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最貧困シングルマザーが「出会い」を求める理由

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シングルマザーという用語は、いわゆる「未婚の母」を指して使われてきた。最近では「離婚歴がある一人親世帯の母親」を指す場合も多い。

私にはシングルマザーの知り合いがいる。仮に「A子さん」としよう。

A子さんは2度の結婚を経験している。1人目の夫とはDV(家庭内暴力)が原因で離婚した。前夫の子を連れて2度目の結婚をしたのち、新たに2人の子を授かった。しかし数年後に、再婚相手が病気で亡くなってしまう。

彼女は、父親がちがう4人の子どもをかかえるシングルマザーになった。

貧しいけれど幸せな母子家庭

シングルマザーのA子さんは「北斗晶」似の肩幅が広い女性だ。はじめて会ったときには女子プロレス経験者かと思った。彼女は大型運転免許所持者であり、朝から晩までダンプのハンドルを操縦してバリバリ稼いでいた。

4人の子どもたちの世話は、近所に住む「A子さんの老親」が引き受けていた。私はA子さんの自宅アパートに招かれたことがあるが、年長の子がいやな顔ひとつせずに弟や妹たちの面倒をみていた。

A子さんの稼ぎは世間並みだが、4人の子どもをかかえているので生活はカツカツだと言っていた。男の働き手がおらず、シングルマザーである彼女の家庭は「貧乏」だ。しかし「貧困」というほどではない。

いま「貧困」に苦しむ多くのシングルマザーが助けを求めている。それは「出会い系サイト」で生活費を稼がざるをえない「離婚歴がある一人親世帯の母親」たちだ。

「貧乏」と「貧困」はちがう

最貧困シングルマザー』の著者・鈴木大介さんは言う。

貧困とは低所得や無収入といった金銭的困窮に加え、相談や支援を期待できる人の縁からも隔絶し、もう一歩も進めないほどに疲弊し尽くした状態なのだ。

(『最貧困シングルマザー』より引用)

頼れる両親や親戚がおらず、相談する友人もいない。貯金がなく、別れた夫からは養育費をもらえない。働き口を探しても「おさない子がいる」と答えれば電話口で断られてしまうことが多いという。

収入がないので、消費者金融で生活費を工面することになる。それも焼け石に水だ。あっというまに借入限度額に達する。追い詰められた彼女たちが向かう先は、性風俗産業だ。

最貧困におちいる罠(わな)

意外な事実を述べる。鈴木さんが取材した「出会い系のシングルマザー」たちは、ほとんどが「もともと風俗産業には一度も就業したことがない」という。

これは「就業できなかった」というほうが正しい。次のような考え方はけっして許されないし憎むべきものだが、性風俗産業にとって女性は「商品」だ。働きたいという申し出に対して断られてしまう――つまり「商品価値」がないことを意味する。

「風俗産業には一度も就業したことがない」という出会い系のシングルマザーたちは、容姿や心身の健康においても「貧困」であり「持たざる者」なのだ。こうして、最貧困である彼女たちは、個人でも「売る」ことができる「出会い系」に漂着する。

なぜ生活保護を受けないのか?

最貧困シングルマザー』の取材対象者(およそ20名)のほとんどが、生活保護を受けたことがなかった。

「不受給」の理由はさまざまだ。

ひとつは、児童扶養手当や生活保護の申請窓口における責め立てだ。「なぜ働けないのか」「元夫に養育費を支払うようもっと催促すべきだ」「家族以外の同居(彼氏)がいるんじゃないか」「いた場合は返納しなければいけない。それでも申請するか?」など。心身ともに疲れ果てているシングルマザーたちは、あきらめてしまう。

取材した出会い系のシングルマザーたちが最も恐れていたのは「生活保護費の受給者に対する差別」だった。

子どもが地域や学校で白眼視されることが怖いのだという。いくら先進国と言い張っても、この国には日本的ムラ社会のにおいが色濃く残っている。公的扶助の受給者のプライバシーが守られているとは言いがたい現状があるようだ。

「婚活できないから」という回答も数例あったという。一見すると珍妙に思えるかもしれないが、生活保護を受けてしまうと「出会い」がなくなるというのだ。寄ってくるのは受給費目当てのヒモかヤクザくらいなのかもしれない。彼女たちの過酷な日々をおもえば、恋人(頼りになる男性や子どもの父親)を求めるという心情はよくわかる。

自己責任論が見逃していること

出会い系のシングルマザーたちは悲惨だ。1年以上の取材を通じて、著者の心はすこしずつ削られていくようだったという。

いまの日本において、貧困にあえいでいるのはシングルマザーだけではない。離婚や売春という部分をあげつらって「自業自得だ」と見る向きもあるだろう。

著者の鈴木さんは言う。「福祉に支えられて生活するシングルマザーに対するバッシングは、本当に凄まじいものがある」と。その一方で、今回紹介した最貧困シングルマザーたちは生活保護を受けず、まさに「カラダを売って」女手ひとつで子育てをしている。

つまり「もらっていても、いなくても」シングルマザーであるというだけで差別され非難されてしまう状況が、この国にはびこっているのだ。たとえ「自業自得」なシングルマザーといえども、その背後では罪のない子どもが息をひそめるようにして暮らしていることを忘れてはならないと思う。

(文:忌川タツヤ)

最貧困シングルマザー

著者:鈴木大介(著)
出版社:朝日新聞出版
『最貧困女子』が話題の著者による問題作!! いまや働く単身女性の3人に1人が貧困といわれる日本。虐待、DV、うつの末、貧困の蟻地獄に堕ち、出会い系サイトで売春するシングルマザーの実態に迫った、衝撃のルポルタージュ。途方もない孤独感と絶望感の中で、母親たちは出会い系に「救い」を求めていた――! 「格差の中間にいるあたしたちが、彼女たちを知らなきゃと思う。明日は我が身かもしれないのだし」――(室井佑月さん)

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