ハウツーが満載のコラム
文字サイズを変更する

巨大化、取り込み、雌雄同体。深海生物のサバイバル術とは?

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る

ダイオウイカ」をご存知でしょうか。最大18mとも言われている巨大イカです。これまで死体が海辺に打ち上げられていたり、漁の途中で網に引っかかり捕獲されたという例はありますが、生きている姿は確認されたことがありませんでした。

しかし2013年1月に、NHKがNHKスペシャルにて「世界初撮影! 深海の超巨大イカ」という番組を放送。10年という歳月をかけて、生きたダイオウイカを映像に収めたのです。

2013年10月には、東京上野にある国立科学博物館が特別展「深海」を開催。ここで、海洋生物学者の窪寺恒己教授が所有する5mのダイオウイカの標本が展示されました。

筆者は実際に見に行ったのですが、5mとはいえかなりの迫力。窪寺教授曰く「目が見どころ」とのこと。バレーボール大の目は美しく、とても解像度が高いのだそうです。しかしイカは脳が小さく、高性能な目から入ってくる情報を処理しきれないのだとか。うーん、もったいないですね。

ダイオウイカはなんであんなに大きいの?

さて、このダイオウイカですが、だいたい水深500mくらいのところに生息しています。一般的に、水深200m以上のところに生息している生き物は深海生物とされているので、ダイオウイカも深海生物となります。

では、なぜダイオウイカはこんなに大きくなったのでしょうか。これには諸説ありますが、近年は「生存確率を増やすためではないか」とという説が有力です。

つまり、体が大きいほうが他の生き物に捕食される確率が低くなり、生存確率が上がるということ。ダイオウイカの天敵であるマッコウクジラの体長は平均約15m。自分より大きなマッコウクジラくらいしか敵がいないため、ダイオウイカはこれまで生き延びてきたと言われています。体を大きくすることで、深海での生存競争に勝ち残る。そういう道をダイオウイカは進んできたようです。

ちなに、一時期話題になったダイオウグソクムシも、ダイオウイカと同じ理由で大きくなったのではないかと言われています。

少ない食事の機会を逃さないための進化

深海の世界には、さまざまな生き物が生存しています。水深1000m、2000m、3000mと深くなるに連れ、水面からの光はほとんど届かなくなり、生きるために必要な食べ物も少なくなります。

そのため、深海生物は生き残りのために多様な進化をしてきました。ホウライエソは体に比べ異常に大きなアゴを持っていますが、これは自分よりも体の大きな獲物を食べるために進化したもの。しかも、獲物を食べるときにはアゴが外れ、胃袋もかなり伸縮性があります。めったにない食事の機会を逃さないようにするための進化なのです。

有名なところでは、チョウチンアンコウがいます。頭から釣り糸のようなものが出ていて、この先端を光らせ獲物をおびき寄せて食べてしまいます。このように、発光して獲物をおびき寄せる深海生物は多いようです。

出会いの少ない深海での子孫繁栄

また、チョウチンアンコウはオスがメスに比べ極端に小さい「矮雄」(わいゆう)という特徴を持っています。メスは体長2mほどになりますが、オスはその10分の1以下の15cmほど。オスは成熟するとひたすらメスを探して深海を泳ぎまわります。そして、メスを見つけたらペンチのように変形した口でメスの体に噛み付きます

メスは、そのままオスを体内に取り込みます。オスはその後、メスの体の一部として血液を供給されて生きていきます。そうなると、オスは自分で生きていく必要がなくなるため脳も心臓も退化して、最終的にはメスの産卵期に精子を放出するだけの一器官となるのです

暗く広い深海で、オスとメスが巡りあうということはごくまれなこと。偶然出会ったとしても、メスの産卵時期ではないこともあるでしょう。それでも確実に子孫を残すために、メスはオスを自分に取り込んでしまうのです。

そのほか、フデエソ科やミズウオ科などの深海魚は、雌雄同体という特徴を持っています。雌雄同体であれば、2匹が出会えさえすれば繁殖が可能となるため、子孫を残しやすいのです。

生で深海生物を見たいというときは

深海生物には変わった形のものが多く見受けられますが、深海という過酷な状況で生き延び、命を次世代につなげるための進化の結果。不要な機能は退化し、必要な機能だけが残った彼らの形状は、ある意味一番合理的でスマートなものなのかもしれません。

現在、深海魚が常時見られる水族館は、神奈川県の新江の島水族館と、静岡県の沼津港深海水族館。もし、深海生物に興味がわいたら、一度訪れてみてはいかがでしょうか?

(文:三浦一紀 )

深海の科学

著者:瀧澤美奈子
出版社:ベレ出版
人類史上、とても近くて遠い存在である深海。「深海」という言葉には明確な定義はありませんが、生物学者はほとんど光の届かなくなる200m以深をそう呼んでいます。そうなると、地球上の7割を占める海の9割が深海と言えるのです。「しんかい6500」に搭乗した経験のある著者が、生物学、物理学、化学、地学の垣根を越えて、深海の科学を語ります。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る

関連記事