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なぜ、元祖ブラック企業「蟹工船」は摘発されないのか?

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いつの世にもブラック企業は絶えない。さかのぼること90年前に『蟹工船』と呼ばれる過酷な労働環境があった。

『蟹工船』は、北海道のオホーツク海上に浮かぶ無法地帯だった。あくまでも「工船」であって航船ではないため「航海法」が及ばないからだ。そして、漁獲から加工までをすべて海上でおこなっていたので、当時の労働基準法にあたる「工場法」の適用外だった。

低賃金で1日20時間労働はあたりまえ。風呂は月2回のみ。なぜ、そのような脱法企業が容認されていたのか? 『蟹工船』は、おもに日本軍向けの缶詰を製造していたからだ。いわば「国家公認のブラック企業」だった。

プロレタリア作家・小林多喜二

小説『蟹工船』を読んだことがなくても、おぼろげに「戦前のひどい労働環境を告発した内容」であることを知っている人は多いだろう。ブラック企業という用語が生まれる前までは、ひどい職場を「現代の蟹工船」と評していたように思う。

『蟹工船』の著者である小林多喜二(こばやし・たきじ)は、共産主義者を取り締まる特高警察による拷問が原因で亡くなっている。昭和8年の事件であり、享年29歳だった。

なぜ逮捕や拷問に至ったのかといえば、多喜二が共産党員でありスパイ嫌疑をかけられていたからだ。一説によれば『蟹工船』の前年に発表した小説において「特高警察の拷問シーン」を描写したことにより目をつけられたとも言われている。

ちなみに、小林多喜二は元銀行員だ。時代は違うが、あの半沢直樹とおなじ職業であり、はからずも特高警察に「倍返し」されてしまったわけだ。これが書きたかった。満足した。

非正規雇用問題と似ている

小説『蟹工船』をひとくちで言えば、社会的弱者が勝利する「勧善懲悪もの」だ。賃金労働者たちに読んでもらうことを意識して書かれているので、わざとらしいくらいにストーリーがわかりやすい。

そのため、時代を経ても共感をおぼえる者があとをたたない。2008年には「蟹工船ブーム」なるものがあった。1年間だけで50万部ちかくを売り上げている。

ブームの要因は様々だ。2006年あたりからNHKをはじめとするマスコミがワーキングプアについて取り上げはじめる。2007年には、非正規雇用にまつわる議論がますます盛り上がりをみせて、非正規雇用の職に従事していた赤木智弘の社会論『31歳、フリーター。希望は、戦争。』が論壇をにぎわせた。

『蟹工船』という作品それ自体が再評価されるきっかけは、2008年1月の毎日新聞に掲載された雨宮処凛と高橋源一郎の対談だと言われている。社会運動家である雨宮処凛の「いまのフリーターと状況が似ている」という発言が注目をあつめた。

同年の6月には秋葉原通り魔事件が発生。関連性は不明だが、加害者が低賃金の非正規雇用の立場であったことにも注目が集まった。同年9月にはリーマン・ショックが起きている。国内において、業績悪化を理由に契約満了前に雇用を打ち切る「派遣切り」が増加したせいなのか、高視聴率を記録した人気ドラマ『ハケンの品格』続編が制作されることはなかった。

たのしく学べる「まんがで読破」シリーズ

いかがだろうか? およそ90年前に書かれたとはいえ『蟹工船』は現代的なテーマを含んでいる。でも「プロレタリア文学」って難しそう……。共産主義とか社会主義って、なんか時代遅れっぽい……。

そんな貴方には『蟹工船 ~まんがで読破~』をオススメしたい。

(1)これを読めば、原作を読んだフリができる
(2)『るろうに剣心』みたいなカッコイイ絵柄
(3)読んだからといって「洗脳」されることはない

とくに(1)を強調したい。『蟹工船 ~まんがで読破~』はコミカライズの傑作と言ってもよい仕上がりだ。きびしい感想が多いことで有名な「某ネット書店のカスタマーレビュー」でも高評価が多い。すこしだけ改変しているものの、原作のエッセンスをマンガでもれなく再現しているからだ。

私が『るろうに剣心』大好きっ子なせいもあるが、彷彿とさせる絵柄であり、迫力と躍動感たっぷりに仕上がっている。『剣心』が明治剣客浪漫譚ならば、『蟹工船』は昭和蟹缶闘争譚だ。いま小林多喜二がアツい!

(文:忌川タツヤ)

蟹工船 ~まんがで読破~

著者:小林多喜二(著) バラエティ・アートワークス(著)
出版社:イースト・プレス
極寒のカムチャッカ沖。ここは地獄の釜の底だ! 昭和8年、治安当局に拷問虐殺された作家・小林多喜二の代表作。労働者と資本家の対立、下層社会を描いた「蟹工船」は実際の事件を基にした作品。軍閥支配の進む昭和初期。北洋オホーツクで蟹を獲り缶詰に加工する工場船「博光丸」では、貧しい労働者たちが働いている。不衛生な環境、長時間労働を強制する監督浅川。過酷な環境に耐えきれず、やがて労働者たちは一致団結し、ストライキを起こすが……。「資本と労働」の普遍的テーマを描いたプロレタリア文学の代表作を漫画化! 小林多喜二(1903?1933) 秋田県生まれ。小樽高商卒業後、北海道拓殖銀行に就職するが、解雇され上京。『蟹工船』を発表し、プロレタリア文学の旗手として注目される。その後、当時、非合法の日本共産党に入党し、左翼活動に注力するが、内通者によって当時の特高警察に逮捕され、過酷な拷問により、29歳という若さで獄中死した。

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