ハウツーが満載のコラム
文字サイズを変更する

ブラック企業を撲滅するためのいちばん冴えたやりかた

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る

毎年2月ごろから実施される「春闘(しゅんとう)」は、大手製造業などの労働組合が賃上げや待遇改善を要求するものだ。労働者には団体交渉権とストライキ権が認められているから、経営側は誠実に対応せざるをえない。

労働運動によって権利を主張できるのは正社員だけではない。パートタイムやアルバイトであっても、労働組合を結成して、経営者に団体交渉を申しこむ権利がある。

ぜひとも紹介したい実話エピソードがある。『15歳からの労働組合入門』(東海林智/著)に収録されている話で、キオスク形式の店舗で働いているパート女性たちがおこなった労働運動の成功事例だ。

働くおばちゃんたちのストライキ

東京地下鉄駅の売店「メトロス」で働くパート女性たちは不満をかかえていた。
2009年当時、メトロスを運営するメトロコマース社には3つの雇用形態があった。正社員、契約A・契約Bに区別されたパートタイマーだ。

もうすぐ定年が迫っていた後呂良子さんは、契約Bに属するパート女性だ。正社員や契約Aパートとおなじ仕事内容なのに、賃金や福利厚生がずいぶんと不利に定められていた。メトロコマース社の正社員労組に助けを求めたが「契約社員は加入できない」と断わられてしまった。

納得できなかった後呂さんは、地域労組に加入して支部を結成した。メトロコマース社における契約Bパート90名のうち、後呂さんを含めて6名が賛同してくれた。待遇改善を求めて経営側と30回以上の団体交渉をおこなった。しかし、後呂さんたちの提案は受け入れられなかった。

もっと労働組合を活用しよう!

日本国憲法第28条では「団結権」「団体交渉権」「団体行動権(争議権)」が認められている。労働基本権と言われるもので、すべての日本国民に認められている権利だ。

2013年3月。ついに後呂さんたちは団体行動権を行使する。いわゆるストライキだ。6名の組合員が「仕事をしない」ことを決行した。とはいえ、たった6名がストライキを敢行したところで、200名以上の働き手がいるメトロコマース社は痛くもかゆくもない。

定年が近いおばちゃんたちが勇気を出しておこなったストライキは、やっぱり失敗に終わったのかといえば……そうではなかった。

ストライキ後には、わずかではあるけれど後呂さんたちの要求が受け入れられた。
メトロコマース社は、東京メトロの100%子会社だ。東京メトロこと「東京地下鉄株式会社」は、国と東京都が主要株主なので公的資本会社だ。憲法が保証している労働組合を通して改善要求を受けていたにもかかわらず、不公平な契約を放置していたことが世間に知れ渡ってしまうのは非常にまずい。そのような状況を、たった6名のストライキによって実現したわけだ。

ブラック企業と過労死を撲滅するためにできること

厚生労働省の統計によれば、最近5年間における労働組合の推定組織率は18%を割り込んでいる。昭和30年代に比べて半減しているのだ。労組(ろうそ)が減ることは、違法で劣悪な労働環境(ブラック企業)が見逃されることを意味する。

15歳からの労働組合入門』の著者である東海林智さんは「ブラック企業は新たな公害」と厳しく断じている。義務教育はもちろん、それ以降の教育にも国の予算が費やされている。まさに「子は宝」であり、経済を支える労働者は国民共有の財産といえる。それを短期間で使い潰すのが、ブラック企業という存在だ。

厚生労働白書によれば、毎年300人以上が過労死で亡くなっている。これは労災認定された件数であり、実態はもっと多いだろう。

本書でも、労災による過労死の事案を扱っている。ある男性は、月120時間以上を超える残業を1年以上つづけて34歳の若さで突然死した。妻と3歳の女の子を残して。

大手外食チェーンで店長職をつとめていた27歳の男性は、月100時間以上を超える残業をおこなっていた。繁忙期であるゴールデンウィーク最終日の深夜に、自家用車のなかで冷たくなっているところを発見された。いつか独立して、妻と共に小さなピザ屋をひらくのが夢だったという。

過労死の危険がある残業のデッドラインは月80時間だ。これでも多すぎる。労働組合が正常に機能していれば前述した2人の男性は亡くならずに済んでいたかもしれない。労働者が団結して得られるのは賃上げだけではない。団結権や団体交渉権によって、生命や健康を害するような労働条件を撤回させることができるのだ。

新しい時代の労働組合。青年ユニオン

「景気の調整弁」という建前で発展してきた派遣社員システム(非正規雇用)は、この国の労働者を分断した。いまは、正社員より非正規労働者のほうが多い企業もめずらしくないので、たとえ同じ組合に属したとしても利害が一致しないために団結が難しくなっている。労働組合がうまく機能しなければ、ストライキも起こらない。賃上げ要求もないし、労働条件の改善もしなくて済む。企業にとって、いまほど都合の良い状況はないだろう。

期せずして分断を生み出してしまった「雇用の流動化」政策によって、伝統的な労働組合は機能不全に陥りつつある。

だが、手をこまねいてばかりはいられない。2000年に有志が立ち上げた『東京青年ユニオン』は、正社員・契約社員・パート・アルバイトを問わず、労働者ならば誰でも加入できる労働組合だ。(なんと、無職の人も加入できる!)この組織は、大手牛丼チェーン店を相手にした団体交渉や損害賠償請求などで成果をあげている。

学生ユニオンと呼ばれる労働組合に行けば、たとえ数千円であっても、未払いの残業代を取り返すために必要な手続きを教えてくれる。ひとりひとりの労働者は無力だが、あなたが勤勉な働き手でありさえすれば、労働組合はかならず味方になってくれるはずだ。

(文:忌川タツヤ)

15歳からの労働組合入門

著者:東海林智(著)
出版社:毎日新聞出版
いま労働に尊厳はあるか? 若年労働者が置かれた「貧困の現場」を告発しつつ、 労働組合を通じて働く希望を取り戻す道を呈示する画期的ルポルタージュ。 <目次> 一五歳からの労働組合入門 ──序にかえて 働く尊厳を取り戻すまで ──派遣労働者と労働組合の出会い ダブルワークの高校生 ──若者の就職をめぐる受難 学生ユニオンという希望 ──労働者の権利を学び、行使する ストライキの復活 ──メトロレディースが立ち上がるとき 企業による殺人 ──過労死、そして遺族の闘い 人間としての価値まで奪われて ──カフェ・ヴェローチェ雇い止め事件 心と体を破壊されて ──労働規制緩和のゆがみと痛み GSユニオンが職場を再建するまで ──現場と仕事にこだわる男たちの闘いの記録 人らしく働かせろ ──秋田書店景品水増し、不当解雇事件 一人で漂う若者たち ──派遣労働者が仲間と支え合う道 ブラック企業時代の労働組合 ──今野晴貴×神部紅×東海林智 つながって、声を上げ、社会を変えるために ──あとがきにかえて

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る

関連記事