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2007年は、1995年と同じくらい重要な年だったかもしれない

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1995年11月22日。秋葉原駅の電気街口では、夜8時を過ぎた頃から人出が増えていった。日付が11月23日に変わった瞬間に発売される『ウィンドウズ95』をいち早く手に入れようとする人たちが、少しでも短い列を探しながら歩いていた。
それまであまり縁がなかったかもしれない多くの人たちを、コンピューターという道具と結びつける大きなきっかけとなった『ウィンドウズ95』の発売から12年後の2007年8月31日。ジャンルこそ違うものの、まったく同じ種類のインパクトを宿すだろう音声合成・DTM(デスクトップミュージック)ソフトウェア『初音ミク』が発売された。

ケータイ着メロという作曲作業

16和音で着メロを作れるケータイが相次いで発売されたのは2000年。まさに画期的な機能だった。自分好みの着信音が作れるなんて、すごい時代だと思った。1998年あたりからケータイ着メロ作曲本がものすごい勢いで売れていて、着メロ作りに特化した月刊誌もあった。ただ、1音1キーで押してつなげていくので、大多数の人たちにとっては、どんな曲であれサビの部分を作るのでいっぱいいっぱいだったんじゃないだろうか。
その後和音の数が32に倍増した機種で、筆者も海外ドラマの『24』のCTU本部で使われている着信音を作ろうと思ったが、あの独特な響きの音がなかなか見つからない。やむなくストリングスという音色で作ってみたものの、緊張感がまるでない。結局、機種変するまで、デフォルト設定されていた着信音をずっと使っていた。音感が特にいいわけでもなく、楽譜も読めない人間にとっては無理もない話だ。

2007.8.31 ミク様降臨

それでも、オリジナル着メロを作りたいと思い立ったことから生まれた悶々とした気持ちは、頭に時々浮かぶメロディーを形に残したいという願望に変わり、徐々に膨らんでいった。そして、膨らんで膨らんで膨らみ切った時、あの人が現れた。その名は初音ミク。ソフトウェアの製品名でもあり、キャラクターの名称でもある。
何がすごいって、楽譜がまったく読めなくても、勘を頼りにする程度のレベルで音符と歌詞を入力していくだけで、それなりの形の楽曲が出来上がってしまう。しかもその曲を、ミントグリーンの長い髪をツインテールにまとめた女の子が歌ってくれるのだ。ごく表層的に言えば、プロデューサー気分が味わえるということになるだろう。でも、そんなんじゃとても言い足りない。決して大げさではなく、思いが形となるマニフェステーションの瞬間を目の当たりにした気がした。

『Tell Your World』がもたらしたもの

2011年12月なかばのある夜。『Google Chrome:Hatsune Miku』というタイトルのビデオがアップされていたので、さっそくチェックしてみた。1分ほどの時間の中に、創造がもたらす世界の広がりとか、自分とのつながりとかが表現されていて、本物のマニフェステーションとはこういうことを言うんじゃないだろうかと感じた。このビデオに使われていたのが『Tell Your World』という曲だ。

初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』のまえがきに、次のような文章がある。

 

ニコニコ動画に出会い、ボーカロイドに出会い、そこで動画サイトに投稿していたクリエイターたちは、みんな無我夢中で目をキラキラさせていた。そこには真新しい熱気があった。それこそ、live-tuneの『Tell Your World』は、まさにその熱を形にしたようなアンセムだった。
(『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』より引用)

世界に拡散する2.5ディメンショナル・アイドル

筆者は動画サイトに自作の何かを投稿したことはないが、上の文章に出てくる熱と同じものは確実に感じ取っていた。逆説的なものいいになるが、だからこそ『Tell Your World』を聞いた瞬間に、自分が確実に参加できて、確実にこなせるパートとして、あまた存在するクリエイターが巻き起こす無数のマニフェステーションを目撃する側にあり続けることを決めたのだ。
さまざまな動画サイトを通じて爆発的に拡散した初音ミクのプレゼンスはすでに世界規模になっていて、2011年5月には北米でトヨタ・カローラのCMキャラクターに抜擢され、7月にはロサンゼルスのノキア・シアター(現マイクロソフト・シアター)で5000人を集めての初の国外ライブが行われた。アーティストとして認識されたということなのだろう。
初音ミクは、音楽という形で表現したい熱を真夜中のラブレター現象のまま終わらせることなく、世界に語りかけ、分かち合うことを助けてくれるツールであり、パートナーだ。そして、アメリカのとあるファンサイトで言及されているように、2.5ディメンショナル(2.5次元)ヴォーカリスト/アイドルは、これからも世界を”みくみく”にし続けていくのだろう。

(文:宇佐和通)

 

 

初音ミクはなぜ世界を変えたのか?

著者:柴那典
出版社:太田出版
2007年、初音ミクの誕生で3度目の「サマー・オブ・ラブ」が始まった。気鋭の音楽ジャーナリストが綿密な取材を元にその全貌を描ききる、渾身の一作!キャラクター文化やオタク文化、ネット文化、新たなビジネスモデルの象徴……。様々な側面から語られてきた”初音ミク”の存在を初めて音楽の歴史に位置づけ、21世紀の新しい音楽のあり方を指し示す画期的な論考である。

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