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新定番都市伝説には“友だちの友だち”が登場しない

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いわゆる都市伝説と呼ばれるジャンルの話が大好きで、大学生だった80年代からさまざまな話を集めてきた。最近は掲示板や各種SNSが充実していて、新しい話の流布に関しては発信面でも受信面でも速度が格段に上がっている。

友だちの友だちが遭遇した奇妙な事件

しかし、筆者が“採話”を始めた頃は本当にアナログな手段しかなく、テレコと手帳を持って新宿とか渋谷に行き、何人もの人々に声をかけて知っている話を聞かせてもらうというプロセスが不可欠だった。

都市伝説というものを筆者なりに定義するなら、こういうものだと思う。

“友だちの友だち”という、近い間柄ではなく、特定も出来ない人が体験したものとして語られる、起承転結が見事に流れる話。

こうも言えるかもしれない。

 本当にあったとして語られる実際には起きていない話。あるいは、実在しない可能性が高い人間の体験に関する物語。

具体的にはどういうことなのか。それを示すために、ここで超有名な話をひとつ紹介しておきたい。

遊園地の人さらい

1996年の春から秋にかけ、幼い子どもを持つ人なら知らない人がいないくらいの勢いで広がった噂だ。こんな感じで語られることが多かった。

“友だちの親戚の家族(あるいは友だちの友だちの家族)が、実際に体験した話。両親と娘の3人家族で遊園地に行って、娘がトイレに行きたくなったから、一人で行かせたんだけど、全然帰ってこない。母親がトイレに探しに行っても、どこにもいなかったらしい。

迷子センターに駆け込んで警備員に事情を話すと、警備員に「すぐ一緒に出口に来て、出る人をチェックして下さい」って言われた。

出口で人の流れを見ていると、娘と同じ靴をはいている男の子を見つけた。不審に思って警備員に伝えると、警備員は男の子を連れていた男をその場で取りおさえたらしい。よく見ると、男の子はいなくなった娘だった。

娘はトイレで誘拐されて、髪を切られて服も着替えさせられて、男の子の格好にさせられていたんだけど、靴だけは元のままだったから、見つけることができたの。最近、こういう誘拐未遂が多いんだってさ……。”

この件、実は自分で調査しました

当時複数の女性(30代後半~50代前半)からこの話を聞いた筆者は、その“友だちの親戚”とか“友だちの友だち”の家族をたどっていくという、実に非生産的で時間を食う地道な作業を実際に行った。

東京から始まって群馬、福岡と長崎まで足を延ばして体験者を探したが、会うことはできなかった。そりゃそうだ。そんな事件、そもそも起きてないんだから。一連の過程は、一部の人々が真実であると疑わない事件が起きていなかったという事実の確認だったことになる。これには、理由があった。

ユタ大学の名誉教授ジャン・ハロルド・ブルンヴァン氏は、現代アメリカ都市伝説研究家の第一人者として知られる人物だ。1984年に出版されたブルンヴァン氏の著書『チョーキング・ドーベルマン』にも、まったく同じ展開で進むストーリーのさまざまなバージョンが紹介されている。

遊園地の人さらいの話は、アメリカで80年代から噂されていた都市伝説が、日本の有名遊園地を舞台として進化したものだったということが筆者なりに確認できた。たまたま仕事でアメリカに行った時にカリフォルニアとユタでも多くの人から話を聞いたが、“友だちの友だち”の実体験として認識している人が決して少なくなかったことを覚えている。

都市伝説の新しい方向性

そんな筆者が『あなたの知らない都市伝説の真実』(皆神龍太郎・著/学研プラス・刊)に食いついたのは、当然の成り行きだ。

どんなネタを取り上げてるんだろう? フリーメイソン、UFO、超常現象、“怪”伝説、そして陰謀論。目次を見て思った。都市伝説は、かなり前に大きな転換期を迎えたような気がする。その潮目は、2000年代に入った頃だったかもしれない。

それまでお約束のはずだった“友だちの友だち”という存在の登場回数が圧倒的に減り、それと同時に、インターネットやAIを駆使した全世界規模での洗脳プログラムとか秘密結社、“世界政府”の極秘計画、そして偉人たちの黒歴史的な話が新ジャンルとして目立つようになった。

本書は、新定番となったジャンルの話の内容を数多く紹介し、背景にあるものを浮き彫りにする試みをしている。サブタイトルどおり、皆神さんのスタンスは「だまされるな!」であり、立ち位置的には、遊園地の人さらいの話に関する調査を行った時の筆者の姿勢と同じく、ディバンカー――偽りや誤りを暴く人――である。ただ、都市伝説的な要素を全否定しようというわけでは決してない。むしろ、都市伝説を愛するからこそ、いい加減なことが許せないんだと思う。

口伝が当たり前だった都市伝説も、IOT時代ではインターネットとつながってしまう。昔はその存在なしには話が成立しなかったはずの“友だちの友だち”も、サイバースペースのどこかに埋没してしまったようだ。

このあたり、時代の空気を敏感に反映する都市伝説の特徴ならでは、と言えなくもない。上質なポップカルチャー検証本であると同時に、会話のネタを提供してくれる一冊だ。

(文:宇佐和通)

あなたの知らない都市伝説の真実 だまされるな!あのウワサの真相はこれだ!

著者:皆神龍太郎
出版社:学研プラス
巷に溢れる都市伝説の数々。フリーメイソンは世界を支配する陰謀組織なのか? 江戸時代にUFOが漂着していた……ウソか、まことか、数々その真相を日本一のデバンガーと言われる著者がひもとく。そこには意外な真実が横たわっていた!

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