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なんでもロックのせいにするな。その抵抗の歴史。

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ロックという音楽は、社会に抗っていく一方で、社会から責任を負わされることもある。その多くは頓珍漢なもの。80年代のアメリカには、ロックを規制しようと勤しむPTA的な組織「PMRC」があった。ロックによって犯罪が激増しており、音楽業界がロックを自浄しなければ、法律的に規制するという働きかけを真顔で起こしていた。

反戦のアイコンとして大きな役割を果たしたロック

山崎智之『ロックで学ぶ世界史』(リットーミュージック・刊)は、世界史に刻まれた事件をロックミュージシャンがどのように楽曲に盛り込んできたのかを考察する一冊。当然、ロックが生まれた1950年以降であれば、生じた事件や政治動向に対して、ロックミュージシャンは直接反応し、作品として提示していくことになる。

ベトナム戦争時には、ロックは反戦のアイコンとして大きな役割を果たした。ボブ・ディランは「永遠に封印されるまで、あと何回砲弾が飛ばなければならないんだ?」と投げかけ、C.C.R.は「一般市民が戦場で死んでいく中、富裕層がのほほんと平和をむさぼる」ことを皮肉る楽曲を問うた。ウッドストック・フェスティバルで「アイム・フィクシン・トゥ・ダイ・ラグ」を歌ったのはカントリー・ジョー・マクドナルド、この曲はベトナム戦争で使用された枯れ葉剤に冒され、「生まれた子供が障害児になった帰還兵の悲劇」を訴えたものだった。

「貴様らの尻にブーツを食い込ませてやる」

音楽は時として愛国心を煽る。つまり、国の意向に加担する。2001年、9・11アメリカ同時多発テロ、祖国が攻撃を受けたことに怒りを覚えたカントリー歌手、トビー・キースは「貴様らの国を、独立記念日の花火より激しく燃やし尽くしてやる」「貴様らの尻にブーツを食い込ませてやる。それがアメリカン・ウェイ」だと歌った。

この曲を聴いた海兵隊総司令官は「この曲を発表することはアメリカ国民としての義務だよ」と褒め讃えた。この曲を「あまりに無教養」と断じたディクシー・チックスのナタリー・メインズのような存在は珍しく、音楽界総出で「ゴッド・ブレス・アメリカ」というスローガンを高めることになった。

ナチ・シンパではないかと疑われたメタルバンド

社会と対峙する音楽である一方、責任を押し付けられることも少なくないロック。記憶に新しいところでは1999年のコロンバイン高校銃乱射事件。18歳と17歳の高校生が校内で発砲し、12人の生徒と1人の教員を殺害した事件だ。自殺した犯人が影響を受けたという事実などないのに槍玉に挙げられたのがマリリン・マンソン。「“CDを聴いて銃を乱射した”なんて、人間の思考回路はそんな単純なものではない」とした彼を、エミネムは「マリリンとヘロインのせいにされる。親はどこにいたんだよ?」とフォローした。

過去の陰惨な歴史をテーマにすることで「支持している」と誤解されてきたのがメタルバンドの数々。アウシュヴィッツでのメンゲレの虐殺行為を「エンジェル・オブ・デス」という曲にしたスレイヤーは、ナチ・シンパではないかと疑われるようになった。「バンドのロゴがナチを思わせる豪鉄の鷲であること」も加わり、噂は広まっていく。無論、そんな事実はないのだが、メタルバンドには大雑把なイメージでその手の疑惑が平然と降りかかってきた。

ロックの「抗う」という役割がいかに強固なものか

原子力発電所建設反対運動として、ドゥービー・ブラザーズやCS&N、ブルース・スプリングスティーンなどが集った79年の「ノー・ニュークス」、9.11以降のブッシュ大統領の強硬姿勢にパンク・バンドがノーを突きつけたオムニバス・アルバム『ロック・アゲインスト・ブッシュ』……いくらでも具体例を挙げることができるが、世相に抗い続けてきたロックが「世界史」に対してどのようにアプローチしてきたかが見渡せる本書。ロックの「抗う」という役割がいかに強固なものかを改めて教えてくれる。

(文:武田砂鉄)

ロックで学ぶ世界史

著者:山崎智之
出版社:リットーミュージック
世界の歴史はロックで歌われていた! 100のエピソードで綴る等身大の世界史 ロック・ミュージシャンの視点から歴史を綴るという世界初のコンセプトによる研究書です。1950年代に誕生したロック・ミュージックは、市井の人々にとっての身近な感心事や、当事者目線での主義主張を歌って来ました。本書では100の歴史的エピソードと、それにまつわるロック・ソングを解説します。ロック誕生前の古い年代のエピソードからは欧米の人々にとっての“常識的”な歴史観を伺い知ることができます。リアルタイムな問題について歌われた1960年代以降のエピソードでは、当時の人々が事件をどう捉えていたのか、等身大の視点から感じることができます。“この事件はこんな風に捉えられていたのか!”、“この曲はこんなに深い意味があったのか!”といった発見に満ちた、従来の歴史本や音楽書とはまったく違った1冊の登場です。

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