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飲んでも、読んでも、美味しいウィスキー

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子供というのは、寝て欲しいときには寝ず、寝て欲しくないときに限ってぐっすり寝る。
これが私の実感である。
息子が小さい頃、「今日は早く寝かしつけて、録画しておいた映画をみよう」と、楽しみにしていると、これがまず、寝ない。一体どうなってるのかと思うほど、深夜になっても、お目々はパッチリ。必死で寝かせようとすればするほど、幼子の目はさえる。そのくせ、電車の中でもうすぐ降りるというときになって死んだように寝てしまい、荷物を抱えて、立ち往生だ。
これは何か対策を考えなければいけない。ではいった何をしたらいいのか。

寝かしつけるにはやっぱり絵本

それでも、赤ん坊の頃は、ミルクを飲ませ、おむつをかえて、少し抱いていると息子は眠った。手のかからない子だった。
ところが、3歳くらいになると、寝かしつけに手こずるようになった。何冊も何冊も、繰り返し、本を読んでやらないと寝ない。お気に入りの本が決まっていて、それを枕の横にうずたかく積んで、待っている。
まあ、これも母親のつとめだなと読み始めると、これがけっこうおもしろい。
次第にこちらも興奮してきて、声色など使い、朗読に熱が入る。結局、母と子で、夜の朗読大会のようになってしまう。

同じ本ばかりじゃね~~

息子は好みが偏った子供で、同じ本ばかりを選ぶ。最初は面白くても、じきに飽きる。息子ではなく、私が飽きるのだ。「また、これ?」と、言いたくなる。面倒くさいから、手抜きして何行か飛ばそうものなら、目をつぶって、今にも眠りに落ちそうだった息子の目がぱちっとあき、「ママ、そこ違うでしょ」と鋭いクレームが・・・。
だったら自分で読んでよねと、言いたくなるがそうもいかない。
そこで、私が読みたい本を読むことにした。

選んだのはウィスキーの本

息子のリクエストする本をノルマとして読んだあと、私はウィスキーの蒸留所を旅する本を読むことにした。
ウィスキーの蒸留所巡りをするのが、大学生の頃からの夢だったからだ。いつかは実現したいと思うものの、夢のまた夢。子育て中では、不可能だ。ウィスキーを飲むことさえ、ままならぬ日々なのだ。それでも、本を読むと、実際に旅をしているような錯覚にとらわれる。眠る前、ひとときの夢を味わうのに、これほどふさわしい本はない。
息子が文句を言うと思っていたのだが、黙って聞いていて、やがて眠った。
ウィスキーは飲まなくてもナイトキャップになると、このとき知った。

ぞっとしたこと

やがて息子は大学に進学し、家を出て行った。
そして、夏休みを利用して、一人でイギリス旅行に出かけた。
彼は時々、旅先から電話をかけてくれた。
「今、どこそこだよ。元気だよ」と、一方的に言うだけの短い電話だったが、奇妙なのは、私がかつて絵本で読んでやった蒸留所をそのままめぐっていることだった。
そんな、まさか・・。最初は信じられなかった。
本人は気づいているのだろうか。子供の頃、寝物語に聞いた土地を訪ねているということを。
しかし、電話の向こうから「今日はさ、もうすぐしまっちゃう蒸留所のおじさんがすごくよくしてくれたんだよ」と、報告する場所は、私がかつて読んでやった本に登場していた。
30年後の今、私は『シングル・モルトの愉しみ方』を読みながら、ウィスキーをなめ、眠りに落ちる。日本で飲めるすばらしいウィスキーが網羅されているから、わざわざ海外まで出向く必要はない。

飲んでも、読んでも、ウィスキーは美味しい。それを実感させられる本である。

(文:三浦暁子)

シングルモルトの愉しみ方

著者:田中四海(編・著) 吉田恒道(編・著)
出版社:学研パブリッシング

日本で手に入るシングルモルトウイスキーの全ガイド。初心者向けに、バーで困らない注文法や購入法、基礎知識から、ウイスキーの味のポイントである蒸留所の情報や製造工程のうんちく、通な飲み方までを豊富な写真とともに丁寧に解説する。

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