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ニートよりも深刻な「スネップ」と呼ばれる人たち

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SNEP(スネップ)という用語がある。定義は、つぎのとおり。

孤立した(Solitary)無業の(Non-Employed)人びと(Persons)を指します。より詳しくは「20~59歳の、結婚したことがなく、学生でもなく、家族以外との人付き合いがない、孤立状態にある無業者」と定義されています。

(『独身・無職者のリアル~果てしない孤独~』から引用)

スネップとは何か

まるで「呪い」のような定義だと思う。いまはそうでなくても、だれもが将来そうなるおそれがあるという意味で、スネップの定義は「呪い」以外の何ものでもない。

ニートの定義が「34歳まで」なのに比べて、スネップは「59歳まで」と範囲が広い。NEETを日本語であらわせば「若年無業者」だ。SNEPも無業者(求職活動をしていない無職者)であるのは同じだが、厳密には「孤立無業者」のことだ。

職に就けず、結婚や友人関係にまつわるコミュニケーションをうまくおこなえなかった結果、肉親以外との社会を築けずに「孤立」している者を指す。

なぜスネップを問題視すべきなのか

独身・無職者のリアル~果てしない孤独~』の共著者である関水撤平さんによれば、「同じ無業者でも、孤立無業であるスネップと孤立していない無業者とでは、活動の積極性に大きな違い」が見られるという。

つまり、単なる無業者であるニートに比べて、家族以外に親しい相手がいない孤立無業者であるスネップは、求職の意欲が低い傾向にあるというわけだ。ちなみに、女性よりも「男性」のほうが、20代よりも「30代以降」の人のほうが孤立しやすい傾向にあるという。

総務省統計局の調べでは「2011年時点の20~59歳の総人口は6461万人」だ。SNEPの提唱者である東京大学の玄田有史教授によれば「スネップは該当する年齢層全体の約2.5%」であるらしく、つまり「162万人」と推定されている。これは将来の税収や社会保障費に悪影響をおよぼしうるボリュームだ。

ニートをこじらせたのがスネップ

本書では、百数十万人も存在しているスネップ(孤立無業者)の具体的なキャリアを紹介している。共著者である藤原宏美さんが支援にたずさわった人々だ。

37歳の男性。大学在学中から公務員試験に失敗しつづけて、ようやく6年目であきらめた。その後、28歳から4年間は実家でひきこもる。32歳で初就職。2年半で退職。無業状態のいまも実家暮らしだが、両親との関係は良好。部屋に引きこもってはおらず、一緒に旅行にも行くという。友人との付き合いはない。

ニートをさらにこじらせたような状況であり、典型的な孤立無業者だ、特にこのような形態は「家族型スネップ」と呼ばれるもので、スネップ162万人の8割を占めている。玄田有史教授いわく「家族による生活保証が(中略)かえって就業に向けた意識や行動を抑制している可能性がある」という。

病気で退職したあと、家族に厄介者あつかいされる

求職の意欲はあるが、さまざまな事情によって「就労と無業を繰りかえしている者」も、スネップ調査の対象になっている。

49歳の女性。大学職員を22年間務めたが、双極性障害や拒食症が原因で退職。その後は嘱託職員と無業状態を繰り返している。実家暮らしだが、両親とは不仲であり、立ち退きを言い渡されている。

スネップには実家や家族という「寄る辺」があるので、いわゆる「無縁死」とは遠く離れているようにみえるが、楽観はできない。なぜなら、厄介払いによって追い出されるだけでなく、みじめな境遇を恥じて自分から実家を飛び出す事例が少なくないからだ。

ニートたちの延長戦は59歳までつづく

いまの20~30代の無業者は、ほかの世代に比べて「自責の念」が強い傾向にあるという。

2009年に北九州で34歳の男性が孤独死した事件をきっかけに「若者ホームレス」や「無縁社会」というトピックが大きな注目をあつめた。過剰な自己責任意識にさいなまれるあまり、あえて家族や友人に連絡をとらないだけでなく、生活保護などの社会福祉にも頼ろうとしない生活困窮者が増えている実態をNHKなどのマスコミが取材したものだ。当時、大きな反響があった。

親などの「庇護者」の健在があやしくなる59歳までを対象としているスネップ(孤立無業者)は、ホームレスや無縁死の予備軍だといえる。

30代以降の求職活動においては年齢で敬遠されはじめるし、結婚や子育てや昇進などをひと通り経験している友人たちには合わせる顔がない。疎遠になってしまう。スネップは「ニートを脱却できなかった人々の延長戦」という側面もある。

スネップは、人生の落伍者なのか?

すでに社会経験がある人にとって、働くことに消極的な若者である「ニート」は他人事だ。親元から離れて自立しているならば、なおさら自分には関係のないことのように思う。

だが「スネップ」は、年金受給年齢の直前である59歳までの者が対象だ。長い道のりなので、それまでに失業したり、家賃を払えなくなったり、働けなくなるほどの病気にかかったり、就労意欲を失わないとは限らない。2011年までの過去15年のあいだに、スネップは約88万人増加しているという。

「この先もスネップ(孤立無業者)にはならない」と自信をもって言い切れる人が、どれだけいるのだろうか。友人だと思っている相手は、いざ困ったときに本当に助けてくれるのだろうか。妻や夫、上司や同僚など、今はとりあえず親しい人たちと、この先も良好な関係を築きつづけられるという保証はない。

他人事だと思わないほうがいい。孤立無業の予兆は、あなたの背後や足もとへ、いつのまにか音もなく影のように忍び寄ってくる。

(文:忌川タツヤ)

独身・無職者のリアル~果てしない孤独~

著者:関水撤平(著) 藤原宏美(著)
出版社:扶桑社
就業せず社会との接点も持たないSNEPはなぜ生まれたのか? 約15年にわたり、彼らの支援を行ってきた著者が他人事では済まされない、孤立のメカニズムを明らかにした一冊。

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