ハウツーが満載のコラム
文字サイズを変更する

歴史にまなぶ「偉大なスピーチ」の条件

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る

たかが、スピーチ。
されど、スピーチ。

ドナルド・トランプ氏は、まさにスピーチ(演説)によって、アメリカ合衆国大統領の座を勝ち取りました。
たったひとりの人間が発した言葉が、歴史を動かしたのです。

スピーチの天才100人』(サイモン・マイヤー、ジェレミー・コウルディ・著 池村千秋・翻訳/CCCメディアハウス ・刊)は、社会に大きな影響を及ぼしたスピーチを紹介しています。

マーティン・ルーサー・キング・ジュニア

正義が洪水のように流れ、恵みの業が大河のように尽きることなく流れる日が来るまで、私たちはけっして満足しません……今日、私には夢があります。

(『スピーチの天才100人』から引用)

マーティン・ルーサー・キング・ジュニア氏は、アフリカ系アメリカ人の牧師です。
キング牧師は、非白人に対するアメリカ国内の差別を撤廃するために大きな役割を果たしました。

キング牧師は「バス・ボイコット運動」によって、頭角をあらわしました。
あるとき、白人客にバスの席をゆずらなかったという理由で、黒人客が逮捕された事件がありました。
その事件が起きたバスは、アラバマ州モンゴメリー市運営のバスであり、つまり公共の交通機関でした。
1955年当時のアメリカ南部州の多くでは「公共の場における非白人の隔離(実質的な人種差別)」が法的に禁じられていなかったのです。

これに怒ったキング牧師は「人種差別をおこなったバス会社を利用しない」という非暴力主義による抗議運動を呼びかけます。
それから1年後、利用客が激減したモンゴメリー市のバス事業は財政破綻におちいり、先の逮捕事件について連邦最高裁判所が「違憲判決」を下します。

「バス・ボイコット運動」をきっかけにして、キング牧師は「アフリカ系アメリカ人公民権運動」を主導します。

キング牧師たちの非暴力主義による「人種差別撤廃」の呼びかけは、非白人の民衆の多くを奮い立たせて、白人の賛同者をも増やしていったのです。
そして「バス・ボイコット運動」から10年後には、アメリカ国内でのあらゆる人種差別を禁じる「公民権法」の制定を勝ち取りました。

先ほど紹介した「私には夢があります(I Have a Dream)」を含むスピーチは、公民権法が制定される前年に、ワシントンで集まった20万人の聴衆に向けて発せられたものです。
ひとりの人間のスピーチが、歴史を動かしたのです。

アウン・サン・スー・チー

おっしゃるとおり、私は国外で生活していました。外国人と結婚していることも事実です。ですがそれによって、私の祖国に対する愛と献身がこれまでに損なわれたことはまったくなく、これからもそれはありえません。

(『スピーチの天才100人』から引用)

アウン・サン・スー・チー氏は、ミャンマー(旧名ビルマ)の民主化運動家です。かつての軍事政権下における野党の党首でもありました。
2017年現在は、党首を務めていたNLD党が総選挙で圧勝したことにより、ミャンマー民主政権における最高指導者の地位にあります。

アウン・サン・スー・チー氏は、生まれはミャンマーですが、イギリスのオックスフォード大学で教育を受けています。
そのあと20年以上をニューヨークやロンドンで過ごしており、勤務先で出会ったイギリス人男性と結婚しています。
その気になれば、ミャンマーを支配していた軍事政権とかかわらずに、亡命というかたちで先進国暮らしを続けることもできました。

しかしアウン・サン・スー・チー氏は、1988年に母の危篤の報せを受けて、ミャンマーに帰国します。
その後、当時の軍事政権によって通算15年以上の「自宅軟禁」生活を強いられることになります。

先ほど紹介したスピーチは、外国暮らしが長かったアウン・サン・スー・チー氏が、ミャンマーへ帰国した直後に「祖国の民主化運動に全人生をささげる覚悟」を民衆に訴えかけたものです。
スピーチの言葉が「海外帰りのインテリの理想論」でなかったことは、ミャンマーの国民だけでなく、世界中の人々が思い知らされることになりました。

偉大なスピーチは「偉業」を先取りしたもの

本書『スピーチの天才100人』には、ほかにも素晴らしいスピーチをおこなった古今東西の人物が紹介されています。

100人分のすばらしいスピーチを読んで気がついたのは、偉大なスピーチは「自慢話」ではないということです。
なぜなら、偉大なスピーチとして語り継がれているものは、偉業を達成する前に「決意表明」としておこなわれたものが多いからです。

耳ざわりの良いフレーズを並べて理想を語るだけでは、仲間や賛同者を得ることはできません。
偉大なスピーチの本質とは、語句そのものではなく、呼びかけたメッセージを実現しようとする「決意」と「信念」にあるようです。

(文:忌川タツヤ)

スピーチの天才100人

著者:サイモン・マイヤー、ジェレミー・コウルディ
出版社:CCCメディアハウス
スティーブ・ジョブズ、ジャック・ウェルチ、ジョージ・クルーニー、アウン・サン・スー・チー、ラニア王妃、小泉純一郎……
力強い言葉と巧みなコミュニケーション力で、人々の心を鼓舞し、社会に大きな影響を与えた名演説家たち。
スピーチの組み立て方から言葉の選び方、表現の仕方まで、達人たちの“人を動かす”話し方のテクニックを徹底解説。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る

関連記事