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感動する食事の共通点とは

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私は重いつわりで2ヶ月の入院生活を送ったことがある。つわりで体重が5キロ以上減少すると、重症悪阻という、保険も下りる立派な病気と診断されるのだ。その頃、ほとんど何も食べられず、栄養点滴だけで過ごしていたのだけれど、ある日突然食欲が湧き出てきて、つわりはおさまった。

当時一番食べたかったもの、それは、母親が作るコロッケだった。俵型で、ほくほくのじゃがいもの中に良く味付けされたひき肉がぽつりぽつりと入っている。シンプルなそれに、ソースを多めにかけて食べるのだ。私は毎日しつこくそれを食べたがった。母親はせっせと毎日揚げて病室に届けてくれた。

人は食べ物で癒される

感涙食堂』は、飲食店で実際にあった感動体験をコミック化したもの。"心も満腹に"という謳い文句がとても素敵。心尽くしの料理に感動した、という経験は誰の胸にもほんのりとあって、だからこそ、そうそう、と共感できる物語が12編も入っている、読み応えある一冊だ。

全編、ほぼ共通していることは、エピソードが何らかの哀しい経験と共にある、ということ。誰かとの別れ、災害での嘆き、心身の変調や不調……。何らかのつらい思いをした時に、親切にしてもらうと、私たちは普段以上に人の心の温かさが身にしみる。それに美味しい料理がついてきたら、なおのこと忘れられない経験になるのだろう。

最期の晩餐に食べたいものは

本の中には、いくつか『最期の食事』が登場する。もうじき命が尽きると感じる中、人はどのようなものを食べたいと思うか。それは決して目新しい食べ物でも高級な食べ物でもない。「あの時食べた、あのおいしかったアレ」を食べたい。そう願うものなのかもしれない。

本の一編『父と最期の晩餐』には、病身の父親がファミリーレストランに行き、メニューにはない「たまごかけご飯」を食べたがるシーンがある。彼が子どもの頃、病気のフリをしていたら母親が食べさせてくれた思い出の食べ物だったのだ。事情を知った従業員が気をきかせて、それを特別に提供してくれた。それを父親が口に入れて、涙する。私たちが感動するのは、この食事の中に愛が溢れ、それを口にした瞬間に、彼の心の中に彼の人生が走馬灯のように巡っているのを感じたからだと思う。

妊婦は食事に敏感

本の中には妊婦さんの経験談も2編載っている。これはもう本能としか言いようがないけれど、妊娠すると食べ物の匂いや味にものすごく刺激を感じるし、食欲もすごくあったり、つわりでほとんどなくなったり、とにかくいつもよりも食事に敏感になる。

収録されている『生まれる前のプレゼント』は、つわりで食欲がない妊婦さんのために、さっぱりとしたデザートを持ってきてくれたレストランの話だ。わざわざ自分のために用意してくれたのかと彼女は感激する。妊娠期に食べ物のことで優しくされると、普段よりも強く心と舌に刻まれるのだ。そう、たとえば私の母が作ってくれたコロッケのように。

連帯感が涙腺を刺激する

最期の食事にしろ、妊婦の食事にしろ、コミックの中の提供された食事からは、何らかのメッセージを受ける。それは「1日も長く生きてほしい」であったり「元気な赤ちゃんを産んでね」だったり。心のこもった食事というのは、文字が書かれていないけれど、メッセージが含まれている。私は母親のコロッケを口にするたびに「あんた、しっかりしなさい。お母さんになるんだから」という母の思いを感じていた。病室で待つ私のために、母は深夜にせっせとコロッケを揚げた。そしてパートに出かける前に病院に寄り、私に差し入れてくれた。自分のために誰かが頑張ってくれている。自分のことを応援してくれている。この何とも言えない連帯感に「ああ、自分はひとりぼっちじゃないんだなあ」と感じていた。おいしい食べ物の記憶を共有することで、私たちは親しい人達とより深く、繋がることができるのだ。

面白いことに、私の子どもたちも、私の母が作るコロッケが大好きである。彼らは私のお腹にいた時、私を介して何十個ものコロッケの栄養分をもらっているので、もしかしたら味に覚えがあるのかもしれない。実家に行き子どもたちがコロッケを我先にと頬張っている姿に、家族なんだなあ、としみじみ実感してしまう。

(文・内藤みか)

感涙食堂

著者:吉開寛二(著)
出版社:実業之日本社
「ぐるなび」の協力を得て、飲食店で実際にあった感動体験を一般に募集し、厳選した作品をまとめた書籍『感涙食堂』(生活文化出版刊)。その中の感動エピソードをコミック化した、心も満腹になるグルメ漫画です。心に残る、三つ星以上の三つ星店がここにある!!

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