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「嫁に来てほしい」と手紙が殺到した女子アナとは

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アナウンサー、特に女子アナは、常に羨望と嫉妬を浴びている職業です。
だからこそ、ちょっとした粗相に対して、世間の目が厳しく向かいます。
日本語が乏しければ叱責されるし、プライベートがだらしなければ叩かれるのです。 

バニーガールで出るように指示された女子アナ

少し前に、日本テレビのアナウンサーに内定していた女性に、ホステスとしてのアルバイト経験があったことが分かり、「清廉性が足りない」という理由で一旦内定が取り消されるという事態が起きました(その後和解)。

先日、フジテレビに在籍していたフリーアナウンサー、近藤サト×八木亜希子×中村江里子による鼎談が放送されていました(『ボクらの時代』3月15日)。そのなかで、その「清廉性」を話題にあげた3人は、自分たちが新入社員だったころは、ゴルフ大会のプレゼンターとしてバニーガールで出るように指示された、という仰天エピソードを明かしました。まったく呆れますが、時代によって女性アナウンサー(キャスター)への見方は変わってきています。

日本初の女子アナが半年で辞めた理由

女子アナに求められきたもの、その変遷は、テレビを見つめる視聴者の目線の変化でもあります。NHKアナウンサーの松平定和『アナウンサーの日本語論』には、正しい日本語はかくあるべし、という指摘と同時に、アナウンサーの変遷が詳しく記されています。本書で引用されているNHKアナウンサー史編集委員編の『アナウンサーたちの七〇年』によれば、初となる女性アナウンサーが入局したのは、東京放送局(現在のNHK)がスタートし、本放送がはじまってからわずか3ヶ月後のこと。

初の女子アナ・翠川秋子さんは、「断髪洋装でアイシャドーをつけていた」、かなりモダンなアナウンサーでした。シングルマザーで子供を育てながら働いていた翠川さんは半年で辞職します。その理由は、「局内の風当たりが強かったため」。彼女はやがて、館山海岸で若い男性と入水自殺をしてしまいます。

「ぜひうちの孫や息子の嫁に来てほしい」

今では当たり前となったアナウンス技術にプロンプターがあります。最近では政治家のスピーチなどでも頻繁に見かけるようになりましたが、下を向いて原稿を読むことなく、前を向いたまま原稿を読むことができる仕組みです。ニュース番組の場合、カメラのレンズに原稿が映り込む仕組みになっているのです。

当初、その仕組みを知らなかった視聴者は、スラスラと読み上げる女性キャスターに驚き、「カメラに向かったまま喋り切るということは、ニュースの内容が全部、彼女の頭の中に入っているからだ、こんなに頭のいい人はいないということで、ぜひうちの孫や息子の嫁に来てほしい、といった手紙がNHKに多数寄せられた」といいます。まったく情けないエピソードですが、女子アナがどのように見られていたかが分かるエピソードです。

「その通りだ」「よく言った」が殺到した説教

著者の松平さんは、当時NHKのアナウンサーだった久保純子さんが番組で「ナニゲニ」という言葉を使った際、放送中にもかかわらず「『ナニゲニ』は次からは『何気なく』って言いましょうね」と諌めたそう。そうすると、「弱い立場の女性を公衆の面前で罵倒するとは何事か」という怒りの意見はごく少数で、その殆どが「その通りだ」「よく言った」というお褒めの言葉だったといいます。(それがNHKだったからという特性もあるでしょうが)視聴者が女子アナに求める気質を物語っています。

ワイドショーを観ていると、まるで大学のサークルのようにざっくばらんな応対で騒ぎ立てることもあれば、次の瞬間、やたらとかしこまった表情でニュースを読み始めるアナウンサーが目立ちます。この二つが併存していることを、みずからを「小言幸兵衛」を名乗る松平さんは歓迎しないでしょうが、キチンとした日本語と、いわゆる「女子アナ」的親しみやすさを共にこなすことを求めているのは誰か。視聴者です。「正しい日本語を使ってくれ」「女性らしくいてくれ」という傲慢な願望に応えている、とっても特殊な職業だといえます。

(文:武田砂鉄)

アナウンサーの日本語論

著者:松平定知
出版社:毎日新聞社

日本を代表するアナウンサーによる日本語指南。誰よりも真剣に言葉と向き合ってきた著者が、日本語の読み方、聞き方、伝え方について体験的に語る。

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