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変革期に活躍するためのヒント。マンガでわかる岩崎弥太郎

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俳優の香川照之は、2010年のNHK大河ドラマ『龍馬伝』で、岩崎弥太郎(いわさき・やたろう)を演じている。香川さんの「弥太郎」は、ちょっとやりすぎじゃないかと思うくらい「みすぼらしい、うすぎたない、なさけな~い」人物として脚色されていた。

土佐藩の下士階級に生まれた岩崎弥太郎は、のちに三菱財閥の創業者となる人物だ。ひし形が3つならんだ三菱のマークは、岩崎家と土佐藩(山内家)の家紋に由来する。

徳川家は、幕末において賊軍だった。そんな徳川家と縁が深かった土佐藩の面々が「薩長土肥」といわれる明治政府の要職を得ることができたのは、弥太郎の働きによるところが大きい。

岩崎弥太郎は、龍馬に匹敵するほどの傑物なのだ。

知られざる歴史マンガの名作

ところで、本宮ひろ志が「岩崎弥太郎の伝記マンガ」を手がけているのをご存じだろうか。この作者における歴史ものといえば『夢幻の如く』や『天地を喰らう』が有名だが、幕末の維新志士たちを描いた『猛き黄金の国』(全4巻)も隠れた名作だ。

司馬遼太郎による独特な歴史認識を指して「司馬史観」というが、『猛き黄金の国』では本宮史観とでも言うべき大胆な脚色とストーリーを楽しむことができる。史実のなかに作者の十八番である男女のロマンスをうまく織りまぜて、マンガで楽しみながら歴史の勉強ができるというものだ。

坂本龍馬でおなじみ 土佐藩の身分制度

土佐藩の身分制度には、山内氏の家臣団である「上士(じょうし)」と長宗我部氏の子孫である「下士(かし)」があった。下士は「郷士(ごうし)と「地下浪人(じげろうにん)」に分けられる。坂本龍馬や武市半平太は郷士だが、岩崎弥太郎はさらに下位の地下浪人だった。

地下浪人とは「郷士としての権利」を売却してしまった家格だ。かろうじて苗字帯刀を許されてはいたが、藩の役目には就けないので農業で生計を立てていた。テレビドラマ『龍馬伝』では、香川照之演じる弥太郎が大量の鳥カゴを作って売り歩いていたが、あれは史実らしい。

弥太郎の恩師 吉田東洋との奇跡的な出会い

本書『猛き黄金の国』では、青年時代の弥太郎が、遊郭にて吉田東洋という人物と意気投合するところから始まる。だが、これは史実とは異なる。(当たりまえだ。でも、本宮ひろ志のマンガっぽくて面白い)

吉田東洋(よしだ・とうよう)は、当時における土佐藩の参政(最高執行責任者)だ。テレビドラマ『龍馬伝』では田中泯が演じていた。たまに観直したくなるほど、私にとってはハマり役だった。すばらしかった。

史実では、東洋と弥太郎はお互いが不遇だった時代に知り合うことになる。東洋は激情家で、あるとき泥酔してからんできた目上の侍をぶん殴ってしまい、いちど失脚している。おなじ頃に、弥太郎は不公平な裁判をおこなった代官所の門や壁に腹いせの落書きをした罪をとがめられて入牢している。

刑期を終えた弥太郎は、とある村に追放されたのだが、その近くに謹慎中の吉田東洋が私塾をひらいていた。これは史実だ。東洋は開明的な人物であり、身分を問わない人材の育成をめざしていたので、地下浪人である弥太郎も入門することができた。かなりの秀才だったといわれている。

その後、ふたたび土佐藩の参政(最高執行責任者)に復帰した吉田東洋やその甥である後藤象二郎のおかげで、かつての地下浪人は出世の階段を駆け上がっていく。

激動の時代をしたたかに生きる知恵と心がけ

弥太郎は、大政奉還や廃藩置県の混乱に乗じて、土佐藩の設備や船舶を我が物にしている。それが三菱財閥をきずくための元手になった。不正をおこなったわけではない。

そもそも土佐藩が幕末のパワーゲームの勝者になりえたのは、弥太郎が財政責任者&バイヤーとして老獪な外国商人たちと互角にわたりあい大量の武器弾薬や軍艦を調達した働きによるものであり、当然の報酬といえる。

藩の仕事に従事していた早い段階で、弥太郎は旧来の封建体制に見切りをつけていた。だからこそ中央政府の要職を求めずに企業人の道を選んだ。

恩師である吉田東洋をはじめとして坂本龍馬や大久保利通が暗殺されたのとは裏腹に、おなじくらい敵が多かったはずの岩崎弥太郎は畳の上で天寿を全うしている。賢者にふさわしい身の処し方だ。

激動の時代において、たとえ出世の機会に恵まれたとしても、いかに正しい進路を選択するか。『猛き黄金の国』における弥太郎は、土佐井ノ口村に住んでいた家族を「根っこ」と定めていつも大切にしている。それは、動乱の世にあっても決してブレない判断力の根拠になった

一介の地下浪人が、日本を代表する企業をつくった。時代の変革期における岩崎弥太郎の考え方や身の処し方は、野心をもて余している学生やビジネスパーソンにとって大いに参考になるはずだ。

(文:忌川タツヤ)

猛き黄金の国(1)

著者:本宮ひろ志(著)
出版社:サード・ライン
幕末、土佐井ノ口村で暴れまわる一人の男!後に三菱を築く「岩崎弥太郎」だ。荒れた毎日を送っていたが、ジョン万次郎と出会い広大な海外の話しを聞き、触発される。やがて江戸に遊学を希望するが・・。

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