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特許裁判に勝った企業ほど無慈悲なものはない

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東京特許許可局は実在しない。知的財産権の申請や出願は「特許庁」が厳正な審査をおこなっている……はずだが「掃除大臣」というダジャレが商標登録(番号4682334)されていたりもする。

特許といえば発明だ。中村修二さんは、青色発光ダイオードを発明した功績によってノーベル物理学賞を得た。私たちが使っているスマートフォンは特許のかたまりで、iPhoneのアップル社とAndroidスマホのサムスン電子がいつも特許権侵害裁判で争っている。

特許申請ができるのは工業製品だけではない。じつは、食品にまつわるアイデアでも特許権を得ることができる。

サトウ食品VS越後製菓の「切り餅スリット」裁判

2009年、高橋英樹さんのCMでおなじみ越後製菓がサトウ食品を訴えた。両社の看板商品である「切り餅(きりもち)」をめぐる特許権侵害裁判だった。

業界2位の越後が業界1位のサトウを訴える。つまり、越後が勝てば首位逆転のチャンス、サトウが勝てば当分安泰ということだ。まさに天下分け目の戦いであり、ユニークな係争でもあったことからマスコミ各社は大々的に取り上げた。

侵害の対象になったのは、越後製菓が保有している「特許4111382」だ。その内容は「切り餅の側面にスリット(切り込み)を入れることによって焼いたとき餅の中身が飛び出しにくくなる」というものだった。

この裁判は2年以上にわたって争われた。どちらに軍配が上がったのか。正解は……越後製菓!

特許裁判で勝利した企業が、叩きのめした相手企業に対してどのような振る舞いに及ぶかは、つぎの事例とあわせて後段で紹介したい。

ニッスイVS競合他社「冷凍枝豆」裁判

冷食業界で中堅のニッスイが1998年に取得したのは「特許2829817」だ。その内容は「豆の薄皮に塩味が感じられ、かつ、豆の中心まで薄塩味が浸透しているソフト感のある塩味茹枝豆の冷凍品」というものだった。

家庭でも再現できる内容だったのでまさか認められるとは思っておらず、基本的な特許を握られてしまった競合他社はあわてた。翌年の1999年には、ニチレイ・ニチロ・マルハなどの大手企業が、ニッスイの特許に対して異議申立てをおこなう。だが、特許庁の判断は変わらなかった。

つまり「豆の薄皮に塩味が感じられ、かつ、豆の中心まで薄塩味が浸透しているソフト感のある塩味茹枝豆の冷凍品」という条件に当てはまる製品を販売している全ての会社が、ニッスイに特許使用料を支払わなければならない事態におちいった。

特許裁判で負けるとひどい仕打ちを受ける

切り餅スリット裁判に勝利した越後製菓は8億円の損害賠償金をゲットした。知財高裁によって、サトウ食品は「スリット餅の製造設備の廃棄」を命じられる。

それだけでは越後製菓の怒りはおさまらなかった。追い打ちをかけるように、ふたたびサトウ食品に対して19億円の損害賠償請求をおこなう。過去に販売したスリット餅の売上に対するものだった。

切り餅スリット将軍の無慈悲な鉄槌は、まだまだ続く。越後製菓は、業界3位の「きむら食品」に対しても45億円の損害賠償を求めた。過去にスリット切り餅を販売していたからだ。きむら食品は、スリット裁判のときにサトウ食品に有利な証言をおこなっていた。その時のことを越後製菓はけっして忘れていなかった。

冷凍枝豆で天下をとったニッスイは、さらに無慈悲だ。ライセンス料を請求するために41社をリストアップしたという。当然の権利とはいえ、やりたい放題だ。(※ただし、ニッスイの冷凍枝豆特許については2004年に無効判決が確定している)

意外にマジメな芸能人の発明と特許申請

すばらしき特殊特許の世界』(稲森謙太郎/著)は、特許にまつわるユニークな話題をたくさん紹介している。

むかし『発明将軍ダウンタウン』というバラエティー番組があった。本書では、松っちゃんが発明した「絶対に寝坊しない目覚まし時計」について、ていねいな追跡調査をおこなっている。(この番組は好評で1993年から1996年まで放送されていた)

シリーズ累計100万本を記録したPSPの恋愛シミュレーションゲーム『AKB1/48 アイドルと恋したら…』の複雑なシステムは、秋元康さんを発明者として特許申請がおこなわれている。ファン向けにテキトーに作られているかと思いきや、大まじめな内容であり、恋愛シミュレーションゲームに対する並々ならぬ「こだわり」を感じさせるものだった。

ほかにも、誰もが知っている企業がまるでジョークのような特許申請をおこなっていることもある。たとえば、スタンガン機能付きカメラという物騒なものを特許庁に申請した日本の大手企業があるのだが……。

(文:忌川タツヤ)

すばらしき特殊特許の世界

著者:稲森謙太郎
出版社:太田出版
「特殊特許」と筆者が呼ぶ、個性的な特許を紹介。松本人志が発明した目覚まし時計など、ユニークな題材を取材や調査を通じてドラマチックに描く。新しいアイデアづくりのヒントも満載。笑えて学べる特許入門書。

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