名作映画のロケ地を旅してみたい

まもなくカンヌ国際映画祭がはじまる。
2017年はどんな作品がパルム・ドールを獲得するのか注目だ。また、カンヌでは例年、世界中から集まってくるセレブたちがレッドカーペット上で見せる華麗なドレス姿にも人々の目は釘付けとなる。
さて、映画は観るのも楽しいけれど、憧れの俳優、女優たちが名画の中で立った場所、歩いた道を実際に訪れるという楽しみもある。
『名作シネマで旅する世界の街角』(ニューズウィーク日本版編集部・著/CCCメデイアハウス・刊)は、ロケ地を旅してみたい人は必見の手引書だ。
パリは映画監督たちの理想の街
ロマンスと陰謀、美しい自然光と歴史的建造物の数々。パリは映画監督にとって理想の街だ。これまで映画のロケ地として用いられた場所は、推定5000ヵ所以上。毎年、15作前後の外国映画が撮影されている。
(『名作シネマで旅する世界の街角』から引用)
パリの魅力は時を経てもその風景が変わらないことだと思う。目まぐるしく変化する東京と比べると、パリの街はいつの時代も同じなのだ。変わるのは人々の服装とブティックに並ぶ商品くらいで街並みや建造物には変化がない。
本書で紹介している2011年のウッディ・アレン監督作品『ミッドナイト・イン・パリ』は、主人公が夜に散歩しているうちに1920年代にタイムスリップしてしまうストーリーだが、時代を超えたパリの魅力を最大限に表現していて私も大好きな作品だ。
アメリカ人の小説家がサンテティエンヌ・デュ・モン教会の階段で20年代のパリにさまよい込んだとき、そのことに主人公も観客もすぐ気付かない。それくらい、今のパリは昔の面影を残している。主人公はリュクサンブール公園近くのレストラン「ポリドール」で、文豪ヘミングウェイと出会う。映画では、主人公が現代に舞い戻るとレストランがコインランドリーに変わっているが、実は「ポリドール」は今もほぼ昔の姿のまま残っている。
(『名作シネマで旅する世界の街角』から引用)
パリの人々は映画スターを無視できる
ところで、パリは、セレブたちの素顔を見かけられる街でもある。
カトリーヌ・ドヌーヴがカフェで他の客と同じようにテラス席に座っていた、ハリソン・フォード夫妻がマレ地区を散歩していたなど目撃情報だけは知人友人たちから入ってくるが、ファンに囲まれて握手攻め、サイン攻めにあっていたというような話は聞いたことがない。だからセレブたちも、パリでは安心して“普通の人”として振舞っているようだ。
なぜか? パリの人々はスターを横目でちらりとは見ても、そのあとは無視できるのだ。フランス人は気位が高いので、有名人に舞い上がる姿など人に見せたくないという感情も大いにあるようだが、それ以上に、パリの空気が深追いを許さないのかもしれない。
何を隠そう、私もサンジェルマン・デ・プレの裏通りで、犬を散歩中のジャン・ポール・ベルモンドとすれ違ったことがある。朝の早い時間で付近には他に誰もいなかった。小型犬のリード持ったベルモンドは、狭い歩道で私とすれ違うとき「ボンジュール」と小さな声で言った。で、私も「ボンジュール、ムッシュ」と答えた。
日本では見知らぬ人と挨拶をする習慣はないが、フランスでは人通りのない場所では、怪しい人間ではないことを表明する意味ですれ違うときには、こんな風に挨拶をするのがマナーなのだ。
さて、ほんの一瞬だがベルモンドと目が合った私は、心臓がバクバク、心の中ではキャ~!と叫んでいた。それでも、知らん顔をして通り過ぎないといけないと思い、そのまま歩いた。50メートルくらい離れてから、そっと振り返ってベルモンドの背中を見ていたら、私はたちまちゴダール監督の『勝手にしやがれ』のワンシーンの中に自分が紛れ込んだような気分になったものだ。
映画で巡る世界ツアー
本書では、パリの他には、ロンドン、ソウル、アメリカ西海岸、リオデジャネイロ、中国の長江を舞台にした映画の数々をあげ、それぞれの街の魅力を紹介している。
たとえば、ロンドンでは2002年公開の『28日後…』を筆頭に取り上げている。
人間を凶暴にするウィルスの蔓延で壊滅状態になるロンドンを舞台にしたSFホラー映画。この最初のシーンは他に例を見ないロンドンツアーになっている。
映し出されるのは、普段は活気にあふれている場所ばかり。人々が出会い、観光客がカメラに向かってポーズを取り、人々が働き、買い物をし、バスを待つ場所。そんな所がすべて空っぽだ。何とも恐ろしい光景だが、おかげでロンドンの美しさが際立っている。
(『名作シネマで旅する世界の街角』から引用)
この他には『長く熱い週末』『007 ワールド・イズ・ノット・イナフ』『ウィズネイルと僕』『ノッティングヒルの恋人』『ひかりのまち』などで、さまざまなロンドンの風景、そして人間を垣間見ることができる。
そして映画といえば、ハリウッドを忘れてはならない。
世界のどの都市よりも、ハリウッドは「自分が大好き」。だから映画でも、カリフォルニアや西海岸を夢や憧れの地として描きたがる。無限大の可能性があり、本物の冒険が味わえる場所として―。
(『名作シネマで旅する世界の街角』から引用)
『雨に唄えば』はハリウッド讃歌そのもので、『アーティスト』もハリウッド名作へのオマージュとなっている。
また本書では巻末に旅のテーマ別におすすめ作品をあげている。<グルメ>、<音楽>、<自然>、<バカンス>、<世界遺産>。それぞれをテーマにした映画とそのロケ地を解説してあり、次の海外旅行の行き先選びの参考になる。
(文:沼口祐子)


名作シネマで旅する世界の街角
著者:ニューズウィーク日本版編集部
出版社:CCCメディアハウス
海外旅行より面白い名作シネマの旅へようこそ! 観光旅行では見えない、映画だけが描き出せる世界の都市の魅力を綴ったコラム集。
*この電子書籍は、「ニューズウィーク日本版4月30日・5月7日合併号」に掲載された特集から記事を抜粋して編集したものです。
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