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トンデモ歌人・笹公人の「超能力」三十一文字

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俳句と短歌のちがいをご存じだろうか。「一句」ではなく、短歌は「一首」と数える。季語は必須ではない。「五七五七七」であれば何でも自由だ。とにかく自由だ。たとえば、短歌には超能力を題材にしたものがある。

超能力と三十一文字は相性がいい

注射針曲がりてとまどう医者を見る念力少女の笑顔まぶしく

(『念力家族』から引用。以下、出典おなじ)

念力とは、超能力のことだ。念動力(サイコキネシス)の略称であり、触れることなく物体に力をくわえる作用をいう。冷戦時代に旧ソ連が秘密裏に研究していたともいわれているが……常識的に考えれば、念力など存在しない。

しかし、漫画やアニメではよく見かける。先に挙げた「注射針曲がりて~」は、フィクション世界の日常を三十一文字で表現したものだ。

漫画やアニメは、もはやオタクだけの特別な趣味ではない。肌感覚でいうならば、日本だけでも『エヴァ』や『魔女の宅急便』を観たことがある人たちは数百万人単位で存在する。海外ならば『X-Men』や『HEROES』が有名だ。巨大ロボットが動いたらどうなるか、超能力や魔法によってどんなことが可能になるのかを、多くの人が知っている。

今はそういう時代なので、念力なんてありえないにもかかわらず、私たちは「手を触れていないのに注射針がぐにゃっと曲がる」場面をたやすくイメージすることができるのだ。

念力家族のゆかいな面々

念力家族』(笹公人/著)は、アニメや漫画、ライトノベルやジュブナイルのような世界観の情景を、正岡子規が提唱した「写生」のまなざしでとらえて、三十一文字のかたちであらわしたものだ。

表題作をはじめとして「念力学園」や「生徒会長レイコ」など、テーマ別の連作短歌をいくつも収録している。ここからは表題作である「念力家族」シリーズを紹介したい。

【妹】

憧れの山田先輩念写して微笑む春の妹無垢なり
妹の唄いしわらべうたに潜む埋蔵金のありかは何処ぞ

少女が、恋に恋しながら無邪気に「能力」を使っている。ここでは紹介しないが、霊にまつわる能力も秘めている。妹は、一家のなかではもっとも素質ゆたかな人物だ。

【弟】

弟の蒲団におねしょの世界地図ムー大陸まで染みているなり
アトランティス時代の記憶甦る弟の目に涙あふれる

一連の短歌は、弟が「幻の古代文明人の生まれ変わり」であるらしいことをほのめかしている。

【母】

前世の母恋しくて夜泣きする弟に燃ゆ母のジェラシー

「弟の涙→母の嫉妬」で、たたみかけるようにキマっている。このコンボは見事としか言いようがない。

本書を読むかぎりにおいて「母」は能力者ではないようだ。ここでは割愛するが「祖父」にも見るべき能力がない。一方の「祖母」は、とても強大な能力の持ち主だ。

【兄】

中華丼天丼かつ丼親子丼牛丼うな丼兄の食欲

念力、関係ない(笑)。けっして無能力ではないものの、兄にまつわる能力をうかがわせる歌はほとんど収録されていない。もしかすると、祖父や、一般家庭から嫁いできた母の血を濃く受け継いでしまったのかもしれない。

【父】

世界初国際糸でんわ発明する実験室の蚕は父?
エジソンに勝たんと発明繰り返す父の背中の鳩時計鳴る

歌集の全編にわたって、お父さんはトンデモ発明を繰り返している。この人にも超能力らしきものが見受けられない。子である「妹」や「弟」は立派な能力者なので、念力は隔世遺伝なのかもしれない。

うちゅうのほうそくがみだれる!

歌集『念力家族』は、さまざまなシチュエーションを詠みあげた連作短歌を収録している。なかでも目をひいたのは「魔除け少女」と銘打たれているシリーズだ。

すさまじき腋臭の少女あらわれて鳥籠の中のカナリア死せり
すさまじき腋臭の少女あらわれて方位磁石も狂いはじめる
すさまじき腋臭の少女あらわれて仏間に響く祖母の真言
すさまじき腋臭の少女あらわれて無心でガムラン打ち鳴らす兄

この連作は、宇宙の法則すらねじまげてしまう「すさまじきもの」を扱っている。ちなみに、腋臭は「夏の季語」だ。

わきが【腋臭・狐臭】
わきの下から悪臭の汗を発する症状および体質。汗の多い夏にめだつ。俳―夏

(『日本うたことば表現辞典 生活編(下)』から引用)

大岡信さんが監修している専門書にも明記されている。大岡さんは、朝日新聞の紙面上でおよそ28年間つづいたコラム「折々のうた」の執筆者だ。短歌に季語はかならずしも必要ないが、季節を感じさせることばが含まれていることでイメージがいっそう鮮烈になる。

気になる血縁関係

念力家族というけれど、かれらの能力は「念力」ばかりではない。「異能者一家」と言いかえることもできる。

フィクションにおける異能者一家には、メンバー間に血のつながりがないことがある。すぐに思いつくものといえばウルトラ兄弟だ。ウルトラの父と母のもとには10人以上の「兄弟」たちがいる。しかし、血縁関係にあるのはレオやアストラなどの半数未満にすぎない。タロウは実子だが、セブンは「ウルトラの母の姉の子」なので、いとこ同士だ。

ファーストガンダムに登場する「黒い三連星」のことを実の兄弟だと勘違いしている人がたまにいる。残念ながら、かれらは息がピッタリというだけのアカの他人にすぎない。

つまり(なにが「つまり」なのかよくわからないが)、念力家族においても本当の血縁関係が気になってしかたがない。とくに「兄」は、なぜ無能力に等しいのか。もしも裏設定があるのなら、作者の笹公人さんにたずねてみたいものだ。

(文:忌川タツヤ)

念力家族

著者:笹公人(著)
出版社:朝日新聞出版
蜷川幸雄、糸井重里ら各界のクリエーターがその才能を絶賛! 鬼才、笹公人の伝説の第一歌集が、まさか(!?)のテレビドラマ化にともない文庫で登場。「念力」を持つ家族の不思議な日常を詠んだ本書は、じわじわくる笑いがクセになる!

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