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あらゆる怒りを初期消化できる、ロシア軍特殊部隊直伝の「ブリージング」とは?

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とっても怒りやすい長年の知り合いが、怒りを静める方法について書かれた本をめくりながら、「こんな本で怒りが静まるわけないだろ!」と怒っていた。その負のスパイラルは何とも滑稽だが、でも、「怒る」という感情って、そもそも静めることなんてできるのだろうか。 

「喜怒哀楽」から「怒」だけを取り除けるはずがない

怒らないためのメソッド、怒りを静めるための習慣術……その手の書籍や特集記事は定期的に量産されているが、「怒る」という感情を根こそぎ排そうとする働きかけって、さすがに無理がないだろうか。一つの感情を消してその他の感情を残そうとするのは、都合が良すぎる。「喜怒哀楽」から「怒」だけを取り除けるはずがない。

むしろ必要なのは、怒りを嗜む、或いはコントロールする方法を身につけることではないか。どうしたって湧いてしまう怒りに翻弄されない作法を模索するべきではないのか。先の知り合いのように「こうすれば怒りが静まる」と指摘されることに怒り出す人も少なくない。消し方ではなく、受け止め方を考えるべきだろう。

エネルギーとしての感情はすぐに涸れてしまう

北川貴英『人はなぜ突然怒りだすのか?』で紹介されるのは、ロシアで生まれた「システマ」という訓練法。ソ連時代に国家機密とされていた訓練法で、今では「ストレスマネジメントや健康法として世界各国で幅広く活用」されているという。どこよりもストレスフルな場所=戦場で、いかにして高ぶる自分の感情をコントロールするべきなのか。

このシステマを創始したのがミカエル・リャンゴ。ロシア政府内務省直属の特殊部隊の一員だった軍人は「プロフェッショナルは、感情抜きでただその仕事をやるべきだ」と言い張った。高ぶる精神、「ファイト一発!」的な気合こそ、窮地を乗り越えるために必要とされがちだが、感情を高ぶらせたところで「感情のエネルギーはすぐに涸れてしまう」のだ。

怒りの炎を消す呼吸法

システマの骨子は「呼吸」にある。独自の呼吸法「ブリージング」が、「怒りの炎を消す『初期消火』となる」のだ。ブリージングの方法は難儀ではない。「鼻から息を吸って、口からフーッと音を立てながら吐く――。効果が足りなければ何度か繰り返します」。以上。この簡素すぎる呼吸法は軍隊の中で「どこでも誰でも使えるように、極限まで無駄が削られた結果」の手法なのだ。怒りを初期消化できるので、少しでも怒ったかなと自覚したらこの方法で静めていくという。

「怒り」という感情はあらゆる感情の中で、いかにも表出しやすい感情だが、しかし、表面上で沈めたからといっても、まったく消えてくれるわけではない。無意識であってもその感情が体にストレスを与えているかもしれないからだ。このブリージングは「無意識よりも強く、身体に働きかけることができる」という。本書の著者はミカエルをマッサージした経験を持ち、彼がブリージングすると「まるで風船のように身体全体がふくらんだり、縮んだり」したそうで、「トレーニングを積むことで、ここまで呼吸を全身に行き渡らせることができる」のかと驚いたという。

怒りをコントロールする作法にすがるべき

システマを教える際には、顔面を平手で打ち合うトレーニングが行なわれることもあるという。ビンタによって生じた憤りや恐怖感、これをシステマによって沈めていく。その経験を蓄積させ、耐性を高めていく。システマは怒りを前にしてもそれを何かのエネルギーに使おうとはせず、静めようとする。あるいはコントロールし、嗜もうとする。○か×のどちらかに持っていこうとしがちな「怒り」の感情との新たな付き合い方を教えてくれる。怒らない作法を、コレも効かないアレも効かないとイライラしながら探し続けるよりも、怒りをコントロールする作法にすがるべきだろう。

(文:武田砂鉄)

人はなぜ突然怒りだすのか?

著者:北川貴英
出版社:イースト・プレス
ロシア軍特殊部隊が開発した感情コントロール法を大公開!― 巷には〈怒り〉を単に理性で否定する本が溢れているが、人間が生まれ持つ感情の一つだと認めることで、初めて見えてくる対処法がある。旧ソ連時代は国家機密とされたロシア軍の訓練法〈システマ〉は、戦場のようなストレスフルな状況の中で、いかに怒りや怖れといった感情に惑わされず冷静さを保てるかを目的に、開発された。「怒れる自分から自分を守る」「怒れる他者から自分を守る」「怒れる自分から他者を守る」「他者の怒りから身近な人を守る」……。あらゆる〈怒り〉に対処する、実戦の中で磨き上げられた智慧がここにある。

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