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万引きとハッキングの心理的共通点

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リンジー・ローハン。ブリトニー・スピアーズ。ウィノナ・ライダー。そして古いところではファラ・フォーセット。アメリカのショービズ界ではいずれ劣らぬビッグネームだが、ちょっとイタい共通点が…。みんな万引きで逮捕された経験があるのだ。

ひたすら盗み続ける人たち

リンジー・ローハンはカリフォルニア州ベニスのアクセサリー店から2500ドル分のネックレス。ブリちゃんはハリウッドの「ハスラー・ストア」で下着の試着を断られて逆ギレし、かつらを盗むという暴挙に出た。ウィノナ・ライダーはビバリーヒルズの高級デパート「サックス・フィフス・アベニュー」で5000ドル(約60万円)分の商品を持ったまま店外に出たところで保安員に呼び止められた。元祖チャーリーズ・エンジェルのひとりファラ・フォーセットは、1970年代に複数のブティックでドレスを盗み、2度逮捕されている。
日本国内の、そしてセレブではない人たちの万引きについての資料としては、法務省総合研究所が発行している『犯罪白書』を挙げておきたい。2014年度版では、万引きの再犯率が最も高いのは65歳以上の女性という事実が示されている。具体的な背景情報として指摘されているのは、近親者の病気や死去、家族との疎遠、身寄りがないといった要素だ。この種の資料によってバイアスがかかりやすいことは十分わかっているが、公的機関が導き出した事実として触れておく。

盗む理由

これに対し、アメリカでは万引きを中毒症状としてとらえる認識が確立していて、さまざまな種類の中毒患者を救済するために立ち上げられた「アディクション・ブログ」というウェブサイトで、人が万引きに走る理由がリスト化されている。

・店側があまりにも盗みやすいディスプレイをしている
・盗品を売ってドラッグを買う薬物中毒者が後を絶たない
・服飾品やアクセサリーに社会的ステータスを求める若年層男性の物欲
・衝動買いの延長としての万引き
・検挙率の低さ(実際の起訴は150件に1件)
・現行犯で捕まっても、大人なら250ドル、子どもなら120ドル程度の罰金を支払えば済む

アメリカと日本の事情はまったく異なるが、結びの言葉として示されている次の文章の意味合いは、どこの国であっても理解されるはずだ。
「薬物中毒と無関係の人が盗みに成功してしまうと、万引きという行為そのものに快感を覚えるようになり、犯行がエスカレートして大胆になることが少なくない。さらに言えば、盗む必要がない人が万引きをすると、こうした傾向が特に顕著になる」

ハッキングに似た快感

情報テクノロジーとセキュリティーの専門家として多くの企業でコンサルタントを務めるレニー・ゼルスター氏は、万引き犯の心理に関するユニークな見解を述べている。彼が論拠とするのは、『消費行動の暴走:若年層人口による万引きの考察』という論文だ。これを書いたインディアナ大学のマーケティング学教授デイナ・S・コックス女史は「最大で60パーセントの消費者が、人生のいずれかの時点において万引きを経験する」と言い切る。
犯行パターンは散発的で、前科はない。盗品を売って現金に換えることはほとんどなく、自分で消費する。コックス教授が定義する典型的な万引き犯は、こういう人物だ。ゼルスター氏はコックス教授の考察を自分の専門分野に当てはめ、「万引きは、ハッキングめいたことを試す感覚によく似ているのではないか」と語る。ここで言う〝ハッキングめいたこと〟というのは、個人情報を手に入れることができたとしても、被害者のクレジットカードを使って買い物をしたり、銀行口座から現金を引き出したりするようなことまではいかないというニュアンスだ。
実害をもたらすのではなく、自分の情報が漏れ出ていることに気づいてもいない被害者の姿を想像して楽しむタイプのハッキング。それが万引き犯の心理と似ているというのだ。盗むものが情報であれDVDであれ、自分のものにするという行いそのものを楽しめれば、そこで完結する場合が多いということなのだろう。

売り場からのフィールドレポート

『万引き日誌 女性保安員の奮闘記』は、数多くの万引き犯たちとかかわり合ってきた保安員さんによるフィールドレポートだ。ニュース番組で定期的に取り上げられ、映像では「あ、入れた入れた!」というセリフでおなじみのネタだが、文字情報という形になると、見え方がとても新鮮になる。仕事だからと言えばそれまでだが、保安員さんのプロファイリング能力はすごいし、着眼点も全く違う。それに、盗ろうとする側にも、盗られまいとする側にもレジェンド的存在がいる。
ぬるーいBGMとゆるーい空気で満たされた売り場では、人知れず2種類のエネルギーがせめぎ合っているようだ。

(文:宇佐 和通)

万引き日誌 女性保安員の奮戦記

著者:中村有希
出版社:青弓社
ゲーム感覚の小学生、小物ばかりとる銀行員、愛犬のために肉をねらった元ヤクザ、大学病院の医師、93歳のおばあちゃん、そして警備員までもが──。人知れず目を光らせている女性保安員の“聞いてビックリ”万引き事情。

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