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芥川賞作家・ピース又吉がオススメする小説『掏摸(すり)』

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又吉直樹さん、芥川賞受賞おめでとうございます。ピース又吉こと又吉先生が、かねてより「好きな作家」であると公言していた、小説家・中村文則の代表作『掏摸(すり)』についてのコラムでございます。

いま話題の『火花』との共通点

話題の小説『火花』や今回ご紹介する『掏摸』は、純文学だ。純文学とは何かといえば、文芸誌(文學界、文藝、すばる、新潮、群像)に掲載されているような小説を指す。又吉直樹の『火花』は文學界2015年2月号に掲載、中村文則『掏摸』は文藝2009年夏号に掲載されたものだ。

私見を述べるならば、文学的要素とは「文章を読むことによってわきおこる感動」を触発する表現のことであり、ライトノベルであれミステリであれSFであれ、あらゆる小説は多かれ少なかれ「文学的要素」を備えている。純文学とは、あえていうなら「文学的要素」をほかの何よりも重視している小説ジャンルだ。

文学的要素とストーリーの娯楽性を両立させることはむずかしい。またまた私見を述べさせてもらえるならば、純文学作品には、文学的要素を追求しようとするあまり、あえて「読みやすさ」や「わかりやすさ」を抑制しているものが少なくない。しかしながら『掏摸』は、純文学の条件をクリアしており、かつ、最後までイッキ読みしたくなる第一級のエンターテインメント性を備えていると感じた。

私がスリに遭ったときの体験談

スリという言葉をはじめて知ったのは、ファミコンソフト『桃太郎伝説』で遊んでいたときだ。

苦労して手に入れたアイテムを「スリの銀次」というキャラクターに盗まれるゲーム内イベントがあった。戦闘に敗北して奪われるなら仕方ないと思えるが、町中ですれちがった一瞬でアイテムを失うという出来事は、当時小学生だった私には衝撃的だった。

あまりの理不尽さに、リセットボタンを押したくなったくらいだ。スリの銀次は、多くのこどもゲーマーに強い印象を残した。しかも、続編である『桃太郎伝説Ⅱ』では、なぜかスリの銀次が仲間になるのだが、信用できるはずもなく、なにかを盗まれるのではないかとビクビクしながら道中を共にしていた。

スリとは何か?

暴力や恫喝などをおこなわず、上着やズボンのポケットや荷物などから、気づかれないうちに財布や貴重品を盗みとる行為をいう。被害にあったことがなくても、テレビドラマや映画で「スリの犯行現場」を目にしたことがあるかもしれない。

すれちがいざまに、わざと肩をぶつけて、そのときに財布をかすめ取る。おなじみのシーンだが、本物のスリは肩をぶつけるようなマヌケではない。繁華街や満員電車などの、衣服が触れ合っても不自然ではない混雑した場所をえらび、相手がけっして気がつかないようにしてに盗みとる。

スリ師の具体的な手口は『掏摸』で読むことができる。(警告:スリは窃盗罪だ。絶対にマネをしてはいけない。ただし、単独のスリ行為には身体的才能と長期的訓練を要するので、ほとんどの人は再現できない)

おそるべき超絶技巧と集団スリについて

ベテランのスリ師ともなれば、相手に気づかれずに財布を奪うのは当たりまえで、さらに、その場で中身の2/3ほどを抜き取ったあと、はじめに収められていた場所に財布を戻してから立ち去る。財布自体を残すことによって発覚を遅らせるためだ。

たとえば、満員電車のなかで被害者が違和感をおぼえたとしても、その場で所持金を数える人は滅多にいない。たいていの場合、衣服の上から触ったり、ふくらみを目視するなど、財布があるかどうかを確かめるだけで警戒を解いてしまう。

「スリは単独犯」という思いこみも危険だ。むしろ「集団スリ」に遭う可能性のほうが高いと思っていたほうがよい。作業を分担したほうが成功しやすいからだ。

被害者に話しかけたり言いがかりをつける役割、財布や貴重品を盗む役割、そっと受け取ってすぐに持ち去る役割。3人でやれば、ほとんど完全犯罪だ。見知らぬ人に道をたずねられたり、ぶつかってしまい相手がなにかを落としたりしたときには、いちおう警戒したほうがいいだろう。

(文:忌川タツヤ)

掏摸

著者:中村文則(著)
出版社:河出書房新社
東京を仕事場にする天才スリ師。ある日、彼は「最悪」の男と再会する。男の名は木崎、かつて仕事をともにした闇社会に生きる男。木崎は彼に、こう囁いた。「これから三つの仕事をこなせ。失敗すれば、お前を殺す。逃げれば、あの女と子供を殺す」――運命とはなにか、他人の人生を支配するとはどういうことなのか。そして、社会から外れた人々の切なる祈りとは……。その男、悪を超えた悪――絶対悪VS天才スリ師の戦いが、いま、始まる!!

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