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アンデルセン童話にご用心。ところかまわず、号泣してしまいますから・・・。

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アンデルセン童話には用心しなくてはいけないと、わかっていました。
今まで何度もひどい目に遭ってきたからです。
心のツボを押されるのか、突如、号泣してしまうのです。
それもところかまわず・・・。
バスや電車の中で、我慢できずに読み始め、嗚咽が止まらなくなり、何度、ジロジロ見られたことか・・・。

あまりに悲しいアンデルセン童話

特に、心がささくれているとき、アンデルセンの童話は私にはショックが強すぎます。
悲しすぎて、危険です。立ち直れないくらい、打ちのめされてしまうのです。
せめて元気なときに読むべきなのかもしれません。
そのくせ、参ったなと思う日には、つい図書館に行き、『人魚姫』や『白鳥の王子』借りていました。
もしかしたら、自分はマゾヒストじゃないかと思うくらい、自分の心の傷に塩をぬりこむような真似をしてしまうのです。
気を付けなくては。
鼻水を垂らすほど泣いた姿を誰にも見られたくありません。

これは大丈夫!と思ったのに

けれども、『あるもみの木の物語』(アンデルセン・作/YellowBirdProject・刊)は大丈夫だと思っていました。
表紙もきらきらと輝いたクリスマスツリーで彩られていて、楽しそう。
そろそろクリスマスの準備をと思っていたこともあり、私はいそいそと読み始めました。
今年は父が亡くなり、喪中なので、年賀状も出さないし、お正月の飾りもしない新年ですが、その分、クリスマスツリーくらいは奮発しようと考えていたのです。
ところが・・・。

確かにクリスマスツリーの話だったが

『あるもみの木の物語』は確かにクリスマスツリーのお話でした。
町はずれの森に生えた小さな1本のもみの木が主人公です。
もみの木は自分が小さいことが不満でした。
周囲は立派なもみの木ばかり・・・。
うらやましくてたまりません。
お日様に「若い時間というのは、とても貴重なものですよ」と、諭されても聞く耳を持たず、「早く大きくなりたい」と、ただそれだけを願っていたのです。

夢がかなったその後に・・・

小さなもみの木は成長し、とうとう夢をかなえます。
立派なお宅の居間に運ばれ、大きな植木鉢の中にすっくと立ち、素晴らしく綺麗な飾り付けをしてもらったのです。
もみの木は世界の中心にいるかのように明るく輝いていました。
誇らしさでいっぱいになりながら過ごすクリスマス・・・。
しかし、夢がかなったその後に待っていた現実は、それはそれは恐ろしいものでした。

結末は書かないでおきましょう。
あなたが泣いてしまうと困るから。

生の木のクリスマスツリー

『あるもみの木の物語』を読み終えた時、私はあるヒトの顔を思い出していました。
彼はイギリス通で、お城で催されたクリスマスパーティに参加したことがあるといいます。
そのパーティでは、吹き抜けになった高い天井を破らんばかりに、巨大なもみの木がクリスマスツリーとして飾られるのだそうです。それも生の木を伐り出してきて・・・。
その美しさ、その迫力。
代々伝わる伝統は、彼を圧倒したといいます。
ツリーに飾られるオーナメントも夢のように美しいのですが、何よりも印象的なのは、あたりに漂う生木の香りだそうです。
切り出されたもみの木から樹液が流れ出て、その匂いが周囲に拡散するのです。
す、すごい・・・。
そして、恐ろしい・・・。
だって、もみの木は切り倒されてもなおまだ生きているという証拠ですから。

アンデルセンの物語は目をそむけたくなるような真実を突いてくる

アンデルセン童話が恐ろしいのは、私たちができれば知らないふりをしていたいことを容赦なく、冷酷に突き付けてくるからだと 思います。
小さなもみの木は大きくなることばかりを考えていて、その後に待ち受ける現実を見ようとはしませんでした。
誰だって、できれば夢を見ていたいものでしょう。若さはいつかは失われるなんて、考えたくはありません。
人間は死へ向かって歩く存在だということを知っていながら、知らんぷりするしかないのです。

悲しい物語をたくさん書いたアンデルセンは、貧しい家庭に生まれ、容貌もすぐれず、失恋につぐ失恋の日々だったといいます。
『あるもみの木の物語』は、他でもないアンデルセン自身の伝記だったのではないかと、私は思います。
どんなに悲しくても、孤独にさいなまれても、物語を書き続けたアンデルセンの心を思うと、やっぱり私は泣いてしまうのでした。家で読まなかったら、大変なことになったでしょう。
さて、我が家の今年のクリスマス、どうしようかなと、準備は中断したままになっています。

(文・三浦暁子)

 

 

あるもみの木の物語

著者:アンデルセン、かつなが みつとし(絵)
出版社:YellowBirdProject
もみの木の「幸せ」は、はたしてどこにあったのでしょうか。きれいに着飾って、クリスマスツリーになった時。薄暗い屋根裏部屋で、ねずみ達とお話しをしている時・・あなたはどう思いますか? 【きいろいとり文庫 第15作品目】

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