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「武装解除」とはいかなる職業か?

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日本人2名が殺傷された「イスラム国」による陰惨な事件から、まだ半年も経っていないことに驚かされる。これほどの事件でも、遠く離れた場所で起きた出来事として消費されてしまうのだろうか。「遠く離れた出来事」を近くに引き寄せて教えてくれる言葉が貴重になる。

「俺たちは見せ物なんだ」と語らせてはいけない

瀬谷ルミ子『職業は武装解除』は、24歳で国連ボランティアに参加、ルワンダ、アフガニスタン、シエラレオネ、コートジボワールなどで支援活動をし、兵士の武装解除に携わってきた、NPO法人日本紛争予防センター事務局長が記した1冊。武装解除とは、「紛争が終わったあと、兵士から武器を回収して、これからは一般市民として生活していけるように職業訓練などをほどこし、社会復帰させる仕事」のこと。

ソマリア人のNGO職員が「この街で民兵に撃たれるというのは、残念だけど、交通事故に遭うようなものなんだ」と語る。西アフリカのシエラシオネの首都にある避難キャンプでは、リーダーが「ジャーナリストがここには毎日やってくるよ。俺たちの写真を山ほど撮って、ひとつふたつ質問して、満足して帰っていく。見せ物なんだ」と静かに語る。

「困っていると訴えさえすれば誰かが支援してくれる」という矛盾

シオラシオネでは、18歳未満で武装勢力に参加していた子どもが公式に判明しているだけで7000人もいたという。戦闘に参加するだけではなく「大人の兵士が歩く前に危険がないか確認するためだけに先に地雷原を歩かされたり」するし、女性の場合は「強制的に結婚させられるか、不特定の兵士に性的奉仕をさせられる」状態にあった。

UNAMSIL(国際連合シエラレオネ派遣団)の一員として働き始めた著者は、武装解除の仕事に携わるようになる。そこでまず痛感したのが、自分が踏み込むことで自立が遠ざかる、ということ。元兵士の面々が、あなたはそういう支援活動をしているのだから、今の苦しい生活を打破してくれるんでしょうと、むやみに頼りにしてくる。「自分が困っていると訴えさえすれば誰かが支援してくれると感じ、自分たちの存在には価値があるという若干の誇らしさも感じるようになっていた」という。

武装解除とは文字通りの「武装を解除すること」のみではない。それだけでは、困っている側が助ける側に依存し続ける姿勢は改まらないし、付け焼き刃的な平穏がやってきたとしても、その脆さが早々に露呈しかねない。著者は、助けることだけではなく、「生きるための選択肢」を増やすべきであると書く。

「これが正解」と決め込んでいるまなざしを疑う

「遠く離れた」場所の出来事は、文字通り「別世界」と片付けてしまいがちである。遠ざければ遠ざけるほど、こちらの安心が約束される。紛争地で日本人が事件に巻き込まれると、必ずや自己責任論が沸き上がる。是非を問うこと自体、自分たちと離れたところで事件を片付けようとする意識の表れだが、著者は紛争について「紛争は、人が二人いれば起こりうる」としている。どこでも起こりえることなのだ。

一方で、現場に入り込んで、「俺たちの写真を山ほど撮って、ひとつふたつ質問して、満足して帰っていく。見せ物なんだ」と言わせてしまう人たちがいる。しかし、踏み込み、伝えなければ、こちらには情報が届かない。紛争地域の見つめ方にひとつの正解はないのだろうが、自分たちが闇雲に「これが正解」と決め込んでいるまなざしをイチから疑わなければならなくなる一冊である。

(文:武田砂鉄)

職業は武装解除

著者:瀬谷ルミ子
出版社:朝日新聞出版
「世界が尊敬する日本人25人」(2011年・Newsweek日本版)、「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2012」(2011年・日経WOMAN)、「International Leaders Programme」(2015年・イギリス政府)に選出。2015年、「戦後70年談話」の有識者懇談会メンバーに最年少で抜擢された注目の著者による自伝的エッセー。「壊れた社会」を立て直す、それが私の仕事――。17歳のときに見た写真が、平凡な少女の運命を変えた。「武装解除」のプロとして、24歳で国連ボランティアに抜擢、30代で各界の注目を集めるに至るまで、いくつもの組織を渡り歩いてきた著者が、その半生をつづる。
「グローバル化で世界の垣根はますます流動的になっている。世界の問題を知り、その解決の担い手となることが、日本の身近な平和にもつながる。そのためには、海外情勢について知る機会を増やし、紛争がもたらす現実を認識すること、平和構築の担い手を増やすことだ。日本は世界の平和に多額の資金提供をしているのに対し、実務的な専門家や団体が少ないし、個人の支援や参加も限られている。必然的に具体的な政策提言やロビイングも弱くなりがちだ。窓口が政府しかないと、そこでうまくいかなかった時に行き詰まってしまう。個人と行政の間にある距離を埋める役割として、NPOももっと力を発揮していけるし、そのためにこれからも自らの役割を果たしていきたい」(本文より)
「私は同じ日本にこういう人がいることを誇らしく思っているし、日本からそうした若者が一人でも多く現れてほしいと願っている。本書は、そのための貴重な道しるべとなるだろう」
文庫版に解説を寄せた作家・石井光太氏も絶賛。

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