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長年の悪習慣を叩く5つのメソッド

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近頃、朝ちょうどいい感じの時間に起きられない。
暑いのも原因のひとつなんだろうけれど、夜もエアコンをハイパワーでかけっぱなしなので、最大の問題は室温ではないと思う。睡眠時無呼吸症候群も疑ったが、頭を高めにして寝るようになってからいびきも収まったから、これも違うようだ。

睡眠相後退症候群

20年ちょっと前の話。
フリーになりたての頃、文庫本を作るためにとある編集プロダクションと仕事をしていたことがある。このときの担当である女性編集者に会うのがとても難しかった。午前中の打ち合わせは完全にNG。13時の約束なのに15時にならないと来なかったり、ひどい時は16時開始にも間に合わなかったりした。

もろもろの進行に支障が出るようになってしまったので、彼女の直属の上司を含めて3人で話し合うことになった。その席上、彼女がこう言ったのを覚えている。「私、睡眠相後退症候群じゃないかと思うんですよね……」

睡眠相後退症候群。ごく簡単に言うなら、生活パターンが夜型になって思いどおりの時間に眠ることができなくなり、それが原因で朝起きられなくなるという症状だ。体内のリズムが乱れ、睡眠障害が起きる。朝方まで眠れないが、いったん眠り始めると遅い時刻まで目が覚めない。

ものものしい響きの言葉なので、「それはお医者さんにきちんと診てもらったほうがいいでしょう」なんて思い始めた頃、彼女はいきなり休職してしまった。

ベターな自分像

筆者もかなり夜更しで、早起きはものすごく苦手だ。仕事がたてこんでいるときは気持ちが煽られるので早く目が覚めるが、それでもベッドに横になったまま、なんだかんだ理由をつけて二度寝してしまう傾向も否めない。飼っているわんこがご飯の容れ物を鼻で押す音で、やっと起きる気になる。

もっと早く起きればわんこのご飯も早く終わって、朝のうちにお散歩もできる。仕事にも早く取りかかることができるだろうし、何より気持ちに余裕が生まれるにちがいない。

そういうメリットをすべて否定する二度寝を、悪いとわかっていてやめられない、筆者にとって現時点での最大の悪習慣だ。

人間性を根本から否定されるほどの致命的な欠陥ではないだろうけれど、“きちんとした”時間に起きることができれば、ベターな人間に近づけるような気がする。どうやったらいいんだろう?

脳の仕組みから悪習慣を叩く

悪習慣と呼ばれるものは、人の数ほどあるはずだ。ならば、解決策に関しても同じことが言えるだろう。双方のいくつかが具体的な形で示されているのが、『スマート・チェンジ』(アート・マークマン・著、小林由香利・訳/CCCメディアハウス・刊)だ。著者にとってささりすぎる文章が序文から続く。

自己啓発の本を読んだり、アドバイスに耳を傾けたところで、効果は長続きしない場合がほとんどだ。行動を変えるのは難しい。そんなことが言えるのは、私がキャリアのほとんどを費やして、より健康的な選択をさせようと努めてきたからだ。

『スマートチェンジ』より引用

著者アート・マークマンさんは、テキサス大学オースティン校で教鞭を取る認知心理学者だ。「思考の速さを最大化する」研修プログラムを開発し、アメリカの多くの有名企業のコンサルティングも手がけている。

ちなみに、序文を書いているのはマークマンさんがスタッフの意識改革を手がけた医療機関の健康増進最高責任者を務める医師である。「認知科学に裏付けられた行動改善戦略」に基づくプログラムの効果を現場で目の当たりにした人だ。

さらに読み進めてみる。

そのマークマンが本書で動機付けの謎を解き明かす。脳の実際の仕組みについて解説し、あなたが過去に自分の行動を変えようとして失敗したわけを探る。それどころか、どうすれば行動を変えられるかまで教えてくれる。

『スマートチェンジ』より引用

医療関係者がここまで明言するなら、ちょっと読みたくなってしまう。

この5本柱で悪習慣にさよなら

まず提示されるのは、行動を改善することの難しさだ。
その理由をつまびらかにして、スタート地点での意識をしっかりと作っておく。これを踏まえ、筆者が“ゴーシステム”“ストップシステム”と呼ぶ脳内のふたつの回路についての説明がある。ここから、以下に示す五つの具体的な手法について話が進んでいく。

・できるだけ具体的な目標を立て、結果ではなく目標に至るまでのプロセスを重視する。
・ゴーシステム➡よい計画を立て、必ず発生する障害に対処する。
・ストップシステム➡自分の限界を知り、誘惑となりそうなものと距離を置き、自分の意思力を見直す。
・新しい行動を続け、習慣化して、誘惑を寄せつけないようにする。
・今の人間関係の種類を分析し、変化を受け容れ、他者とのコミュニケーションの質を高める。

マークマンさんによれば、脳は習慣を作ろうと働く。ものごとを考えるには大きなエネルギーが必要なので、習慣としてあらかじめインプットされた項目が多ければ、日々の暮らしでエネルギーの消費を抑えることができる。ただし、“考えなくてもよいこと”と思えるものは往々にしてポジティブな性質ではない。

マークマン・メソッドの中核となる二つのシステムについても簡単に説明しておきたい。
ゴーシステムは、“個人の習慣製造マシン”として働き、ストップシステムは、“取りたくない行動を監視する”、そして“望ましくない行動を食い止める”という働きをする。この二つのシステムを両輪として回しながら、行動や人間関係を分類していく。結果として、悪いと思うものへの意識が強まり、悪習慣を減らしていくことができるようになる。

まだ間に合いそうです

悪い習慣を克服する過程において、気持ちの強さや精神論を前面に押し出すメソッドが重用されたのは、はるか昔の時代だ。脳の仕組みから考え、認知心理学的アプローチで解決していく方法は、この本のまえがきでも示されているように、効果的であることが証明されている。『スマート・チェンジ』は、悪習慣から脱却する方法についてのていねいなケーススタディであり、マニュアルにほかならない。

不可能な話ではあるが、この本を読んでいたらあの女性編集者の状況も変わっていたかもしれない。話し合いの時点ではまだ、医師から睡眠相後退症候群を宣告されたわけではなく、おそらく程度の重い悪習慣というレベルだったはずなのだから。

幸いにして、まだ彼女ほどシリアスな状態に陥っていない筆者にとって、自発的にできることはたくさんありそうだ。

(文:宇佐和通)

スマートチェンジ

著者:アート・マークマン
出版社:CCCメディアハウス
名門クリーブランド・クリニックのメソッドで、どんな悪習慣や問題行動も変えられる。
ライフスタイルを変化させるだけではなく、新しい行動や良い習慣を維持するための「動機づけシステム」を自分にプログラムしていくための技術を、認知心理学的に伝授。

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