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2011年3月11日に僕ができたことは「書く」ことだった

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2011年3月11日午後2時46分18秒。宮城県沖を震源とした大地震が発生した。僕は千葉県北西部にあるマンションの10階に住んでいるが、その揺れはこれまで生きてきたなかで感じたことがないものだった。

ちょうど家で原稿を書いていたのだが、大きな揺れにびっくりし、飼っていたジャンガリアンハムスターを小さなかごに移し、階段でマンションの1階のロビーに降りた。そこには、マンションの住民たちが集まって、余震を気にしながら、学校や会社にいる家族のことを心配していた。

午後6時すぎ。とりあえず部屋に戻ると、一部の家具は倒れ、本棚の本はすべて部屋に投げ出されていたもの、特に壊れたものはなく、被害はそれほどでもなかった。ただ、電話がパンク状態で、同じ市内に住む実家へ連絡ができずにいた。

インターネットはつながっていたので、Twitterのタイムラインを見ながら、テレビをつけて「東日本大震災」と名づけられた災害の被害状況を確認していた。

僕は、翌日に出張に行く予定だったが、もちろんキャンセル。おそらく、ほとんどの仕事がストップするだろうことはわかっていた。

インターネットを通じて有益な情報を発信

そんなとき、僕が仕事をしているWebメディアの編集部連絡用Skypeで、現状どうするかの議論が交わされていた。都内の編集部、国内外にいるライター陣で連携を取り合いながら、とにかく被災者にとって有用な情報を公開していこうということになった。

僕は、都内の電車・バスの運行状況や、役立つアプリの紹介、募金情報、停電情報など、寝ずに朝まで原稿を書いては公開していたのを記憶している。

つけっぱなしのテレビからは、特撮映像かと思うほど激しい津波の映像や、原発のメルトダウンの様子などが流れていたが、僕はひたすら被災者にとって有用だと思える情報を書き続けた。

「想像」というメディアで発信されるラジオ放送

いとうせいこうが書いた『想像ラジオ』は、海沿いの小さな町にある杉の木のてっぺんから、「想像」という電波を使って「あなたの想像力の中」だけで聞こえるラジオ番組の話だ。

実際に、「想像」を媒体としてラジオ放送などはできない。この話は、東日本大震災をベースにした、生者と死者の物語なのだ。

すでに死んでしまっている想像ラジオのメインパーソナリティ、DJアークが残された妻と子どものことを思い、ひたすら想像上でおしゃべりを続け、曲を流す。

この放送が聞こえるのは、基本的に「死の世界」にいる者。しかし、ごく一部の「生の世界」にいる者にも聞こえているようだ。

僕はこの小説を読んで、自分のあの日の状況と似ているなと思った。僕は、ただただ原稿を書いていた。インターネットやテレビで見かけた、有益だと思われる情報は次から次へと原稿にした。読んでくれている人がいるとは思わなかったが、実際には多くの人が読んでくれていた。

いざというときみんなの役に立てるように

このときほど、僕はインターネットのメディアで原稿を書いていたことを、よかったと思ったことはなかった。僕は震災の直接の被害は受けていないが、やはり心は痛む。しかし、できることなんてあまりない。募金をすることくらいだ。

だが、Webメディアでライターをやっていたおかげで、微力ながら震災関連の情報を提供することができたのだ。正直「こんな非常時に、インターネットを見ている人なんているのだろうか」と思っていたのだが、反響がものすごく、逆にやる気が出たくらいだ。

『想像ラジオ』を読んで、DJアークと当時の自分が重なった。DJアークほど最悪な状況にいたわけでもなく、どちらかというと安全な場所から見ているという罪悪感があったが、それでも情報を発信し続けたことが、重なるのだ。

また、DJアークは自分のために放送をしていたが、それを多数のリスナーが聞いてくれ、それがDJアークの力となっていった部分も重なった。僕も自分が書いたものが、誰かの役に立っていると感じたからこそ、何日も原稿を書き続けられた。

曲がりなりにも、公のメディアを通じてものが発表できる立場にいる人間なのだから、いざというときは何かの役に立てるように。そう思って、僕は今日もパソコンに向かって原稿を書いている。あまり「いざ」というときがこないことを祈りながら。

(文:三浦一紀)

想像ラジオ

著者:いとうせいこう
出版社:河出書房新社
深夜二時四十六分。海沿いの小さな町を見下ろす杉の木のてっぺんから、「想像」という電波を使って「あなたの想像力の中」だけで聴こえるという、ラジオ番組のオンエアを始めたDJアーク。その理由は―東日本大震災を背景に、生者と死者の新たな関係を描き出しベストセラーとなった著者代表作。 野間文芸新人賞受賞。

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