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自分でも意識せずに相手を思いどおりにしようとする人たち

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最近、これまでの人生の中で考えられなかったほど、年上の人たちと話す機会が多い。少し前に父親が亡くなり、友人や知り合いの人たちと顔を合わせることが続いたからだ。そんな中、気づいたことがある。

定型化トーク

最初のうち、人数で言えば3人目くらいまではなんとも思わなかったんだけど、4人目5人目となると、それぞれの話に独特のテンポと流れを感じるようになり、それに加え、明らかなパターンがあることがわかった。

まず、「このたびは…」というお悔やみのお言葉をいただく。ひとしきり思い出話があって、「それで、家とかはどうするの?」という実務的な話になる。流れに乗ってこちらが話し出すと、途中で「知り合いの不動産屋がいるから、紹介しようか?」と言われてこのくだりが終わる。

さらに思い出話パート2をはさんで、「で、年金とか貯金とかの手続きは終わったの? 誰か紹介しようか?」と言われる。今度は、こっちが話す間もない。そして「世間一般では…」とか「普通は…」という言葉から始まる“こうするべきだ”的な話がしばらく続く。

このセットが2回続いて、「老婆心ながら、自分はこう思う。いや、こうしたほうがいいに違いない。それですべてがうまく収まるはずだ。老婆心ながらね…」というくだりが2回繰り返される。別れ際に「老婆心ながら」の部分がさらに続いて、「じゃあ、私の知り合いの連絡先を教えておくから、話をしてみなさい」と言われて終わる。

こうした人たちは――筆者のごく最近の実体験に限って言えば――ほとんどの場合、自分が言っていることの正当性をそれとなく匂わせ――「世間一般では」とか「普通は」といった言葉がちょいちょい挟まれる――、自分が思い描く通りの行動をするよう期待しているようで、ちょっとムカつく。

さらに踏み込んでくる人

もうひとつしておきたい話がある。父が亡くなった直後、「建物は残して、たとえばシェアハウスみたいな形で運用して、土地ごと有効利用しながら収入を得る方向で考えれば?」と持ちかけてきた父の知り合いの不動産業者がいる。ところが最近は、「建物は潰して土地だけを売ったほうがいい」というふうに話がまるで変わった。この人、何かにつけて「手元に少しでもお金が残るほうがいいでしょ?」と言う。「このあたりの地価、下がってるんだよね」なんていう言葉もタイミングよく吐く。早く見切りをつけて家を潰し、土地を売れということなのだろうか。そういう着地点をあらかじめ決めた上で、自分がすべてを仕切ろうということなのか。

「あなたのこと、本当に気にかけているんですよ」というトーンで話を進め、最終的には自分の思いどおりに持っていこうと説得を試みるのだ。なんとなくマインドコントロールされているような気になって、イラっとしていることが顔にも出てしまう。

説得とは何か

著者が最近出会った人の行いをマインドコントロールと決めつけるのは極端だろう。ただ、前述したような状況の中で見つけた『説得の科学―何が人の心を動かすのか』(安本美典・著/PHP研究所・刊)という本を読み進めるうちに、説得という行いについて思い当たることがあった。

すなわち、まず、目的においては「正しい説得では、自分も幸せになり、相手も幸せになることを目ざす。自分の幸せのために、相手が不幸になってもかまわない。とにかく説得して、こちらに、相手を従わせる、というのは、マインドコントロールに近くなる」

『説得の科学―何が人の心を動かすのか』より引用

筆者が年長者たちの説得にいらだちを覚えた最大の要因は、一般論に乗っかる形で自分の意見を押し付けてくる態度だ。これは、安本さんが挙げる正しい説得の定義とはほど遠い。自分の意見を一番耳に心地よいであろう一般論でコーティングして押し付けたり、自分の思いどおりにしようという意図を盛り込んだりしたら、相手との間にコンセンサスなど生まれようがない。コンセンサスが生まれる可能性がまったくなければ、説得という行いそのものが存在しえないのではないだろうか。

じゃあ、彼らはどう話を進めるべきだったのか。言い方を変えれば、やや傲慢な響きになってしまうけれども、どうすれば筆者を不快にすることなく話を終えることができたのか。欠けていたのは、安本さんが言う「自分も相手も幸せに」という思いだろう。これを少しでも意識していたら、結果は違ったはずだ。

まずは自分の説得力を知ろう

本書は、説得というコーティングを施された形で行われるマインドコントロールの見きわめ方から始まり、具体例をケーススタディ的に語っていく。そして説得とマインドコントロールの境界線をはっきりとさせ、今度は説得という行いについて深く掘り下げていく。巻末にある説得力診断フローチャートも実用的で、かつ楽しめる。

マインドコントロールまでいかなくても、なんとなく相手の言いなりになっているような気がすることがありませんか? 何でも相手のペースでものごとが進んでいるような気がしませんか? まだ遅くありません。相手の口調に感じられるのは「自分も幸せになり、相手も幸せになる」響きですか? それとも「とにかく説得して従わせる」意図めいたものですか?

一度確かめてみた方がいいかもしれません。まずはこの一冊から始めましょう。

 (文:宇佐和通)

説得の科学

著者:安本美典
出版社:PHP研究所
人の一生は説得の連続である。学校の授業、会社の会議や取引、演説、子供の教育、そして恋愛…あらゆる場面で説得力を養うことこそ、思いどおりの人生を送るための鍵なのである。では、どうすれば説得力を身につけることができるのか、また詐欺やマインドコントロールに引っかからないためにはどうすればよいのか。第一線の心理学者が豊富な事例をもとにその具体的方法を紹介する。

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