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増えつづける「くりまんじゅう」の傾向と対策

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野比のび太は、危険な男である。ひみつ道具を濫用して「やらかす」ことが多いからだ。「なんでもふやすくすり」であるバイバインの使い方を誤ったせいで、地球が「くりまんじゅう」で埋めつくされるところだった。

なんでもふやすくすり

『ドラえもん17巻』(藤子・F・不二雄/著)には、つぎのようなエピソードが収録されている。(以下、結末に言及しています。ご注意ください)

のび太は、残り1個になってしまったおやつの「くりまんじゅう」を惜しんでいた。食べれば無くなってしまうからだ。

見かねたドラえもんが「バイバイン」というひみつ道具を出す。バイバインを使えば、くりまんじゅうを2倍に増やせる。ただし、それを完食しなければ永遠に増え続けてしまうので、気をつけなければいけない。

バイバインのおかげで、のび太はくりまんじゅうをお腹いっぱい食べることができた。しかし、くりまんじゅうはまだ残っており、増え続けていた。ドラえもんが様子を見に帰ってくると、時すでに遅し。5分ごとに倍増するということは、1時間で4096個になり、わずか15分でおよそ1億個のくりまんじゅうが発生する。大惨事だ。

見かねたドラえもんは「宇宙のかなたへおくるしかしょうがない」と言って、増え続けるくりまんじゅうごと小型ロケットにつないで飛ばした。めでたしめでたし。

はたして宇宙は無事に済むのか?

くりまんじゅうが宇宙でどれだけ増え続けようとも、ふつうの読者は気にしない。「宇宙は広いのだから、どうにかなるだろう」と考える。はたして、ほんとうに宇宙は無事に済むのだろうか?

宇宙はくりまんじゅうで滅びるか?』(山本弘/著)という本では、バイバインの「その後」を大真面目に考察している。

著者の山本弘さんは、科学考証に定評があるSF作家だ。『ドラえもん』の出版元である小学館から直々に依頼されたという。実際に、近所のスーパーで本物のくりまんじゅうを買ってきて、重さやサイズを計測するところから始めた。

バイバインのくわしい原理は明らかではない。わかっていることは「5分で2倍になる」という作用だ。

ひみつ道具がもたらす宇宙規模のロマン

著者の計算によれば「宇宙の広さを約100億~130億光年」として、くりまんじゅうを「体積は約65立方センチ・重さは43グラム」の物体であると定義したとき、それが「5分で2倍」に増えつづければ、24時間以内には宇宙全体がくりまんじゅうで埋め尽くされてしまうという。

のび太のせいで宇宙が滅びてしまうのだろうか。結論からいえば、滅びるおそれは少ない。

山本さんの考察によれば、増え続けるくりまんじゅうはやがて巨大な質量になるはずなので、ブラックホールが発生してもおかしくないという。理論上では、ブラックホールの表面は時間の流れが停止するらしく、そうなればバイバインは無効化する。くりまんじゅうが無限に増えることはない。

本書には、ほかの仮説についても考察がおこなわれている。ブラックホールが発生しなかった場合には、なんと「くりまんじゅう星」が誕生するというのだ。現代科学に照らし合わせれば必然的にみちびきだされる、驚異のメカニズムを解説している。

好きなものはつい食べすぎてしまう

のび太は、はじめ2個に増やしたときに「くりまんじゅう」を完食すべきだった。宇宙は滅びないかもしれないが、人為的なくりまんじゅうビッグバンによって、あやうく地球上の文明が滅びるところだった。バイオハザードならぬ「のび太ハザード」である。

空腹であったり、大好物だからといって、普段よりもたくさん胃に食べ物が収まるとはかぎらない。「よーし、今日はたくさん食うぞー」と思って超大盛りサイズを用意しても、食べきれずに残すことがあるからだ。私は「ペヤング超大盛やきそば」や、吉野家の「特盛り牛丼」で、いつもやらかしている。

きわめつきは正月だ。お雑煮やぜんざいで「お餅、何個入れる?」と聞かれたとき、私たちが判断ミスをする確率はきわめて高い。食べ過ぎてしまって動けなくなるか、腹痛を起こして後悔する。新年特有の高揚感が、腹具合や満腹中枢を惑わすのだ。命を危険にさらしてでもモチを食してのどにつまらせる老人が毎年あとを絶たないのは言うまでもない。

(文:忌川タツヤ)

宇宙はくりまんじゅうで滅びるか?

著者:山本弘(著)
出版社:アドレナライズ
トンデモ本から世界は見えるか? SFから人生は学べるか? くりまんじゅうが5分ごとに2倍に増えたら、宇宙はどうなるか?  作品の裏話、疑似科学やトンデモ本の話、怪獣映画や変身ヒーローものの話、SFの話、メディアや社会情勢の話などなど、現在までに書かれたあとがきや解説、エッセイを再録。また、これまであまり語らなかった私生活についても書き記した、初のエッセイ集。
●山本弘(やまもと・ひろし) 作家。元「と学会」会長。日本SF作家クラブ会員。1956年京都府生まれ。1978年『スタンピード!』で第1回奇想天外SF新人賞佳作に入選。1987年ゲーム創作集団「グループSNE」に参加。作家、ゲームデザイナーとしてデビュー。2003年『神は沈黙せず』が第25回日本SF大賞の、また2007年発表の『MM9』が第29回日本SF大賞の候補作となり、2006年の『アイの物語』は第28回吉川英治文学新人賞ほか複数の賞の候補に挙がる。2011年『去年はいい年になるだろう』で第42回星雲賞を受賞。

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