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ベッドの上の聖地巡礼

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ここのところ、私は、毎日、病院に出向き、一日のうち5時間を病室で過ごしている。
夫が入院し、手術を受けたからだ。
今までほとんど病気という病気をしないでいた彼にとって、今回の突然の病は、悪夢のような出来事であったろう。
優秀なドクターや献身的な看護師さんのおかげで、体は日に日に癒えているが、心の方はダウン気味だ。

ベッドの上の悪夢

面会時間になるのを待って、病室に行き、「今日はどう?」と、声をかけると、夫は昨夜自分を苦しめた悪夢について語る。
慣れない生活だからか、薬のせいか、毎晩、ひどい夢を見るのだそうだ。
「どんな夢?」と、聞くと、それがたいてい、今まで行った旅先でピンチに見舞われ、立ち往生しているものだという。
たとえば、毎年、競馬の取材で行っていた中東のドバイ。彼が一番好きな場所のはずだが、まさに夢のようにきらびやかなその国で、「取り返しがつかない」と、真っ青になる自分をベッドの上の自分が見る、そんなシーンが繰り返されるのだそうだ。

縛り付けられた心

私たち夫婦は、これまで、ほんの少しの時間をやりくりしては旅から旅への毎日を繰り返してきた。
特に夫は旅行フリークで、日常は旅のためにあり、生活費を削ってでも旅に充ててきた。旅をしない人生なんて意味がない。彼はいつもそう言っていた。
そんな彼にとって、ベッドに縛り付けられた毎日は、たとえ夢を見なくても悪夢となった。カーテンで仕切られた四角い病室は、とらわれの身となった病人にとって、唯一、自分の空間と呼べるもののはずだが、と、同時に、痛みや不安に襲われ、おびえ、震えながら過ごす場所でもあった。
病気と闘うという意味では、ボクサーにとってのリングのようであったかもしれない。

聖地の力

考えた末、私はiPadをプレゼントした。まいりそうな心を支えるために必要だと思ったからだ。
結果は「吉」と出た。
荒野に放り出されような顔をしていた彼の顔に笑顔が戻ったからだ。
これがあれば、ゲームもインターネットも、そして読書もできる。
小さな活字を追うのはつらくても、『決定版 世界の聖地FILE』を眺めていれば、まだ行ったこともない世界に心を解き放つことができるのだ。
宗教的な聖地はもちろんのこと、パワースポットと呼ばれる場所を含め200カ所以上の聖なる場所が、魅惑的な写真と共に目の前に迫ってくる。

カタログで選ぶ聖地への旅

聖地には人を癒し、力を与え、しおれそうな心と体をよみがえらせる力がある。
だからこそ人は痛む体を引きずって、聖地巡礼の旅に出る。そうしなくてはいられないからだ。
しかし、すべての人が聖地を目ざす旅に出かけられるわけではない。
だったら、『決定版 世界の聖地FILE』から、好きな土地を選んでは、そこを自在に駆けめぐり、魂を泳がせてやればいい。ヨーロッパ、中東、アフリカ、アジア、アメリカ、オセアニア、そして日本にあるあまたの聖地が、手招きしながらたたずんでいるからだ。
まるで通販カタログのような手軽さと、そこに秘められた深い意味が、優しく心に響いてくる。
「本当の聖地はもしかしたらベッドの上にあったのではないか」という思いにとらわれるとき、体だけではなく、心も癒えた我と我が身を発見することができる。私はそう信じたい。

(文:三浦暁子)

決定版 世界の聖地FILE

著者:田中真知(著)
出版社:学研パブリッシング
ヨーロッパ、中東、アメリカ、日本など世界の聖地を200以上紹介。それはいつから聖地になったのか?パワースポットと関係はあるのか? 世界中から巡礼の徒を集め、宗教・文化にとって重要な位置を占める聖地の「見えない力」の秘密を探る。

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