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江戸時代のミニマリスト。良寛の生きかた

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良寛(りょうかん)。なんとなく名前を聞いたことはあるけれど、生きていた時代や業績をくわしく説明できる人はあまり多くなさそうだ。勘の良い人ならば「もしかしてお坊さんでは?」と言い当てるかもしれない。

子どもと遊んでいたことがいちばん有名

ご明察のとおり、良寛は禅宗のお坊さんだ。おもなトピックは、つぎのとおり。

【1】すぐれた詩や和歌や墨書をのこした
【2】世捨て人であり、子どもたちとよく一緒に遊んでいた
【3】晩年に、40歳以上はなれた尼僧と恋愛関係にあった

たったこれだけ、といえば、これだけだ。日蓮のように新たな宗派を立ち上げたのでもなければ、空海や最澄のように教団を率いたわけでもない。

良寛は、寺を持たず、托鉢で日々の糧を得ながら、山奥の小さな庵などで生涯を過ごした。仏教にまつわる際立った業績はなく、たとえば蓮如のように宗派を中興したわけでもない。住職でもなければ開祖でもなく、ほとんど弟子をとらなかったので、いわゆる「良寛の教え」というものは存在しない。

なぜ、そんなお坊さんのことが後世にくわしく伝えられて、つぎつぎと研究者があらわれ、あまつさえ何十冊もの本が出版されているのだろうか。

良寛が注目されるわけ

じつは、良寛が残した詩文や和歌や手紙には、約70年間にわたる「良寛の生きかた」が記録されており、現代風で言うところの「ミニマリズムの実践者」だったことが読み取れるのだ。

江戸時代のミニマリスト・良寛について、わたし自身も『ヘタな人生論より良寛の生きかた』(松本市壽/著)を読むまでは、ほとんど知らなかった。

良寛は、江戸時代の中期である1758年に、越後出雲崎(新潟県)で生まれた。庄屋の長男であり、不自由のない生活であったにもかかわらず、18歳のとき、実家を飛び出すようにして曹洞宗の寺に入道する。

30代のときに師から印可を授けられたが、寺の住職にはならなかった。後年、良寛の高名を聞き及んだ長岡藩主直々の要請も辞退して、出世や栄達を求めることはなかった。

詩文や和歌にすぐれており、墨書の達人であった。それらの作品を布施(無料進呈)することはあったが、良寛みずから売って生活費の足しにすることはなかった。生前からすでに偽物が出回るほど、良寛の直筆は評価が高いものだったという。

ミニマリストとしての良寛

30年間にわたる修行と放浪のすえに、良寛がたどりついた場所が「五合庵」という住まいだった。新潟県国上山に建てられた草庵で、住居スペースは板敷きの六畳間のみという粗末な建物だ。

この五合庵における「最小限主義(ミニマリズム)」のエピソードを紹介しよう。たとえば、知人がたずねてきたとき、足を洗うための「たらい」が無かったため、すり鉢をに水を汲んでそれを代わりに使ったという。食事につかう器なども、どこかで拾った「欠けたお椀」を使っていたことが伝えられている。

あるとき、ただでさえモノが少ない五合庵に泥棒がやってきた。賊の侵入に気づいた良寛は寝入ったフリをして気配をうかがっていた。金目のものが見当たらないので、泥棒が敷布団を引き剥がしにかかったところ、良寛は寝たフリをしたまま敷布団をくれてやったという。これは禅宗における「布施」を実践したにすぎないのだが、究極のミニマリズムと言えなくもない。

必要なものまで手放してしまうほど厳格な禅の実践者である良寛だが、じつは酒とタバコが大好きだった。禅宗には「こだわらないという考えに、こだわらない」という身もフタもない教えがあるので、ミニマリストや断捨離主義の皆さまにおかれましても、どうかご無理をなさりませぬように。

受け継がれる伝統的ミニマリズムの精神

良寛は、良寛さんという呼ばれ方をする。なぜなら、高徳な禅僧でありながら偉ぶらなかったこの人物を呼ぶときには、「和尚(おしょう)」「禅師(ぜんじ)」「聖人/上人(しょうにん)」のような抹香臭い敬称は、しっくりこないからだ。

良寛ゆかりの地元民以外であっても、良寛の生き方を慕うひとたちは「良寛さん」と呼ぶ。尊敬のなかにも親しみをこめたいので、それがふさわしいように思う。

今回紹介した『ヘタな人生論より良寛の生きかた』の著者である松本市壽さんも、良寛さんを私淑する一人だ。

松本さんは、良寛の墨跡から読み取った生き方に心酔して共感をおぼえるあまり、五合庵ならぬ「二合庵」という小屋を建てた。廃材やリサイクル品を利用したものだという。さらに、近所の田畑を借りて、会社勤めをしながら自家製の野菜を栽培していたというのだから、まさに筋金入りの良寛フォロワーだ。

(文:忌川タツヤ)

ヘタな人生論より良寛の生きかた

著者:松本市壽(著)
出版社:河出書房新社
幕末の時代を、ホームレスにも似たボランティア僧として生きた良寛。人をうらむな、うらやむな。追い求めるな、こだわるな……。師の遺した詩歌や手紙を現代文で紹介し、心穏やかに生きるヒントを授ける。

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