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全能の神がしかけた不倫

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『ゲーム・オブ・スローンズ』というアメリカのケーブルテレビ局・HBO制作のドラマにハマりまくっている。
ストーリーの面白さはもちろんなのだが、全体を通じて漂う空気にどこか独特の懐かしさみたいなものを感じていた。よくよく考えてみて、ようやく思い出した。ハリウッドの特撮レジェンド、レイ・ハリーハウゼンが特撮監督を務めたシリーズ作品だ。

神話をエンタテイメントにした男

このあいだ自宅近くのTSUTAYAに行った時、特撮映画ばかり集めたコーナーがあって、そこで『シンドバッド虎の目大冒険』という作品を見つけた。1977年製作のハリウッド映画だ。中学校の時に新宿ピカデリー劇場でこの映画を見た時の衝撃は、ちょっと言葉にしにくい。

この映画では、フィギュアを一コマずつ動かして撮影する“ダイナメーション”という技法が使われているのだが、決して滑らかとは言えないキャラの独特の動きには今も心奪われる。ダイナメーションを完成させたのが、ハリウッドの特撮技術の歴史そのものと形容されることが多いレイ・ハリーハウゼンである。

恐竜や巨大なゴリラなどのモンスターが出てくる作品も数多く手がけているが、ハリーハウゼンといえばメドゥーサとかペガサス、そして巨人タロスといった神話に登場するキャラクターを思い浮かべる人が多いはずだ。『シンドバッド虎の目大冒険』にも、ストーリーとは直結しない感じでギリシャ神話のミノタウロスが出てくる。

レイ・ハリーハウゼンは、神話とその登場キャラクターを愛してやまかなったに違いない。特にギリシャ神話の神々をスクリーンで動かしたいからこそダイナメーションを開発したのではないかとさえ思えてしまう。

まさに、神話をエンタテインメント化した人物といえるだろう。

星の数と同じほどある物語

しかし、神々の姿を目に見える形で模すという行いは、何千年も前から行われていた。古代人が使ったのは、フィギュアではなく星だった。そして物語が展開される舞台はスクリーンではなく、夜空である。

『星座と神話がわかる本』(宇宙科学研究倶楽部・編/学研プラス・刊)は、太古の時代、夜空に綴られた神話の世界への最高のガイドブックとなるだろう。「王道12星座をはじめとする天空に輝く神々と英雄たちの物語」というサブタイトルもグッとくる。まず、序章の頭の部分を紹介しておく。

星座は現在のところ、約5000年前に現在のイラクを中心としたメソポタミア地方で生まれたというのが定説となっている。たとえば、今日も占星術などでおなじみの『黄道12星座』もこの当時に設定されたものがもととなっている。

『星座と神話がわかる本』より引用

その理由は何か。

農耕民族であったメソポタミア文明の担い手たちにとって、季節の移ろいは重要だった。そのカギを握る太陽の通り道に当たる黄道が、彼らの天体観測の中心となったのは当然だろう。

『星座と神話がわかる本』より引用

メソポタミア文明で生まれた星座の概念は、やがて古代ギリシャに伝わっていく。星座と神話を結び付けたのは、ギリシャの詩人や科学者たちだ。これを機に、夜空に綴られる物語の数は爆発的に増加した。

全能の神がしかけた不倫

筆者が特に気に入ったのは、「夏の星座と神話」という章の冒頭に示されている、はくちょう座にまつわる話だ。

スパルタ王テュンダレオスには美貌で知られる妻レダがいた。美女が大好きなゼウスもさっそく夢中になった。何とか親しくなりたいとは思うものの、相手は人妻。しかも王妃。いくら神とはいえ、そう簡単に近づくことはできない。そこでゼウスは一計を案じた。美と愛の女神アフロディテに協力を頼み、鷲に化けてもらったのだ。そして自らは白鳥に化け、アフロディテの鷲に追われたふりをして、窓辺に座るレダの膝元に逃げ込んだのである。レダは白鳥を抱き寄せると、これを鷲からかくまってやった。こうしてゼウスは思いを遂げて窓辺から飛び去り、白鳥の姿を星座としたという。

『星座と神話がわかる本』より引用

ゼウスと言えばギリシャ神話の主神であり、全知全能の存在だ。そのゼウスがこともあろうに人間の人妻に想いを寄せ、無垢な白鳥に化けて狙った人妻の“膝元”めがけて逃げ込むという姑息な手段に出て、挙句の果てに“思いを遂げる”とは……。

夏の夜空の代表的な星座であるはくちょう座は、全体的には二等辺三角形だ。シンプルな形の美しい星座の背後には、神様が人間の人妻を相手に不倫を画策するという生ぐさい話がうごめいているのだ。

“や座”とか“ほ座”の物語もどうぞ

『星座と神話がわかる本』には、太陽系惑星にまつわるものも含め、こんな話が50本以上も収録されている。また、はくちょう座のような大ネタはもちろん、かみのけ座とか、や座、うさぎ座、ほ座、いるか座など、耳慣れない星座に関する物語も興味深い。

ちょっと値段が高めの天体望遠鏡、それにギリシャ神話大全的な、重厚な全集を買ってしまおうかという気にさせる一冊である。

(文:宇佐和通)

星座と神話がわかる本

著:宇宙科学研究倶楽部(編)
出版社:学研プラス
夜空に輝く星座は、ギリシア神話など、神話・伝説に登場する神々や英雄、動物たちがかたどられている。彼らは、なぜ星座として空に上げられたのか。また、そこにはどんなドラマがあるのか。星座にまつわる神話・伝説をエピソードを交えて紹介する。

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