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”正露丸”は、その昔は”征露丸”だった

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20世紀のはじめ、陸軍の軍医をしていた森鷗外らが「ケレヲソートという薬が効く」と働きかけ、これを軍が採用した。ケレヲソートとは、木クレオソートのことで、そう誰もが知っているおなかの薬、正露丸のことだ。

日露戦争では、この薬がたくさんの日本の兵隊を守ったという。当時は「征露丸」と書かれていたが、文字通り、ロシアを征服するという意味で征の字が使われていたそうだ。

薬の評判は瞬く間に日本全国に伝わり、中島佐一という人が“忠勇征露丸”を発売したのが、家庭の常備薬としてのはじまりだった。

正露丸が悪い薬と間違われた理由

正露丸のひみつ』(おぎのひとし・漫画、YHB編集企画・構成学研パブリッシング・刊)は、明治時代から日本人の胃腸を守ってきた正露丸のすべてが明らかになる一冊。まんがなので難しい成分についても、すいすいと頭に入ってくる。

ところで「正露丸は悪い薬だから、飲んではいけない」という人がいるが、その間違いは主成分の名前にある。

正露丸のおもな成分の「木クレオソート」のことを名前がよく似ている「石炭クレオソート(クレオソート油)」とまちがえた人がいたんだ。「クレオソート」という名前は同じだけど、2つはまったく別のものだよ。「石炭クレオソート」は石炭から取り出されたもので、線路の枕木や電柱など、木がくさらないようにぬる防腐剤として使われている。がんを発生させる発ガン物質であるともいわれている。

正露丸に使っている「木クレオソート」は植物から取り出した成分だよ。においには森林のいやしの成分がふくまれていると考えられているよ。

(『正露丸のひみつ』から引用)

木クレオソートの歴史

正露丸の主成分である「木クレオソート」の歴史は古代エジプトにまで遡る。当時、身分の高い人はミイラになれたが、その防腐剤に使われていたのが木タールで、木クレオソートはこの木タールから取り出される成分だ。

時代は1830年のドイツに飛び、化学者のカール・ライヘンバッハが、ブナの木から木クレオソートを精製することに成功。木クレオソートは化膿止めの塗り薬として、また殺菌作用を期待して下痢のときに飲むようになったそうだ。

これが日本に伝来したのは1839年の江戸時代のこと。オランダ商館長ニーマンが「ケレヲソート」という名前で長崎に輸入した。

その後、アメリカでは南北戦争の時代に、木クレオソートは消化器の病気を改善すると高く評価されることとなった。

ちなみに、木クレオソートは長年、ヨーロッパからの輸入に頼っていたが、1991年には日本にも木クレオソートの工場(大幸薬品の正露丸工場のひとつ)が山形県小国町にでき、稼動している。ブナの森が自慢の土地で、それらの木から抽出された木タールを7回も蒸留精製することで質のよい木クレオソートが完成するのだそうだ。

良薬は口に苦し

正露丸の独特のニオイは木クレオソートによるものだ。苦手な人も多いかもしれないが、私は嫌いではない。というか、正露丸だけは、いつどこにいても手放せない常備薬なのだ。20年間も外国暮らしをしていたが、その間も風邪薬や解熱剤などは現地の市販薬でよくても、胃腸薬だけは「正露丸じゃなきゃダメ」だったのだ。

下痢、食あたり、胃もたれなど、どんなときも、あの黒い丸薬3粒が症状を緩和してくれた。だから娘にも小学生になった頃から、おなかの調子が悪いときは正露丸を飲ませていた。

娘は正露丸のことを「千尋のおくすり」と呼んでいた。『千と千尋の神隠し』が大好きだった娘は、赤い丸薬や神様のにが団子を千尋が我慢して飲み込むシーンを思い出しながら、「くさ~い! だけど、我慢して飲めば、おかなが治るね」と言いつつ、正露丸を服用していたものだ。

ところで、木クレオソートはどうして腹痛や下痢を止めることができるのだろう。

木クレオソートの2つのはたらきがおなかの痛みや下痢をやわらげるよ。1つは腸の動き(ぜん動運動)を正しい状態にもどすはたらき2つめは腸の中の水分の量を調整するはたらきだよ。正露丸を飲むと、木クレオソートのほとんどは胃から血液の中に吸収されるよ。

(『正露丸のひみつ』から引用)

木クレオソートには殺菌、消毒作用はあるが、腸の中にいる乳酸菌やビフィズス菌など体にいい菌は殺さないのも特長だ。

ラッパのマークかそれ以外か

わが家では正露丸は“ラッパのマーク”のものを常備している。しかし、正露丸には類似品が多く、また、何度も訴訟になってきた。

が、現在のところ“正露丸”は普通名称になっているので、薬店では各メーカーのものが並んでいるし、価格も様々。比較するとしたら、成分と分量。木クレオソートをいちばん多く含むのがラッパのマークのようだ。

(文:沼口祐子)

正露丸のひみつ

著者:おぎのひとし(漫画)、YHB編集企画(構成)
配信ストア:学研BookBeyond
古くから日本に伝わるおなかの薬、正露丸。どんなときに飲む薬なのかな?いったいいつから使われはじめたのだろう?
どんな原料を使ってつくっているのだろう?この本を読めば、今まで知らなかった正露丸のひみつがぜんぶわかっちゃうよ。

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