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ネオンが照らし出すアキバの歴史

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そろそろiPhoneを新しくしたい。
6が出たときはサイズに違和感があってスルーすることにした。でも、7が出たときは、カメラの機能が――特に7プラスは――格段に上がったことを知り、かなり心が揺らいだ。以来、その状態が続いている。

iPhoneをカメラとして使い倒す

そもそも写真にはほとんど興味がなかった。
ただ、ガラケー時代から取材の記録として写真を撮っていて、機種変後は愛用の5sを使い続ける過程で、ベランダから見えた虹とかあまりにも見事な満月とか、桜吹雪とかの写真を撮るようになった。

風景写真は面白いのかもしれないと思い始めてから、気になった場面は必ず撮るようにしている。でも、CMで見るようなクールな1枚はなかなかモノにできない。これはと思ってシャッターを切っても、後で確かめると、その瞬間の意図が出きっていない。

「趣味は写真です」なんて言うと自分を追い込むことにつながりそうだから、それはしない。
でも、「一応、撮ってるんですよ」みたいな響きは醸し出したいので、「写真は好きです。撮るのはiPhoneに限ってですが…」といった言い方をすることにしている。

ヨーロッパ人がハマる日本のネオン

少し前、知り合いの編集者何人かと下北沢のとある飲み屋にいたとき、いかにも観光客という感じの欧米人のグループが隣のテーブルに座った。何かのきっかけでどちらからともなく会話が始まり、少し経つと、二つのグループがごちゃまぜになって全員でひとつの大きなテーブルに座っていた。彼らはドイツから来ていて、10日間の滞在で東京を満喫しているという。

やがてひとりがiPhoneを取り出し、写真を撮り始めた。話を聞くと、日本は初めてだという。ひとしきり撮り終えたのを見計らって、それまでにどんな風景を撮ったのか見せてもらうことにした。

視点が面白い。電柱の変圧器から何本も出ている電線とか、電線にとまっているカラスやハトとか、井の頭線の行き先表示とか、赤ちょうちんとか鳥居の写真が続く。

枚数が多かったのは新宿や渋谷など都心部の夜景だ。「日本のネオンはヨーロッパと色味が違う気がする」と言っていた。中でも印象に残ったのが、秋葉原の夜景を写した何枚かだ。丸みのある漢字の形と、ネオンの色の組み合わせに強く日本を感じるという。

フォトジェニックなアキバ

『電気街アートミュージアム』 (フォト秋葉原・著/学研プラス・刊)は、あの夜会ったドイツ人――確かアロイスという名前だった――が語っていた感覚をそのまま形にしたような写真が並んだ一冊だ。

著者として紹介されているフォト秋葉原というのは、会社名でも団体名でもない。プロフィールがちょっと気になったので、ここで紹介しておく。

秋葉原を愛する男性。

芸術を追求する写真家でもなく、また商業のために写真を撮るカメラマンでもなく、“ただ秋葉原を愛する1人の人間”として、その“いま”を撮り続けている。

『電気街アートミュージアム』より引用

コーヒーテーブルに置いてあるような、大型の画集や写真集を意味する“コーヒーテーブル・ブック”という言葉がある。語感をそのまま活かすなら、『電気街アートミュージアム』は、デジタル・コーヒーテーブル・ブックとでも呼ぶのがふさわしいと思う。写真集である以上、ある程度の画面の大きさは欲しい。筆者には、タブレットで見るのが一番しっくり来る。

夜の街で歴史を彩る

一番心惹かれた第1章には、「ネオンと秋葉原の“近年”」というタイトルが付けられていて、こんな文章が記されている。

うつろいの激しい秋葉原の風景だが、ネオンはいまだに強い存在感を放つ。その光は、いまなお変わりゆく街の名に遭って、建物や店舗の“歴史”を伝えてくれる。

『電気街アートミュージアム』より引用

アロイスの目に映った日本独特の色味は、ネオンに宿る歴史の存在感だったのかもしれない。

ネオンというひとつの視点から、過去、いま、そして未来の秋葉原の姿に想いを馳せていただければ幸いである。

『電気街アートミュージアム』より引用

ごく身近なアート

この本は、こんな言葉で締めくくられている。

この本に掲載したネオンたちは、秋葉原が描いてきたアートであり、街の歴史を雄弁に物語る。一種の“文化遺産”と表現しても過言ではないだろう。

『電気街アートミュージアム』より引用

秋葉原を訪れる度に感じる懐かしさに似たものは、アートであり文化遺産であるネオンが宿し、発散している何かなのかもしれない。

今度、ただぶらぶら歩くのを目的にアキバに行ってみたい。陽が落ちて、暗くなり始めるくらいの時間がいいかな。ちょっと濃い目のハイボールの缶を片手に、ネオンが語る歴史物語に耳を傾けてみることにする。

 (文:宇佐和通)

電気街アートミュージアム

著者:フォト秋葉原
出版社:学研プラス
ネオンは秋葉原電気街が描いてきたアートである。それは街を彩ると同時に、秋葉原の変化を色濃く反映する。石丸電気、サトームセン、ラジオ会館――懐かしさと斬新さが同居する“ネオン視点”のアキバを堪能できる唯一の写真集。

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