全裸のおっさんにまじって、わたしも全裸になる。おっさんたちは陰部を隠さないので、こちらも負けじと隠さない。隠したら負け。男がすたる。タオル(小)だけを携えて、いざ風呂場に足を踏みいれた。

おっさんにも好みのシャンプーや洗顔料がある

まずは洗い場にむかう。タオルをスポンジがわりにして、ボディシャンプーで全身をくまなく洗う。わたしはレンタルしたシャンプーを使っていたのだが、ほかのおっさんたちは花王メリットシャンプーなど各々のお気にいりを持ちこんでいた。なかにはビオレUで念入りに洗顔しているおっさんもいた。

この銭湯はこじんまりとした建物だが、露天風呂をふくめて浴槽の種類が多い。39℃・40℃・40.5℃・41℃・水風呂など、ビミョーに湯の温度が異なる風呂を取りそろえている。お湯の色が赤茶色の「モール泉」もあった。植物由来の温泉成分で、ぬるめなので15分以上入っていてものぼせない。

風呂からあがって、受付のあるロビーに戻る。シャープ製の65インチ液晶テレビと1人用のソファーが多数ある、くつろぎ空間だ。なぜかピーマンや栗かぼちゃが売っていた。ジュースの自販機のそばには、おなじみコーヒー牛乳を収めた保冷ケース販売機もある。腰に手をあてて一気飲みしたい……が、我慢だ。きょうは酒を飲むために来たのだから。

朝湯から流れて昼のそば屋酒という至福

昼のそば屋酒は正統性が強い。

(『ふらっと朝湯酒』から引用)

銭湯のちかくに、ちょうどいい蕎麦(そば)屋があった。店に入るなり生ビールの中ジョッキを注文する。きゅうりとにんじんとみょうがの浅漬けをおつまみ代わりに。まずはジョッキの半分ほどを飲み干す。ビール程度のアルコールに殺菌力はないけれど、体内のよくないものを根こそぎ洗い流してくれるような、そんな気持ちにひたれる。朝湯から昼酒という流れは、猥雑な下界でもおこなえる「禊(みそぎ)」なのだ。

朝湯のあとに食う蕎麦は「ざる」でなければいけない。せっかく余分な脂を落としてきたのに、天ざるなんて頼んだら台無しになる。つゆと刻み海苔とワサビだけで食う。ごちそうさまでした。

会計を済ませて、蕎麦屋を出る。炎天下のなかを歩いて帰る。とうぜん汗だくになったが、さほど不快感はなかった。帰り着いたあとに軽くシャワーを浴びてから、まだまだ日が高いけれど、わたしはすこし眠ることにした。

(文:忌川タツヤ)

ふらっと朝湯酒

著者:久住昌之(著)
出版社:カンゼン
湯上りあとの朝ビール。「この余裕、この贅沢。今日は何からどうしよう」 『孤独のグルメ』原作者による“孤高の朝活グルメ” 三度TVドラマ化した「孤独のグルメ」の原作者久住昌之が、新たに提案するのが“ふらっと朝湯酒”。その名の通り、朝風呂に入ってついでに一杯飲んで帰るエッセイである。 朝風呂の気持ちよさを旅行のときだけにとっておかないで、もっと気軽に「朝風呂」を楽しんだっていいんじゃない!?ついでに、かる~く「朝酒」を嗜んだっていいんじゃない!? 『孤独のグルメ』でも作中モデルになったお店も再度レポート!朝っぱらから風呂入って酒飲んで寝る!前代未聞の「朝風呂」×「朝酒」痛快エッセイ。 (本文より) 朝湯のあとの朝食のあとの、寝。この二度寝が好き。本当は朝の温泉より、旅館の朝ご飯より、好き。この二度寝の、眠りに落ちていくとき、最高。絶頂。しあわせの絶頂。まさに、イッてしまう心地。この瞬間のために旅行に出てきた。といってもいい過ぎではない。その絶頂の前戯の皮切りが、朝風呂というわけだ。ふと思ったのだ。別に遠方に旅をせずとも、朝風呂に行ったっていいんじゃないかと。自宅の狭いプラスティック風呂にちょこっと湯をためて、チョポンと入るんじゃなくて、ちょっと出かけてって、天井の高いでっかい風呂に、朝からザブンと入るのもいいんじゃないか。いや、いいに違いない。

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