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タコの性格は「大胆、内気、受身」の3種類に分かれています

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食しているタコを冷静になって見返してみると、何とも奇天烈な形態をしていることに改めて驚く。私たちは、背骨があり、顔があり……といういくつかの条件でそれを「動物」だと把握していくが、タコはそういう条件を十分には満たしてくれない。奇天烈なまま、慣れ親しみ、食してきた。 

アメリカ軍がタコの擬態能力の研究に資金を提供

キャサリン・ハーモン・カレッジ『タコの才能 いちばん賢い無脊椎動物』は、このように書き始めて、タコをズバリ形容する。「タコはつかみどころがない。腕は8本、心臓は3つ、皮膚は変幻自在に変えられ、知性の宿るまなざしには妙に愛嬌があるけれど、エイリアンにしか見えない」。そう、エイリアンにしか見えないのに、私たちは、「何千年も前からタコのとりこになっている」。

多くの文学や映画で、タコは人間の想像力に利用されモンスターと化してきた。その想像をかき立てるわけは、姿形だけではなく、確かな知性にもあるのだろう。タコの観察記録として最古と言われているのがアリストテレスの『動物誌』。ここではタコについて「〝タコは利口ではない〟と結論付けて」いるのだが、その後の長い歴史の中でタコの知性が明らかになってきた。アメリカ軍はタコの擬態能力の研究に資金を提供し、タコの腕をモデルにしたロボットを制作する大学もあるという。

知性を持った上で孤独を嗜む、タコのライフスタイル

タコには約3億個の神経細胞があると言われる。人間は推定1000億個あるとされているそうだが、例えばカエルの神経細胞は約1600万個だと知れば、大抵の脊椎動物よりもずっと知能が高いと分かる。ワシントンの国立動物園で20年にわたってタコの研究をしてきたタミー・デウィットはタコに性格の違いがあることに気付いていたし、生物学者のローランド・アンダーソンはタコの性格テストを行い、その行動を19パターンに分けて調べた。警戒させたり、餌をやったり、脅したりすると、タコの反応はまちまちであり、そこから「タコの性格には大胆、内気、受身」という3種類があることを立証したという。

タコは他のタコには無関心なのだそう。「孵化するなり潮の流れに乗って散り散りばらばらになってしまうと、タコは一生のほとんどをひとりぼっちで過ごす」「群れで行動することが多いイカとちがって、タコは繁殖のとき以外、仲間と付き合おうとしない」とは好感が持てる。タコとイカはセットで語られやすいが、タイプは真逆なのだ。知性を持った上で孤独を嗜むとはステキなライフスタイルだ。

モーリタニア産のタコが多い理由

スーパーでタコを買うとやたら「モーリタニア産」が多いことが気になっていた。正直、この北西アフリカの国名を聞くのはタコの産地としてのみだ。1960年頃はモロッコが最たる供給地だったが、80年代からタコの個体数が減り、国連食料農業機関から「〝乱獲〟地域に指定」されてしまう。ここをチャンスとばかりに漁獲量を増やしたのがモーリタニアだった。しかし、ヨーロッパ船籍の漁船が押し寄せてくるなどして乱獲の懸念が高まっている。「<シーフードウォッチ>では、モーリタニアの状況は〝危機的〟であるとして、モーリタニア産のタコは食べないようにと勧めている」との記述もある。

タコはチロシナーゼという敵の目をヒリヒリさせる成分を含む墨を吐く。時として「墨に濃い粘液を混ぜて、ねばねばした黒っぽいかたまりにし、身代わりに使うこともある」という。なんとも冷静な生き物だ。それでいて、〝つかみどころ〟のないタコは、その生態の全貌をまだまだ明らかにしない。4000年の歴史を持ちながら、本音を語らず1人で黙々と暮らすタコの存在に惹かれる一冊だ。

(文:武田砂鉄)

タコの才能 いちばん賢い無脊椎動物

著者:キャサリン・ハーモン・カレッジ
訳者:高瀬素子
出版社:太田出版
地球上の全動物約95%のなかで最高の知能
驚異の「タコ学」決定版
3つの心臓をもち、血液は青い
巣穴を飾り、庭造りもする
擬態能力に着目した米海軍が巨額の研究開発費を提供
吸盤の秘密を応用したロボット開発が進行中

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