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石岡市にも忠犬ハチ公がいた!

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日本犬が世界各地で飼われ、大人気だ。
ロシアのプーチン大統領の愛犬“秋田犬のゆめ”、レディ・ガガの愛犬“柴犬のヨーコ”、そして日本では“秋田犬のわさお”などが有名だ。

秋田犬も柴犬も警戒心が強い犬種だが、愛情が深く、飼い主にはとことん忠実なのが愛される理由だ。

日本犬ブームに火をつけた映画

来日する外国人の多くは渋谷駅前のハチ公像を見て、撫でて、記念撮影をしていく。帰らぬ主人を駅で待ち続けたハチ公の物語に世界の人が涙するきっかけになったのが、2009年に公開されたアメリカ映画『HACH I約束の犬』だった。日本映画『ハチ公物語』のリメイク作品だ。

舞台を渋谷からアメリカ東海岸に移し、駅で迷子になった秋田犬の子犬をリチャード・ギアが扮する大学教授が保護して飼いはじめる。HACHIと名付けられた犬は、毎朝晩、教授を駅まで送り迎えをするのが日課となり、幸せに暮らしていたのだが、ある日、教授が病に倒れてしまう。飼い主の死を理解できないHACHIはそれからも雨の日も風の日も駅に通い、ただひたすらに教授を待ち続ける。そうして、感動のラストシーンはHACHIが天に召される瞬間、夢の中で教授との再会を果たすというストーリー。

この映画がきかっけとなり、世界中で日本犬が注目を集め、秋田犬、そして柴犬を飼う人が増え続けているというわけだ。

人間だったら諦めてしまうが、犬は決して諦めない。自らの命が尽きるまで愛する主人を待ち続ける姿に私たちは感動してしまうのだ。

昭和の雑種犬は賢かった

しかし、ご主人を待ち続けたのはハチ公だけではない。茨城県の石岡駅でなんと17年間も生き別れてしまった飼い主を待ち続けた犬がいたのだ。

ふたつの名前で愛された犬』(平野敦子・作、こばようこ・画/学研プラス・刊)は実話を元に描かれた感動の物語だ。

昭和の時代に飼われたいた犬の多くは雑種犬だった。でも、血統書つきの純血種よりも劣ることなく、賢く、忠実な犬が多かった。物語の主人公のコロも茶色と黒の毛が入り混じった雑種だった。

それは昭和39年、東京オリンピックが行われた年のこと。
5歳の幼稚園児だった少女の親友は、家で飼っていた雑種犬のコロ。ふたりは仲良しでいつも一緒に遊んでいたそうだ。

少女は玉造町に住んでいたが、列車で30分もかかる石岡市の幼稚園にたったひとりで通っていた。現在は廃線になっている鹿島鉄道の玉造駅から石岡駅までを毎日毎日往復していたのだ。そして駅まで送り迎えをしていたのが仕事で忙しい両親ではなく、愛犬のコロだったのだ。

5歳児の大きな後悔

少女とコロは一緒に駅まで歩き、改札を抜け、ホームで待つ。列車が着くとふたりは一緒に乗り込み、そうして少女が座席に座り、コロの頭をやさしく撫でると、それが合図となってコロは回れ右をして列車から降りて、家に戻る。そして夕方になるとコロは改札口で少女の帰りを待つという平穏で幸せな日々を送っていた。

が、ある朝、少女がコロの頭を撫でるというたったひとつの行為を忘れたため、列車はコロを乗せたまま発車してしまった。それが、ふたりにとって最初で最後の短い旅となってしまったのだ。

5歳の内気な少女にとっては、大人は怖い存在だ。石岡駅までコロと来てしまった少女はそこではじめて事の重大さに気づくこととなった。

「その犬は、おじょうちゃんの犬なのかな?」

とうとう駅員にたずねられ、こっこちゃんはどう答えていいのか分からず唇をかみしめます。

(本当はコロを列車に乗せてはダメだったんだ! わたしはいけないことをしてしまったんだ、どうしよう? どうすればいいの……?)

 こっこちゃんはすっかりうろたえてしまい、何も言えなくなってしまいました。

(『ふたつの名前で愛された犬』から引用)

もう一度、駅員にたずねられた少女は、つい反射的に首を横に振ってしまった。それがふたりにとって永遠の別れになるなど少女は考えもできなかっただろう。

コロはタローになっていた!

駅員によって列車から、そして改札から追い出されていくコロを少女は涙をためながら見送ることしかできなかったそうだ。大声で叫びたくても口が思うように動かなかったのだという。

その後、少女はショックのあまり高熱を出して倒れ数日間寝込んでしまう。両親もコロが心配だったが、そのことまで聞きだせる状態ではなかったそうだ。

熱が下がったとき、少女はやっと重い口を開いた。

「お母さん、ごめんなさい! コロは石岡駅まで列車に乗って来たんだけれど、こっこが『コロのことを知らない』ってウソをついてしまったせいで、コロは追い出されてしまったの。本当にごめんなさい! コロがいなくなってしまったのは、みんなこっこのせいなの。」

(『ふたつの名前で愛された犬』から引用。

それから石岡駅周辺を家族で必死で探したが、数日間のズレは致命的で、どうしても見つけることができなかったのだそうだ。

コロは犬の嗅覚を生かし、一度は少女の通う幼稚園までたどりついたようだが、園長が捕まえようとすると逃げてしまったことまではわかったのだが……。

迷子になったコロはそれから石岡の町を長い間逃げ回っていたようだ。やがて首に針金が巻きつき、怪我をしたコロは、石岡市立東小学校の当時の用務員の娘さんに発見され、保護される。そして、その後、校内で飼われるようになったのだ。児童たちによってタローという新しい名前をもらい、みんなに愛されて生きていったそうだ。

学校犬として幸せな日々を送っていたタローだったが、午前8時半と午後3時半きっかりに、毎日欠かさず石岡駅に通った。そしてそれはタローが天に召されるまで、なんと17年間も続いたのだそうだ。誰かを待っていることはわかっても、それが誰なのかわからず謎のままだったそうだ。

飼い主の少女がコロの消息を知ったのは、それから45年後も経った日のことだったという。

(十七年間も石岡駅に通いつめ、わたしのことを待ち続けてくれたコロは、本当にしあわせだったのかしら?)(中略)

「動物は決して人をうらぎらないものなんですよね。わたしはそのことをコロに教わりました。こちらが愛情をかければかけるほど、それ以上の愛情を返してくれるのが、動物のすばらしいところなんですよね。」(『ふたつの名前で愛された犬』から引用)

映画のラストシーンのように、コロはきっと天に召される瞬間、夢の中で少女に再会し、幸せな気持ちで旅立ったに違いない。

(文:沼口祐子)

ふたつの名前で愛された犬

著者:平野敦子、こばようこ
出版社:学研プラス
茨城県石岡市であった実話、初の児童書化。
小学校で飼われている人気犬タローには毎朝毎夕駅に出かけていくという奇妙な習性があった。

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