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見知らぬ異性と同室になれる旅とは……?

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私は寝台列車が好きで、今までに何度も車中泊をしている。北海道まで寝台カシオペアで往復したことまである。走行音を聞きながら横になると、ああ、遠くへ旅しているんだなあと幸せな気持ちになれていいのだ。

電車で寝るという快感

若い頃は、男性の近くの寝台で寝るなんてことも平気でできた。2段ベッドの開放式寝台で寝る時、自分の上の段や向かいの段が男性でも構わなかった。座席にシーツを敷き、カーテンを引けば、そこは狭いながらも私の城。何も気にせず爆睡できたのである。

19歳の時、今はもう走っていない寝台特急「富士」で宮崎から東京まで帰ってきた時のこと。ハッと目覚めるともう朝で、他の寝台は片づけられており、周囲は皆出勤途中のサラリーマンのような格好をして整然と座っていた。そんな中自分はひとりシーツを敷いたまま高いびきだったらしく……。慌てて起き上がり、そろっとカーテンを開けて窓際に座り、窓の外だけを眺め続け、全てから目を逸らしていたのも、今では懐かしい思い出だったりする。いいのだ!旅の恥はかき捨てなのだ!

7泊8日の超長距離寝台列車

そして寝台列車を愛するものとして憧れるのは、超長距離寝台シベリア鉄道。何しろ長い。モスクワから北京まで約9000キロもある(カシオペアは1200キロ)。始発から終点まで7泊8日も電車に乗り続けなければならない。コミックエッセイ『女一匹シベリア鉄道の旅』では、若い日本女性がひとりでシベリア鉄道に乗り、ユーラシア大陸を横断した時のことが綴られている。

個室は4人部屋で、彼女はひとり旅なのだから、見知らぬ人と相部屋になることもある。これは翌朝になればさよならする日本の寝台とはわけが違う。お互いの降車駅まで何泊も一緒に過ごさなくてはならないのだから、相当な緊迫感があるだろう。私なんてお向かいの寝台だった男性の顔も覚えていないし言葉も交わしていない。けれど彼女の場合は、まず挨拶し、自己紹介するところから旅が始まるのだ。

道中の食料補給の楽しみ

シベリア鉄道は、まさに旅は道連れ世は情けの世界。彼女が同室したロシア人の母子連れさんは、食べ物を分けてくれる。そして同じ車両の皆で毎晩のように飲み会をしたり、それぞれの部屋も行き来する。車掌さんもルームウェアのようなくつろいだ姿になり、皆と交流する。私たちは旅をする時、車掌さんを名前で呼んだりはしないのに、シベリア鉄道の車掌さんは名前で呼ばれる。車掌さんだって旅の仲間なのだ。

モスクワでのピロシキに始まり、最後は中国の北京ダック。旅が進むにつれて、食べ物も変わる。本当に美味しかったんだろうなということが、ほかほか感が伝わってくるイラストを見ると、わかる。そして何より魅力的なのは、車中で摂る食事だった。

長距離寝台の旅はゆっくりで、時にはロシアの田舎町で3時間停車するため、外に出て散策もできる。そこまで長い停車じゃない時は、ホームに寝台客用の市場ができる。そこでは野菜やゆで卵やパンやドリンクなど、長旅に助かりそうな食べ物が調達できるというわけだ。名前も知らないロシアの野菜や魚の燻製。お湯を入れて作るマッシュポテト。御馳走ではない普通の食べ物なのだろうけれど、そういうものこそ寝台車内で食べたらたまらなく美味しいのだと思う。私も昔、青森の駅で停車した際にホームで買ったリンゴのシャーベットの味を今でも思い出せるもの。

寝台は動くユースホステル

広大なロシアの光景を眺めながら過ごす車中。たったひとりで乗っていたら、退屈でどうしようもなくなるかもしれないほどの長旅。でもシベリア鉄道では、まるで動くユースホステルのように、国境も性別も年齢も超えた旅の交流を行うことで、皆がその長い時間をうまく楽しんでいた。

日本では最近、超豪華寝台列車が人気だ。リタイアして時間もお金も余裕がある世代が主に利用するらしい。そこにはカギもかかる広めの個室が並び、よその人との交流はなかなかできそうにないし、3泊4日で数十万円もかかるという。どちらも楽しそうだけれど、憧れるのは、新たな出会いが待っているシベリア鉄道だ。そこでこそ、景色だけでなく、人との出会いもまた旅の醍醐味なのだということを身をもって教えてもらえそうだから。

若い女性が海外にひとり旅をするとなると、時に危険を伴うこともある。けれど、できることなら、こうしたほのぼのとした時間が過ごせる開放的な寝台列車はいつまでも残ってもらいたい。見ず知らずの人と言葉を交わし、食べ物を分け合う。そんな安らいだ時間を過ごした経験で、人は平和のありがたみを知るのだと思う。

(文・内藤みか)

女一匹シベリア鉄道の旅

著者:織田博子
出版社:イースト・プレス
女1人でユーラシア大陸横断旅。芸術の都サンクトペテルブルク、赤の広場のモスクワ、そして7泊8日のシベリア鉄道。謎めいたロシアを初観光!ちょっぴり怖い印象のロシアだったけれど、美しい風景、ロシアの人々との触れ合い、美味しい料理と、意外とあったかいロシアを満喫します!

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