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女子プロレスファンは見るべき。長与千種(クラッシュギャルズ)VS 長谷川平蔵(火付盗賊改方)

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「テレビ時代劇」と「女子プロレス」。
普通では考えにくい組み合わせですが……女子プロレスラーが「かつら」をかぶって出演したテレビ時代劇がありました。1994年に放送された『鬼平犯科帳』です。

江戸時代という設定で「町娘(まちむすめ)」を演じたのは、元クラッシュギャルズの長与千種さんです。しかも脇役ではなく、第5シーズン第4話《市松小僧始末》というエピソードのメインキャストに抜擢されたのでした。

市松小僧始末

長与千種さんが演じたのは、女子プロレスラーという経歴を活かした「腕っぷしの強い大女」でした。役名は「おまゆ」です。

おまゆは女ながら背たけは六尺に近く、体重は二十三貫という大女で、それが高だかと髪を結いあげているのだから、どこへ出ても人目をひきつけるのにてまひまはかからない。
しかも、豊かな白い肌と肉が造形する顔貌は、ととのっていて愛らしいのである。

(原作小説『市松小僧始末』から引用)

長与千種さんが演じた「おまゆ」は、『鬼平犯科帳』の原作者である池波正太郎のイメージどおりでした。現役時代には「ベビーフェイス(童顔・善玉)」とうたわれていただけあって、まさに「愛らしい大女」はハマリ役です。

長与さんは女優ではありませんが、かえって「初々しさ」をうまく表現していました。長与さんの経験不足を補うかのように、「おまゆ」の恋人役として春風亭小朝さんが配役されているので、奇妙でありながらも絶妙なキャスティングによって、テレビドラマ版『鬼平』のなかでも屈指の名エピソードに仕上がっています。

テレビ版『鬼平』のファンは必読!

女子プロレスラー・長与千種が「おまゆ」を演じた『市松小僧始末』の原作小説には、鬼平こと長谷川平蔵が出てきません。テレビ時代劇『鬼平犯科帳』には、そのような由来のエピソードがいくつもあります。

なかでも『池波正太郎短編コレクション4 にっぽん怪盗伝 暗黒時代小説集』(池波正太郎・著/学研プラス・刊)を原作としたエピソードには、面白いものが多いです。

【収録作品リスト】
江戸怪盗記
白浪看板
四度目の女房
市松小僧始末
喧嘩あんま
ねずみの糞
熊五郎の顔
鬼坊主の女
金太郎蕎麦
正月四日の客
おしろい猫
さざ浪伝兵衛

計12編。長谷川平蔵が登場するのは《江戸怪盗記》と《白浪看板》の2作品だけです。しかし、テレビ版『鬼平犯科帳』では、ほかの8作品にも長谷川平蔵をからませることによって、テレビ時代劇としてのリメイクに成功しています。名作ぞろいです。

二代目中村吉右衛門『鬼平犯科帳』

テレビ版『鬼平犯科帳』といっても、じつは何種類もあります。かつては、丹波哲郎さんが長谷川平蔵を演じたテレビシリーズもありました。(このとき密偵おまさを演じたのは野際陽子さん。『キイハンター』の組み合わせです)

当コラムでは、1989年に製作が始まった「二代目中村吉右衛門・鬼平犯科帳」を取り上げます。尾美としのりさん、梶芽衣子さん、蟹江敬三さんが出演しているテレビシリーズです。

『池波正太郎短編コレクション4 にっぽん怪盗伝』の収録作は、ほとんどが映像化されています。原作小説では鬼平が登場していなかったにもかかわらず、見ごたえのあるエピソードとしてリメイクされています。

女子プロレスラーをキャスティングした《市松小僧始末》のほかにも、専業俳優ではないキャスティングによって成功しているエピソードがありますので、ぜひとも紹介したいと思います。

鬼坊主の女

第4シリーズ第8話《鬼坊主の女》。
1993年放送。ゲスト主演は、ガッツ石松。

同名の原作が『池波正太郎短編コレクション4 にっぽん怪盗伝』に収録されています。小説版との違いは、ひとつは長谷川平蔵が登場するということ。それにより「人情ばなし」のエッセンスが加わっていることです。

ガッツ石松さんが演じるのは、鬼坊主清吉(おにぼうず・せいきち)という盗賊の首領です。まさに「坊主頭」の「荒くれ男」であり、役作りの必要がないくらいのハマリ役でした。

「ガッツ石松=バラエティ」と連想してしまいますが、経歴をたどっていけば、ガッツさんは元WBC世界ライト級チャンピオンのプロボクサーです。さらに言うならば、1970年代からテレビドラマや映画でよくキャスティングされてきました。荒くれ男を演じさせれば、俳優としてはベテランの域に達しています。

妖盗葵小僧

第7シリーズ第3話《妖盗葵小僧》。
1996年放送。ゲスト主演は、島木譲二。

原作は『江戸怪盗記』という小説で、『池波正太郎短編コレクション4 にっぽん怪盗伝』に収録されています。この作品は『鬼平犯科帳』連載開始の数年前に書かれた、いわばパイロット版といえる「長谷川平蔵もの」です。

島木譲二さんといえば「大阪名物パチパチパンチ」「吉本新喜劇」などが有名ですが……かつてはミドル級のプロボクサーだったという経歴の持ち主です。

1996年に放送された《妖盗葵小僧》では、好色で冷酷な盗賊を演じています。かならず「押し入った先の人妻」にひどいことをするという、ひとくちで言えば「ゲス野郎」を見事に演じています。

長与千種、ガッツ石松、島木譲二。いずれの出演エピソードも、2度3度の鑑賞に耐えうるものに仕上がっています。プロスポーツの世界で頭角を現せる人物というのは、やはり才能が豊かということなのでしょう。

(文:忌川タツヤ)

池波正太郎短編コレクション4 にっぽん怪盗伝 暗黒時代小説集

著者:池波正太郎
出版社:学研プラス
やはり池波正太郎が面白い!究極のエンターテイメント短編を網羅したシリーズ。
〈収録作品〉江戸怪盗記 四度目の女房 市松小僧始末 喧嘩あんま ねずみの糞 熊五郎の顔 金太郎蕎麦 正月四日の客 おもしろい猫 他

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