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江戸時代に流行した、ちょっとアレなおまじない

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皆さん、「お歯黒」をご存知ですか? 知っているという方も多いかと思いますが、簡単に説明をさせていただきます。

お歯黒とは、女性が歯を黒く染める風習。いつ頃から始まったものかは定かではありませんが、『源氏物語』や『枕草子』などにも記述があることから、平安時代中期には行われていたと推測されます。

このお歯黒。正式名称は鉄漿(かね)。お茶やお米のとぎ汁に古釘や折れ釘などの鉄くずを入れて作られたもの。色つやを出すため、または口に入れやすいように飴や酒などを混ぜたり、五倍子粉(ふしのこ)を入れたりもしたそうです。

お歯黒は成人女性の証

日本大百科全書によると、

鉄漿付けは元来成女のしるしで、いわば結婚可能の女であるということを社会的に披露する意味があって、「十三がね」とか「十三祝い」ということばがあるように、多くの場合初潮を機につけたものである。時代を下るにしたがって、しだいに遅くなる傾向があり、「十七がね、十八がね」のことばもある。

とのこと。つまり、成人した女性がするお化粧がお歯黒なのです。江戸時代にはお歯黒は当然のように行われており、川柳にもお歯黒のことを詠んだものが多く見られます。

酒塩や飴でいけぬとへのこなり

(『江戸の知られざる風俗 ――川柳で読む江戸文化』より引用)

さて、この川柳の意味ですが、「酒や塩、飴を入れても思ったようにお歯黒の艶が出ないので、へのこの出番だ!」という感じになります。この「へのこ」とはなんのことでしょう?

男性に壺をまたがってもらえばお歯黒の艶がアップ?

実は、「へのこ」は「男性器」のことなのです。

お歯黒の艶だしをよくするには、鉄漿汁の入った鉄漿壺を、褌を外した男に跨いでもらうのである。傍らに適当な男が居ない場合もある。そういう時には、男根の絵を書いた紙を鉄漿壺の蓋に貼った。これは一種の性器信仰の表れであると思われるが、女のお歯黒に男根とは、その取り合わせの奇々怪々さに度肝を抜かされる。

(『江戸の知られざる風俗 ――川柳で読む江戸文化』より引用)

どうして、鉄漿壺に男性器なのか。理解に苦しむところですが、跨いでくれる男性がいない場合は女性自らが男性器の絵を書いて貼るくらい、かなり信仰度高かったようです。

こんな川柳もあります。

  こうかえとお歯黒壺へぶらり出し
これも女達に懇願された男である。「こうかえ」とは、男が発した言葉で、「こんな具合でよいのかい?」と、壺を跨る姿勢をしながら、女たちの要望に答えようとしている場面である。「ぶらり出し」という表現が、実にダイレクトであり、そこはかとない笑いを誘う。

(『江戸の知られざる風俗 ――川柳で読む江戸文化』より引用)

頼まれたとはいえ、男性のほうも褌を外して壺の上を跨ぐのはあまりやりたくないものですね。その風景を想像するだけで笑えます。

若い女性の股をくぐると疱瘡にかからない?

このほか、疱瘡にかかっていない若い女性の股をくぐると疱瘡にかからない、または軽く済むという言い伝えも信じられていたそうです。

  ふくろ持一層ひまが明かずに居

(『江戸の知られざる風俗 ――川柳で読む江戸文化』より引用)

疱瘡にかかっていない女性は「ふくろ持」「ふくろ担ぎ」と呼ばれ、近所に嫁に来た女性がふくろ持だとわかると、近所の人たち(主に子どもを持つ女性)が押し寄せて、股を潜らせてくれとお願いにあがっていたようです。

お願いしているほうは真剣そのものですが、若い女性が股間を露わにして人を潜らせるのはとても恥ずかしいこと。その状況を詠んだ川柳もあります。

  股を潜らうといふには嫁困り

(『江戸の知られざる風俗 ――川柳で読む江戸文化』より引用)

数百年後は今の常識も笑い話になるかも

上記2つのおまじないはどことなくユーモラスで、川柳を通して情景を思い浮かべると、思わず笑ってしまいます。効果の程は推して知るべしですが、当時の人たちは真剣そのものだったのでしょう。

きれいになりたい、健康になりたいという思いは、今も昔も一緒。我々が今行っていることも、数百年後には「当時はこんなことが信じられていたんですよ」と紹介されているかもしれませんね。

(文:三浦一紀)

江戸の知られざる風俗 ――川柳で読む江戸文化

著者:渡辺信一郎
出版社:筑摩書房
江戸川柳は「世相を映す鏡」である。江戸中期、初代・柄井川柳の登場で、一躍、庶民性を得た川柳。そこには、現代人には想像もつかない江戸庶民の生活の実相が、生き生きと描かれている。本書は川柳を鍵として、江戸庶民の知られざる風俗、文化を現代に甦らせた書である。

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