ハウツーが満載のコラム
文字サイズを変更する

あなたの人生を変えるかもしれない心理学の法則

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る

あなたに10ドル札を10枚預ける。その100ドルを友人と分けあってほしい。分配する金額に友人が納得すれば、100ドルはあなた達のものだ。友人が納得しなけば100ドルは没収する。何ドルを提案するか?

これは「最後通牒ゲーム」と呼ばれている経済学の実験だ。単純なゲームに見えるが、結果はさまざまだ。

多くの人は、友人と50ドルずつ分けあうことを選ぶ。もっとも取引が成立しやすい金額だ。なかには、相手に30ドルしか与えようとしない者がいた。その結果はどうなったのか?

誰かが得をするのが許せない心理

100ドルのうち30ドルしかもらえないと言われた友人は「死なばもろとも」で提案を拒否した。100ドルは没収。ゲームオーバー。欲張ったせいで、ふたりともせっかくの不労所得を逃してしまう。

数百人が実験に参加した。多くの者たちが50ドルずつをゲットした。40ドルを提案した場合でも取引は成立した。30ドルより少ないと不成立になることが多く、ほとんどの人が提案者に得させまいとして「全額没収」を選んだ。

おなじ実験をパプアニューギニアのアウ族やグナウ族に試したところ「50ドルずつ」あるいは「相手の取り分が多くなる」よう提案した者が多かったのに、得をするはずの相手が拒否してゲームが不成立になることが多かった。

文化や国民性のちがい

原因は、彼らが「しきたり」に従っていたせいだ。アウ族やグナウ族の文化では、贈り物を受け取ったらいつか絶対に返礼しなければいけない義務を負う。この実験自体が、ありがた迷惑なのだ。パプアニューギニアの部族にとって、ゲームを不成立にしたほうが面倒を避けられる。お国柄のちがいで経済学の実験結果は大きく異なるわけだ。

それを踏まえて、次のクイズに答えてほしい。

EU加盟国において、臓器提供に同意している国民の割合には「99.98%~4.25%」というように、国別で大きなひらきがある。おなじヨーロッパなのにA国とB国のあいだにこれほど差があるのはなぜか? 考えられる要因を答えよ。

99.98%の国民が臓器提供にYESと答えている?

正解を発表する。同意率99.98%の国はドイツで、4.25%の国はオーストリアだ。ドイツは臓器提供に全面協力。オーストリアは全面拒否。隣あっている2カ国なのに、どうしてここまで違うのか?

理由はシンプルだ。ドイツに生まれたら「臓器提供に協力する」が書類上の初期値で、オーストラリアに生まれたら「臓器提供に協力しない」が初期値なのだ。どちらの国も提供意志を変更できるが、用紙に記入して郵送しなければいけない。手続きが面倒なので、ほとんどの国民は初期値のままだという。

人間は、思いこみに左右される生き物だ。心理学に「ハロー効果」という用語がある。高身長や優れた容姿の人物を、それ以外の要素まで高く評価してしまう人間心理をいう。たとえば「美女は口臭なんてしない」「イケメンは仕事がデキる」というように。

あなたは音楽ランキングを信用していますか?

わたしたち人間は「ハロー(後光)」に惑わされやすい。権威に弱い。ある健康番組が放送された翌日にはバナナや納豆やサバ缶がスーパーマーケットで品切れになった。テレビで大々的に放送されれば、つい試してみたくなるが人情だ。

偶然の科学』(ダンカン・ワッツ/著)には、音楽ランキングの信憑性を証明するための実験が紹介されている。「ランキング1位の楽曲は、ランキング最下位の楽曲よりも本当に優れているのか?」という素朴な疑問の答えを得ようというわけだ。

実験には1万4千人の音楽愛好者たちが参加した。インターネット上に「無名ミュージシャンの楽曲を鑑賞できる音楽視聴サイト」をつくり、それを8つに複製して、人口が均等になるよう参加者たちを振り分けた。

同じ条件をそなえた「8つの並行世界」の参加者たちは、良いと感じた楽曲に投票する。つまり、同じ楽曲に対して8つの異なるランキング順位が導きだされる。その結果、じつに興味深いデータが得られたという。

良いから売れるのではなく、売れているのが良いものだ

この実験の前提条件として、参加者はランキングの途中経過やダウンロード数を知らされずに投票している。楽曲の良し悪しを公正に判断してもらうためだ。実験によって明らかになったのは、以下のとおりだ。

<パターン1>8つの並行世界において、いくつもの並行世界でランキング1位になった曲が、別の世界では1位になれないことがあった。

<パターン2>ある世界でランキング上位の楽曲は、ほかの世界でも劣った評価を受けることはなかった。同じように、ランキング最下位あたりの楽曲は、どの世界でも決して1位にはなれなかった。

<パターン3>例外として、現実とおなじような「ダウンロード数を参考にしてから投票できる並行世界」を作ったところ、ダウンロード数が多い楽曲はますます投票を得やすい傾向があった。

乗るしかない、いつか来るビッグウェーブに

いまだ結果を出せずに悩んでいる芸術家志望の皆さんを勇気づけるような実験結果もあった。

ひとつは「並の曲、つまり最もすぐれてもいないし最も劣ってもいなかった大多数の曲は、ほぼどんな結果でもありえた」というものだ。「48位中26位」くらいの平凡な楽曲であっても、上記<パターン3>つまり私たちが生活している現実とおなじ条件下では「ランキング1位」を達成することがあった。さらに、どの並行世界においても低評価と見なされていた「最も劣った曲」が、たまに健闘することもあった。

以上の実験結果からわかるのは、うまくビックウェーブに乗ることができれば凡人が成功するのも夢ではないということだ。運や偶然も実力のうちであることが実験によって証明された。生きているかぎりは何事もあきらめるべきではない。いつか必ずチャンスがめぐってくるはずだと信じたい。

(文:忌川タツヤ)

偶然の科学

著者:ダンカン・ワッツ(著) 青木創(著)
出版社:早川書房
〈数理を愉しむ〉シリーズ ネットワーク科学の革命児が解き明かす「偶然」で動く社会と経済のメカニズム。 小飼弾氏絶賛! 「『社会科学を本物の科学に!』 この社会学党宣言こそ本書のコアだ」 ダン・アリエリー(イグ・ノーベル賞受賞者、『予想どおりに不合理』) 「世界認識を変える本が現れた。耳が痛くても、“間違う理由”は知る価値あり」  世界は直感や常識が意味づけした偽りの物語に満ちている。ビジネスでも政治でもエンターテインメントでも、専門家の予測は当てにできず、歴史は教訓にならず、個人や作品の偉大さから成功は測れない。だが社会と経済の「偶然」のメカニズムを知れば、予測可能な未来が広がる……。より賢い意思決定のために、スモールワールド理論の提唱者が最新の科学研究から世界史的事件までを例に解き明かす、複雑系社会学の話題の書。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る

関連記事