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J-POPの歌詞が使い回す「ツバサ」「サクラ」「トビラ」「キセキ」

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流行のJ-POPの歌詞やメロディ展開はいつの時代もありきたりとされるが、どうありきたりなのかをしっかりと解析することは難しいし、系統立てて仕分けることはなおさら難しい。もし、その構造を明らかにすることができれば、「ヒット曲」が量産できてしまう……のだろうか。

「お気軽な感動」が量産されている

「ヒット曲にはある共通のパターンがある」と断言するマキタスポーツ『すべてのJ-POPはパクリである』は、ヒットソングの法則を根こそぎ明らかにする。彼のネタに、盗んだバイクで走り出す尾崎豊『15の夜』のアンサーソング『59の夜』があるが、こちらは買ったばかりのバイクを盗まれた側の物語だ。「自由になれたような気がしてんじゃねーぞ、それは、自由じゃないぞ、犯罪だぞ」と歌い上げる。

いわゆるモノマネ芸人が、対象をそっくりそのまま模倣するのに対して、マキタスポーツのモノマネは「技法」のモノマネだ。ミュージシャンの声色や顔立ちを真似るのではなく、そのミュージシャンの「らしさ」を積み重ねて、数式を探し出す。

宝物のような日々を受け止めて 永遠に歩き出そう

著者はこの現代を「感動の価格破壊」「涙の圧縮陳列=感動のドン・キホーテ化」と呼ぶ。慌ただしい世の中、じっくり感動させてくれる創作物を堪能している時間がない。すぐに泣かせてくれないと困る。そのニーズに応えるために「お気軽な感動」が量産されるのだ。

その量産をじっくり見つめていると、「ヒット曲の法則」が見えてくるという。キーワードは「コード進行」「歌詞」「楽曲構成」「オリジナリティー」の4つだ。著者が例示してくる「J-POPの定型句」に思わずヒザを打つ。「翼、扉、桜、夢、季節、奇跡、永遠、言葉、宝物、エール、強がり、弱虫、大丈夫、受け止める、ありがとう、歩き出そう、大切な日々」……困った時には「ツバサ、サクラ、トビラ、キセキ」だ。

「強がりだった君との出会い それは奇跡へのトビラだったのかな 宝物のような日々を受け止めて 永遠へ歩き出そう」。上記のエッセンスを使いながら適当に歌詞を作ってみたが、なるほど確かにどこかで聴いた歌詞に仕上がっている。作るほうは一生懸命に言葉を絞り出しているつもりでも、そこには法則が生まれる。著者は、卒業ソングが多く発表されるころには、「そろそろ桜が舞い散るぞ」と茶化すのである。

「お中元」を「灼熱のギブ&テイク」に変換する

売れる音楽は、技術うんぬんよりも、いかに分かりやすいイメージを打ち出しているかが問われる。楽曲の個性を目指さなくてもいい場合も多い。例えばアイドルソング。ファンとのコール&レスポンスを想定した作りを見せることで、一体感抜群の曲を作り上げる。言葉のセレクトはその中で重要な役割を果たす。曲の雰囲気を一発で作り上げるためには難儀な言葉よりも、歌詞の個性など考えずに「ツバサ」「キセキ」を使う。

マキタはネタとして「ビジュアル語変換」を行う。「バイト→定められた瞬間(とき)」「ポケットティッシュ→街角からふいに差し伸べられる神の御加護」「お中元→灼熱のギブ&テイク」というように。言葉を替えれば、音楽の輪郭が変わるのだ。

「すべてのJ-POPはパクリ」なのだと咀嚼せよ

著者は、ポップソングなんて模倣品だらけなんだ、と下に見ているわけではない。「オリジナルとは何か?」で悶々とするよりも、本のタイトルにあるように、「すべてのJ-POPはパクリ」なのだと咀嚼してから作り始めること。「こうすれば新しいのではないか」といたずらに模索するよりも、ベタを怖がらないという態度が、新たな音楽へと導き出す可能性もあるのだ。

(文:武田砂鉄)

すべてのJ-POPはパクリである

著者:マキタスポーツ
出版社:扶桑社
ヒット曲を分析したら現代社会が見えてきた! マキタスポーツ氏は芸人でありながら、10年以上にわたりバンド「マキタ学級」を率いて音楽活動をしてきた。その中でカノン進行、JーPOP頻出ワード (「ツバサ」「サクラ」「トビラ」「キセキ」)、楽曲構成など、「ヒット曲に共通する要素」に気づき、それらの要素を分析・分解し、『十年目のプロポー ズ』という曲を発表したところ、配信チャートでスマッシュヒット。その流れと同一線上にある「作詞作曲モノマネ」というネタでも各メディアから注目を浴びることとなる。もともと構造分析フェチであったマキタ氏は、本書で「アイドルとは終わりを愛でる芸能である」「『トイレの神様』理論」「ビジュアル系とはビジネスモデルである」「『鰻の甕』理論」など、数々のロジックでヒット曲の謎を解き明かしている。そして、最終的に行きついた「すべてのJーPOPはパクリである」という結論とは? 本書は芸人による音楽評論本でありながら、現代社会における「オリジナリティー」とは何かなどを考えさせる現代社会批評の書ともなっている。

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